短編「とある勇者のエピローグ」
その少女は目覚めた。実に半年ぶりの目覚めだった。
その少女、優奈は半年前、交通事故に遭い、頭を強く打ったのか意識のないまま、この病院に担ぎ込まれた。
そして、そのまま昏睡した状態で半年が過ぎたのだった。
優奈はその間、とても長い夢を見ていた。
それは、人ひとりの生まれてから死ぬまでの一生を・・・異世界ではあったが・・・みていた。
ある王国の王女として生まれ、そして十にも成らない内に、その王国は魔王と邪神龍に滅ぼされた。
いや、その時点では、まだ多くの人が生き残っていた。
しかし、その後に来た他国の軍や奴隷狩りにより、完全に滅んでしまった。
そして私は奴隷として売られた。
そしてそこで、ある少年に買われ、一緒に旅をした。
彼は異常なまでに強かった。
その旅の途中で幾人もの仲間が出来た。
そして、16の夏、彼と仲間たちは私の国を滅ぼした魔王と邪神龍を倒した。
それから、各地に散った民たちを探し、奴隷に成った人たちをある時は買戻し、またある時は力づくで取り戻していった。
19の時、旧王都の廃墟を利用し小さな町が出来ていた。
その町を狙い、私の国を完全に滅ぼしてくれた国が再び攻めて来たが、今度は返り討ちにすることが出来た。
そして、逆襲を仕掛けた。
その国はひどい悪政をしており、そのため民衆と軍の一部が手を貸してくれ、実に簡単に落とすことが出来た。
その翌年、私「ユーナ」は女王として即位した。
そしてその横には、王配として彼が居た。
長い時が過ぎた。
75になった頃、私の国は世界有数の大国となっていた。
その年の秋、私は病に倒れ、死の淵にいた。
そのベットの横には、頭が真っ白になった彼と2人の息子と3人の娘、それから15人の孫たちが居た。
そして、私は永遠の眠りについた。
と、思ったら、病院の白いベットの上だった。
私は天国かなと一瞬思ったが、そこに居た看護師の後姿を見てそれを否定した。
・・・私はその長い夢を、完全封印することにした・・・出来ればだけど・・・
その一時間後、両親と姉そして妹が来ていた。
そして半年前の事を、母から聞かれたが、何も覚えていなかった。
いや、誰かに抱きかかえられて、一緒にどこかへ行ったような気がした。
その事を話すと、母は少し驚いたような顔をしてから、暗い顔になった。
あの時、私を身を挺してかばってくれた人がいた事。
その人がいなければ、死んでいたか、助かっていてもかなりひどい後遺症が残っていただろうとの事
そして、その人は・・・今も意識不明との事だった。
次の日、私は同じ病院に入院する彼を訪ねた。
一人で行きたかったが、私の半年間使わなかった筋肉は動くことを拒否し、車椅子での移動を余儀なくされた。
・・・彼の寝顔は、あの夢の夫の寝顔に、少しだけ似ている気がした。
そして・・・、彼は目を覚ました。
彼は私の顔を見て、少し驚いたような顔をして、何かつぶやいたが、聞き取れなかった。
しばらく私を見つめた後、「えっと、あんた誰?」と、聞いてきたので自己紹介とお礼を言った。
そして、車いすに乗る私をちらっと見て「怪我は大丈夫か?」と、聞いてきた。
「特に大きな怪我は無いけど・・・、あれから半年が過ぎてるらしいの。おかげで、怪我は治っているけど、筋肉がおちて体がいうことを聞かないの」
「・・・なら、これから2人とも、リハビリか・・・ま、仕方がないか、そのくらいで、すんだんだから」
きついぞーと、笑いながら脅かされた。
「ごめんなさい、私のために・・・」
「まー、気にすんな。こっちも好きで助けたんだし、何よりこんな可愛い子と仲良くなれるんだ、それくらい問題ないよ」と、自由に動かせない手で、頭を掻きながら答える彼。
母がそこで口をはさんだ。
「娘を助けてくれてありがとうございました、またその所為でご迷惑おかけしています」
「いえいえ、お気になさらずに。」
そして、検査を何回かした後、リハビリが始まった。
彼の言うとうり、かなりハードだったが、彼と一緒なら不思議と頑張れた。
そして・・・・長い時が過ぎた。
今、私は幸せだ。
5人の子供と、15人もの孫たちに囲まれて、そして隣には・・・私だけの白髪の勇者様がいる。
「わー、おばあちゃん、おじいちゃんを見て赤くなってるー」
「おばあちゃん、かわいいいー」
「おじいちゃん、齢をとってもかっこいいからー」
「そんなに冷やかすなよ・・・」と満更ではなさそうな彼。
私は今、とってもとっても幸せだ。
fin