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四法院の事件簿 2   作者: 高天原 綾女
事件発生
8/40

三章 目標捕獲 その1

     一


 電話が掛かってきたのは、ゴールデンウィークの中日に差し掛かった頃だった。

 一般サラリーマンは、大連休の真っただ中だろう。

 今年は十一日連続という自営業・自由業ではありえない長さだ。

 自分も塾講師という職に就いている。その為に、三連休よりも長い休みはこれまで貰っていない。

 それでも今回、前半に講義を固め、後半は悠々と休日を堪能できる。平常休日を含めて九連休だ。

 四年目にして、初めての長期休暇だった。

 午前中に洗濯物を洗い、散らかっていた書籍の整理を済ませた。

 簡単な昼食を取り、午後から撮り溜めていたDVDをゆっくり観る予定だった。

 テキパキと片付ける予定が、読書と並走したために午後三時を回っていた。

 点けっ放しにしているテレビから、未解決事件の特番が流れている。

 映っている番組内容は、五年前に神奈川で起きた京浜運河死体遺棄事件を取り扱っていた。

 その事件説明が終わると、番組のメインにしている不思議な事件。

 埼玉で起きた誘拐殺人事件を司会者が、おどろおどろしく取り上げた。

 事件の概要をイメージ映像を織り交ぜて放送している。

 事件内容が気になりながらも、DVDを取り出した矢先に携帯電話が鳴り出したのだ。

 携帯のサブ画面に【御堂】の名が出ていた。


「ハイ」

《すまない。今、大丈夫か?》

「大丈夫だよ」

《そうか。悪いが、また協力して貰えないか?》

「ん~。いいけど、何だい………」

《礼を言う。で、あいつの居場所は?》

「え~っと、四法院なら、デリバリーの仕事をしてるよ。正確な居場所は分からないけどね。」

《会社の場所は?》

「会社の場所は、旧防衛庁の付近らしいよ。六本木だから青山付近の会社に、よく届けているらしいよ。ちなみに、使ってるのは原付だそうだ」

《わかった。一度、本庁に来てくれないか?こっちで準備しておく》

「手荒な事は止してくれよ。不機嫌な四法院の扱いは大変だから………」


 返事はなかったが、理解してもらったと判断してよさそうだ。

 御堂とは高校の同級生だ。捜査が行き詰った時には、何度か相談に乗っている。

 ちなみに、四法院と云うのは共通の友人である。

 高校の同級生で、ひょんなことから現在まで友人関係を継続している。

 性格は………まぁ、なんだ。端的に言うなら、個性的だな。そう、非常に個性的だ。

 僕はその友人のお守役として、また緩衝材として、いつも同行させられる。嫌ではないが、大変な時も多い。

 四法院の必要以上に他者と摩擦を生む性格が、これまでのもめごとの大半を占めている事に、本人はまったく気付いていない。

 そんな事だから、数年前に重大殺人事件の容疑者にさせられるのだ。

 あまりにずさんな捜査と、自供を引き出そうとする偏重した取り調べが、結局、四法院が自ら事件を解決しなければならない状況を作ってしまった。

 もっとも、四法院の自宅から人体に関する書籍、死体の写真、画像、解剖のDVDに加え、警察資料からアダルト作品の数々があったため、そこから離れられなかったのだろう。

 四法院は作家業を志し、様々なモノを資料として集めている。それが誤解されたのだ。

 それ故、四法院の発言は無視され、是が非でも自供させようとする警察の姿勢は、他者を頼る事を諦めさせた。仕方なく、四法院は自力解決に乗り出したのだ。

 自分が情報を集めて的確に伝える。

 そして、蓄積、分析していくと鮮やかに事件を解決したのだ。

 そんな昔話を思い出しながら、着替えを終え、スーツの襟を正していた。

 議員秘書をしている谷元君が言っていた。

 役所に行く時は、服装を無難な堅さにした方が良いと。役所なんてところは、顔を知らなければ服装で判断する傾向がある。

 もっとも、外見で判断するのは役所だけでないが、その傾向が強いのは真実だろう。

 携帯電話と財布を持ち、髪を簡単に整えると玄関を出た。

車で行こうと思ったが、連休で都内は人口が激減しているだろう。電車に決定したが、警視庁本部ビルと言えば桜田門、そうなると有楽町線か………。


「乗り換えが面倒だな」


 そうは云ったものの、足は地下鉄の入口へ向かっていた。

 連休の三日目、しかも昼過ぎだけあって、車内は一両に数人しか乗っていなかった。

 都心の長期の休みはこんな感じだ。

 まるで、二時間に一本しか走らない地方のJRを利用したような気分だった。

 以上の理由から快適に移動を終えると、警視庁本部ビルの正面出口に立っていた。

 正面入口には棒を手にした屈強な警官が立っている。


「すみません。御堂管理官に呼ばれて来たんですが………」

「どうぞ」


 警官からそう言われ、頭を下げられると、道を開けてくれた。

 それにしても、何度来てもスゴイ建物だと感じさせる。

 巨大で豪勢で重厚感を感じさせる。広い正面入口は、照明を切っているのか薄暗い。

 そう思った瞬間、休日という事を忘れていた。エレベーターに乗り込み移動する。

 六階に止まり、扉が開くと騒ぎ声が聞こえてきた。


「テメーら!」


 聞き慣れた声だ。声のする方へ駆け足で向かう。

 次第に声と音が大きくなる。


「ジッとしていろ!」


 野太く乱暴な声、聞いたことのない声だ。

 声のする室内を覗くと、四法院が床に這いつくばっていた。

 屈強な刑事二名に押さえつけられているオマケ付きだ。

 僕は、状況が理解できないでいる。

 床に押さえ付けられている四法院、それを眺めている御堂。

 これから推察するに、御堂に襲いかかった四法院だが、無念にも取り押さえられた、という感じだろうか。


「御堂。これはどういうことだい?」


 僕の問いに、御堂は沈黙で応えた。


「んのやろんが、むんや…………」


 押さえ付けられている四法院が口を動かしているが、何を言っているのか理解できない。どうせイイ事は言ってないのは理解できる。


「放せ」


 御堂が言った。刑事が、四法院の上から退いた。だが、四法院は腕を捻じられたままである。

 四法院がゆっくり立ち上がり、殺意の籠った瞳を御堂へ向けた。


「御堂、どういうことなんだい?」


 その問いに四法院が答えた。


「コイツの命令で無理やり拉致されたんだよ。隣国のテロ支援国家の将軍様も顔負けだぞ」

「また無理やり連行したのかい?」

「無理やりだなんて、そんな生易しい言葉じゃない。罪状もないのに、人権侵害以外のなにものでもない」


 四法院が、つい二十分前の出来事を話し始めた。

 四法院は原付で、青山通りを表参道に向かって走っていたそうだ。

 それはバイトの仕事で、デザイン原画をクライアントの会社に届けるというものらしい。

 時間的には、往復四十分を目途にこなしているらしく、肉体的疲労よりも精神的に追われる辛さがあるらしい。

 会社側も締め切りに追われているせいか、かなり高圧的な態度で発注してくる。なかには、届ける時間が十分しかない時もあるらしい。

 そんな切迫した状況で、警察は道路で検問のような事をしていたらしい。

 検問で捕まると、間に合わなかったらしく、迂回しながら縫うように走行していたようだ。

もう少しでクライアントの会社だというのにパトカーに追跡された。

 ここで捕まれば完全に間に合わない。撒こうとしたが、警官の気力が普段と違っていた。警視庁管理官が、捕縛命令を出したのだ。管轄内で取り逃せば自署の失態になり、署長のキャリアに傷がつくのだ。

 赤坂署長は檄を飛ばし、署員たちのケツを蹴り上げた。

 四法院の原付は、あっという間に四方を包囲され減速させられた。だが、そこは四法院。

 原付を乗り捨て、裏路地と人混みに紛れたが、警ら隊に各路地口に先回りされ、終には捕縛されたらしい。

 交通課の警官の扱いは手荒かったらしく、四法院の顔には数ヶ所に擦り傷が見て取れた。

 それから、すぐ警視庁本部に連行され、目の前に御堂が現れた時、ぶちキレた。

 その数分後、僕が目撃した状態になったそうだ。


「永都、あの俗物に言ってやってくれ………」


 四法院の口調が大人しくなったことを受けて、腕を捻り上げていた刑事も害が無くなったと判断したのか、その腕を離した。

 四法院は乱れた服を直し、付着した埃を大袈裟に払った。

 御堂を口汚く罵る四法院を受け流しながら、御堂に視線を送った。すると、御堂は目で語っていた。

 何とかしろ。と、言う方は簡単だが、実行する方は困難だ。


「あれほど言ったのに………」


 心の中で呟いたつもりだったが、口に出ていた。

 的確に御堂へ聞こえている筈なのだが、反応が全くない。

 不満をぶちまけた四法院が、御堂に言った。


「とりあえず、俺が引っ張られた理由を聞こうか」

「公務執行妨害だ」


 当然のように答えた。


「公妨ね~。いつから刑事部は、公安部に吸収されたんだ?刑事部も転び公妨で捜査するのか?」


 公安部の名を出すと、刑事たちの目つきが変わった。


「転び公妨ってなんだい?」


 僕は、聞きなれない単語の意味を尋ねた。


「“転び公妨”って言うのは、公安部の伝統ある捜査手法さ。被疑者に浮上したが、引っ張れる証拠すら無いとき、相手に話しかけて公安捜査員が勝手に転ぶ、それであたかも暴行を受けたかのように喚き散らして相手を逮捕することさ」

「まさか、日本の警察組織がそんな無茶苦茶するわけが………」

「嘘だと思うなら、御堂に聞いてみなよ」


 僕は、御堂に視線を送った。御堂はゆっくりと頷くだけだった。


「呆れたな。それだと戦前の憲兵と変わらないじゃないか」


 率直な感想を言った。

 四法院は後頭部を掻くと、出口を見た。


「帰るわ。バイト中だしな」


 御堂が動こうとしたのを僕が止めた。


「四法院、ちょっと待ってくれ」


 僕が御堂と四法院の間に入り、話を取り持つ。

 捜査陣の薄さ、連休という壁、御堂が置かれている現状、公安部との軋轢、それらすべてを話したが四法院は関心を示さなかった。

 

「やっぱ帰るわ」

「待て、四法院」

「四法院!そう、急がなくてもさ、警視庁の中でも見て回ろうよ」


 そう言って、四法院の足を止め、気が変わるまで待つことに方針を変えた。それでも帰ると主張すると思ったが、以外に素直に受け入れた。

 他の人間がいると話がややこしくなると思い、僕と御堂と四法院の三人で話をすることにした。

 四法院は、作品を制作中らしく、様々なネタを欲しがっていた。

 作品をいくつか読ませて貰ったが、四法院らしく面白い。伏線と回収の仕方が絶妙で、狡知と巧緻が混然一体となっている。

 ただ疑問点は、四法院の作るキャラは、とても一般受けしそうになく、どこか性格も思考も行動も酷く歪んでいる。

 それはそれで、僕なんかは面白いのだが、とても中高生には勧められない。

 欠点としては、文章力が多少乏しい。

 今後は、そこが鍛え所だろう。発想自体は、ぶっ飛んでいてイイ。

 そこは世間との接面をどう広げるかだが。その為にも、資料になるものは見ておきたいのだろう。

 四法院は部屋を出ると、エレベーター乗り場へ向かった。


「どこへ行くんだい?」

「一階から見る」


 四法院は端的に答えた。思うに、一階の各部共用エリアから見て回る気だろう。

 三人で移動する。エレベーターを降りた四法院は、ふらふらと一階を歩きだした。


「どうだい?御堂もここまでしてくれるんだ。少しだけでも協力してあげたら?」

「御堂。間取り図を書いていいか?詳細な」

「そんなの許可できるか!」

「そっか。じゃ、ふっかけられる前に、もう帰ろうかな………」


 そう言って、四法院が裏口に向かう。帰る気なのだろう。こうなると四法院の停める方策は見つからない。

 前方から刑事らしき男が三人歩いてくる。

 二人の中年と一人の若者だ。

 すれ違う。

 数歩進んだ所で、四法院の足が止まった。 


「御堂、あの若い奴………」


 四法院に聞かれた。

 御堂は数秒程、記憶の棚を引っ掻き回したようだ。思い当たる節があったらしい。


「ん?あぁ。あれは公安部の新人らしい」


 なぜか、四法院の目つきが変わっていた。


「御堂。お前に協力すれば、公安に一泡吹かせられるのか?」


 四法院が、悪そうに目を細めて聞いてきた。


「ああ」

「協力してやろう。だが、金は払ってもらうぞ」


 僕は、なぜそうなるのか気になって、四法院に訳を訊く。


「何で気が変わっ―――」


 言い終わる前に、御堂に腕を引かれた。


「理由なんてどうでもいい。変人が、やる気になったんだ。その理由だって、変人にしか解らないさ」


 そう言うと、御堂は四法院に車に乗るように言った。

 僕は、四法院の心変りが気になって仕方なかったが、とりあえずこの流れに乗る事しか出来なかった。

 



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