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地獄の我慢汁 ~異世界で罪を償う物語~  作者: 鳶 檳榔
地獄の生活
7/39

魔物のお仕事

ちょっと説明

「おおっし、運べー!」

「エエイサー!」

 お仕事を始めました。


 今、俺は鉄鉱石が積まれた、でかい箱を男たちと引っ張っています。

 どうやら、この村の産業は鉄鉱石の産出と、農業のようで、現在はその鉱山にいます。


 あの翌日、工長の使いという人が迎えに来て、縄で括られたまま連れてこられました。

 工長に挨拶をすると、ほとんど説明もなく、とりあえず皆と一緒にこれを引っ張れと、でかい箱の前でロープを渡されました。


 鉱山は奥に掘り進めば、進めるほど、良質な鉱石が取れるらしく、人と箱が通るだけのトンネルの奥から、産出された鉱石を運び出しています。

 その運び人工(ニンク)として働いています。

 ほぼインドアの俺が、こんなことをするとは思わなかったなー。

 

 魔物の体のせいで、とりあえず力はあるようです。

 ただ、運動神経が悪いのか、素早い動きはできません。

 仕事仲間に、投げ渡された物は、一度として取ることができませんでした。


 キャッチボールはできないということですね。


 その代り、ゆっくりではあるが、他の人たちより、重たいものを運んだり、持ち上げれることがわかりました。

 正確に測ったわけではないですが、200㎏ぐらいなら持ち上げれそうです。

 縛られていた縄も、焦らずにゆっくりと力を入れたら、バッツリ切れて、まわりが慌てて、俺を取り押さえる、なんてこともありました。

 暴れる気はないので、おとなしく捕まり、その後から鎖で縛られました。


 余計なことをしなきゃよかった。


 鉱山の中は狭く、薄暗く、呼吸も苦しい場所です。

 実は俺が入れられた場所には、普通の人間は働いていません。

 どうやら、犯罪者、獣人、奴隷といった、いつ死んでもいいような人たちで構成されています。


 役場で俺を囲んだ普通の人たちは、鉱山の中でも比較的地上に近い場所にいて、主に指示と管理を行っています。

 肝心なところでは降りてきますが、ある程度、現場の目途が立つと、上の階へ戻ります。

 俺は最下層まで降りて、鉄鉱石を最底辺の奴らと運び出していました。


 全身イレズミの兄ちゃん、怖いから睨まないでください。


「おう、慣れたか?」

 地上に運び上げると、工長に声をかけられた。

「これ、慣れるもんなんですか?運べど運べど終わらないですし」

「やってりゃ慣れるよ。お前は力があるから、他の箱より少ない人工で済むから助かるよ」


 この仕事を始めてから、10日以上たった。

 工長からの報告と、メイラさんからの報告を受け、役人、チョーガンさんから問題無しと、お達しが出て、そのまま働かせてもらうことになったのだ。

 監視は継続で必要らしく、まだチョーガンさんの家の土間に居候している。

 職場の男たちからは、メイラさんと同じ屋根の下にいるということで、いつも文句を言われていた。


「おう、そろそろ昼休憩だろ、飯でも食いながら、話を聞かせろ」

「はい、ご一緒します」

 仕事の区切りをつけて、工長の用意した椅子に座り、昼飯を広げた。

「おい、なんだその気持ち悪いものは?くせぇぞ!」

「昼飯です。メイラさんに持たされているやつです」


 中身は生の臓物、野菜の切れ端、魚の頭、茶のカス等々、いわゆる生ゴミ。

 あれから、俺の食事は生ゴミになった。

 確かに植物の肥料はこういうのを使うよね。

 食べれる俺も、俺だけど。

 肥料といえば堆肥があるが、糞尿を食わされていないだけ、マシと思うしかない。

 いや、待てよ。メイラさんの○金水とかも、堆肥になるのか?

 カレー味の○○○も?


 うん、俺にそういう趣味は無い。勘弁してくれ。


 実は、食事は3食とも生ゴミというわけではない。

 あの家には、チョーガンさん、メイラさん、チャリダさんと、お母さんであるセイミさんの4人で暮らしている。

 いくら生ゴミが出るとはいえ、4人だけではそれほど出ない。

 なので、夕食だけは普通の人間の食事を分けてもらっていた。

 同じテーブルではなく、土間で一人飯だが。


「よく、そんなの食えるな。誘わなきゃ良かったぜ。見るだけで食欲が失せる」

「ええ、僕をいじめようとした人たちが、この弁当を盗んだことがあったんですが、中身を見てから同情をもらえるようになりました」

「まあ、そうだろうな。どうだこの仕事場は?つらいかも知れないが、ここはここで、面白いとこなんだぜ」


 そこから、この鉱山というか、村について話を聞いた。

 この村は『ヒナシ村』という村だ。

 見ていた状況から、地球でいう北半球のやや北寄りに位置し、東から太陽が上がって、西に沈む。

 日本の東北地方に近い環境っぽい。


 大昔に戦争があって、そこから逃げてきた人達が興した村らしい。

 昔は四方に大きな山があり、日照時間が短かかった。だから日無村(ヒナシムラ)なのだそうだ。

 昔の人達は、細々と暮らしていたが、どうにかしようとし、南側の山を削ることにした。

 その南側の山は、土が固くなかなか削れなかったが、その原因が、鉄鋼山であったためだった。

 他の町から来た旅人が、その状況に気づき、この村の所属する国の応援を得て、村のための山削りとして、鉱石の採掘に着手したんだそうだ。


 もちろん、営利目的ではあるが、村の人たちは賛同した。

 結果として、山は削れ、鉄鋼と農業を産業とした、日のある『ヒナシ村』が誕生したわけだ。

 今でも、この鉱山に働く人たちは、村のためという誇りを持って働いている。

 工長も、その一人だ。


 ドヤ顔がちょっとウザい。


「北の山脈は、魔物の巣窟だ。お前もそっちからきたんだろう?」

「ええ、よく覚えてはいないのですが、赤い雨の中を歩いてきました。気が付いたら崖から落ちて、皆にボッコボコにされましたけどね」

 思い出すとムカムカする。


「しょうがねえだろ、ここは今じゃ、鉱山としてだけじゃなく、対魔物の前線基地みたいなもんでもある。

魔物が出たら戦うのが普通だ」

 まわりから教えてもらったのだが、この国は『エンテイ』という国で、円形の形をしている。

 『ヒナシ村』は、その最北に位置し、北側は魔物の住処らしい。

 したがって、鉱山で働く人のほかに、警備兵、軍人、冒険者、それらにまつわる商人や役人がいる。

 他にも犯罪者の流刑地にもなっており、強制労働も請け負っている。


 あと、小規模ではあるが、娼館もあるらしい。

 チ○コの無い俺には、関係が無い情報だが。

 泣いてなんかいねぇよ!


「この村は、以前はさびれた村だったらしい、それがちょっとずつ良くなって、今では食いものも安定し、仕事も選べるようになった。

ウチの息子たちは、国の学校に通っている。鉱山と魔物があるから、仕事が安定しているからだな」

 人を脅かす、魔物がいるからとは、変な話だが、危険があるから、その対処としての仕事が発生し、結果として職業の種類が増え、安定したのだろう。


「最近は、息子たちが、冒険者に憧れ、俺を馬鹿にしやがる。生活の道具や、武器はどこから創られているか、よく考えればわかることなのによ」

 そこから、家族の愚痴を聞かされ、まあ、がんばれよと職場に戻された。

 工長はいい人っぽいが、俺の扱いは、犯罪奴隷と変わらないんですよねー。

 まあ、文句言える姿じゃあないか。


 なんだかんだで一日が終わり、皆、帰宅することになった。

 犯罪者や、奴隷はすぐ近くの宿舎というか、牢獄にドナドナされていく。

 似たような立場でも、一般家庭預かりの俺よりキツイ環境らしい。


 隻眼のおじいちゃん、片方の目でにらむのは止めてください。

 あと、毛むくじゃらのおっきい人、今、後ろからワザとぶつかったでしょ?

 昨日も一昨日もやったよね?

 イジメダメ!ゼッタイ!

 

 胸の中で、また、ポツッポツッと音がする。

 この職場は、俺にとっては良い環境なのだろう。

 いや、キツイって、体も精神も、ほんとに地獄ですって!



==========



 鉱山の見張りの人に連れられて、チョーガンさんの家に着く。

 いつも通り、鎖に繋がれて土間に座り、セイミさんから食事を分けてもらう。


 おっ今日はシチューですか?

 いつも通り、すっかり冷めてますね?

 温かい食べ物は、家族用ですね?

 セイミさんの心遣いが身に沁みます。


 セイミさんは俺が嫌いの様で、家族に言われているから仕方なくって感じで、食事を用意してくれる。

 ちなみに、こちらから話しかけても、返事されたことは無い。

 黙って食事を置き、食べ終わると食器を持っていくだけだ。


 やや茶色い、何だか解らない具材の入ったシチューに、パンを浸しながら食べていた。


 突然、家の中が騒がしくなり、大声が聞こえてきた。

 どうやら、メイラさんと、チャリダさんが兄弟喧嘩を始めたらしい。

 声だけでなく、物を壊す音が聞こえ、チョーガンさんの怒鳴り声で収まった。

 扉越しなのでよくわからないが、両成敗っぽい。

 家の中を修理しろと、チョーガンさん。

 わかったわよと、メイラさん。

 しばらくして、ドスドスという足音とともに、メイラさんがやってきて、扉を開けた。



「ジルオ!あんた木で出来ているのよね?その皮、少し頂戴!」



 メイラさんの片手には、カンナがあった。

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