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四法院の事件簿 2   作者: 高天原 綾女
事件発生
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終章

 太陽が頭上から燦々と光を注いでいる。

 フォーマルな服装には厳しい季節で、忍耐強い警察官たちも参っているようだ。

 そんな暑さと直射日光であるが、御堂は普段と変わらない表情で歩いていた。

 警視庁に入ると肌に涼を感じた。庁内は、普段と変わることなく動いている。


「御堂先輩」


 声を掛けられ、御堂は歩みを止めた。


「上月」


 上月洋輔。大学の後輩で、同じ刑事部のキャリア官僚だ。年齢は、二十八歳。階級は警視だ。性格は軽薄、思考回路は軽率、部下への言動も配慮に欠ける。そんな人間だが、祖父が参議院議員の重鎮であり、国家の中枢に血縁者がいるせいか警察上層部の覚えも目出度い。

 上月は、顔を近づけ小声で呟いた。


「御堂さん。知ってますか?公安部のノンキャリアが極左翼団体の名簿に名前があって、警備局の情報を渡していたそうですよ。カルト教団の影もチラついてて、上層部ではエライ騒ぎになってますよ。直属の上司の西久世さん、大丈夫ですかね~」


 上月の口調は愉快そうだった。学生時代に、上月は名門の西久世一族に近づこうとして、儀礼的な振る舞いばかりで、相手にされなかったとは聞いていた。それを、まだ根に持っているのかも知れない。

 上月の感情はともかく、西久世のキャリアに僅かなシミは付いたが、出世に影響はないだろう。背後に控えているのは名門一族だ。政・財・官の各界に根を深く下ろしている。たとえ大失態をしたとしても、上層部が簡単に排除などできない。今回、傷付いたのは、西久世の誇りだけだろう。

 上月と別れ、刑事部部長へ報告に向かった。

 エレベーターを待っていると、開いた扉の中から西久世が現れた。

 西久世が、すれ違うという位置で立ち止まり、落ち着いた声で口を開いた。


「以外と早く帰ってきたな」

「ああ、部下が優秀で助かっている」

「相変わらず、謙虚だな」

「本心だ。そんな事より、俺の心配をしている余裕があるのか?」

「耳が早いな。喜んでいるんだろうが、残念だな。その問題の処理は済んでいる」

「ほう。後学の為に聞かせて貰いたいな」

「刑事部には関係ないだろう」


 言い捨てると、西久世が歩き始めた。そして、自分もエレベーターに乗り込んだ。

 西久世の背を見ると、笑いが込み上げてきた。平静を装っているが、言葉や態度の端々から怒りが伝わってくる。常にすかしている西久世が、これほど苛立っているのは学生時代以来だった。

 西久世の後姿は、両側からの閉まってくる昇降機の扉に遮られ、刑事部の階のボタンを押した。

 エレベーターの上昇による体への負荷と、わずかな機械音が妙な記憶の紐を手繰り寄せた。二日前に、永都から留守番電話に入れられたメッセージだった。それは、四法院が事件の捜査協力を受けた理由は、警察関係者への恨みを晴らすためだと言っていた。もし、永都の言うことが本当だったとしても、西久世の捜査は細かな所まで調べているだろう。奴の性格を考えれば、今回の件に四法院の名前が浮かばなかった事を意味している。

 四法院のような現実主義者で、物質世界の住人では、共産主義ともカルト教団との縁があるとも思えない。そうなれば、公安の人間と四法院の接点があるとも思えない。いくらなんでも考え過ぎというものだ。

 御堂は一笑に付した。

 四法院の近況はというと、事件解決後、バイト先のデリバリー会社に戻るとクビになっていたらしい。配達途中に行方を眩ませれば当然と言えば当然だ。

 永都曰く、警察に連行された危ない人間は雇っておけないと言われたらしい。

 自分にクビになった要因が無いとも言えないが、今回に限って言えば、奴の日頃の行いが大半を占めるだろう。連れて来た出来事は、経営者がクビにする口実に過ぎない。

 四法院に言えば、惨事を招きそうな発言だが、永都は口では否定するも態度では納得していた。百歩譲っても、事件の解決と同時に少なくない現金を渡している。奴には、それで充分だと思えた。

 エレベータを下りると、目的場所にまっすぐに向かう。

 刑事部部長の部屋の前に立ち、ドアをノックした。



2編の最後まで読んで頂きありがとうございます。


御意見、誤字脱字の指摘、なんでも大歓迎です。

感想・気付いたこと等ありましたら、お気軽に書いていただければと思います。

それでは、他の作品も発表しておりますので、そちらも併せてよろしくお願い致します。


ここまで読んで頂いた方に厚くお礼を申したいと思います。



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