王様、リアルキス
イプの寝顔、なんて可愛いんだろう--。
そんな事を考えながらアランは今夜も、イプウォッチング。
だが、眺めるだけでは足りなくなってきたのを感じる。
一度会ってしまってからは、鏡を見るたびに会いたくてたまらなくなる。
その時、2階にあるイプの部屋の窓がゆっくりと開いて男が入ってきた。
思わずアランは立ち上がった。
浅黒い顔をした若い男は寝ているイプのそばに静かに近寄るとじっと顔を眺めた。
ベッドの横の床に座り込んで、しばらくイプの顔を熱い瞳で見つめていた。
アランはたまらずクソっと言って頭をかいた。
男の顔がゆっくりとイプの顔に近づいていく。
アランは「起きろ!イプ」
と叫んでいた。
唇が重なろうとしたその時、
イプが目を覚ました。
男は急いで、顔を離す。
アランは心底ホッとした。
イプは眠い目をこすりながら、男と話しをしている。
どうやら知り合いのようだ。
しばらく話をすると、イプは満面の笑みで男に抱きついた。大喜びしている。
男は愛おしそうにイプの背中に腕を回した。
「うおおおおおおお」
アランは気が触れたかのように悶えた。
その後、何事もなく男は手を振って窓から帰って行ったのでアランは落ち着いて椅子に座りなおすことができたが。
落ち着いてみるとあの男に見覚えがあった。
イプにくっついていた少年、海洋学校に送り込んだロクジョウだ。
筋肉隆々として日に焼けた肌、黒い短い髪の毛、以前会った時はまだ少年のようだったが、背丈も伸び、今は立派な船乗りに成長していた。
イプは眠れないといった様子で、
アルシオンの手入れと、アランから貰ったバッグに少ない私物を詰め込み始めた。
また何処かへ行くのか?
アランは楽しそうなイプと対照的に不安な気持ちでイプを見つめている。
イプは手紙らしいものを書いて、小さなテーブルの上に置いた。どうやら家族にも内緒らしい。
ロクジョウが来て1時間ほどでイプも窓から外に飛び出した。
真夜中の道を月の光をたよりに走っている。
「ああ----やはり----。」
アランが想像した通り、
イプがたどり着いたのは港だった。
港にはロクジョウと船の乗組員達が待っていた。
だがイプはすぐには船に乗らず、
なにやらロクジョウと話をすると、再び走り始めた。
石畳のゆるい坂道を軽快に走っている。
目の前に王城が迫まってきた。
堀も軽々と飛び越え、高い塀も壁を走るように乗り越えた。
そして見覚えのある木を登り始める。
どうやら、アランの部屋に向かっているようだ。
バルコニーを振り向くと、
ストンとイプが現れた。
アランはテラスの窓を開けた。
イプ
「こんばんは、アラン。
起きてたの?
アラン
「ああ-------。
イプ
「ちょっと伝えたい事があって。
アラン
「------。
イプ
「僕、今から貿易船に乗せてもらって旅に出るんだ。
おばさんはきっと止めるから、内緒にしてた。
ちゃんと手紙は書いたけれどね。
ディートにも。
だけど、なんだかアランにはちゃんと言っておこうと思って、来たんだ。
アラン
「わかった-------気をつけて---。
アランの喉ははりついてうまく声が出ない。
イプ
「じゃあ、行ってくるね。
珍しいお土産もってくるよ。
アラン
「ああ------。
イプはにっこり笑うと、手を振って木に飛び移り、姿が見えなくなった。
(僕のイプがまた遠くに行ってしまった。
あの男と一緒に。)
アランはバルコニーに座り込んだ。
周りの景色が急に色を亡くしたかのように思える。
思考は停止してこのまま体ごと崩れ去ってしまうような感覚だ。
その時、バルコニーの手すりからイプの顔がヒョコッと現れた。
アランは目を見開いた。
イプは手すりを蹴って軽やかに飛び、そのままアランに抱きついた。
イプ
「アランってば-------、そんな死にそうな顔してたら行けないじゃないの。
アラン
「イ、イプ----。
イプは困ったように笑ってアランを見つめた。
イプ
「僕、捨て子でしょう?
だから、おばさん達と一緒に暮らしていてもなんだか1人なんだ。
みんな大好きなんだよ、それに優しい、でも1人なんだ。
だけど---なんでだろう---。
アランと一緒にいるとホッとする。
1人じゃない気がする。
変だよね。そんなにあったことないのにね。
僕、アランの事大好き。
そんなに心配しないで。
ちゃんと戻って来るから。」
そう言うとイプはもう一度、アランの首元に手を回して
ぎゅっと抱きついた。
イプ
「行ってきます。アラン
イプが身体を離そうとした時。
アランはイプの顔を力強く引き寄せて唇を重ねた。
イプは驚いて真っ赤になっている。
アラン
「イプ----僕の白鳥。
行っておいで、僕は待ってるから。
イプ
「うん----。
イプは旅立っていった。
そして、5年の歳月が過ぎた。
つづく




