魔物の扱い
グロ描写あります。
「えーと、これはなんですか?」
「だから、おなかすいてるんでしょ。
はい、あーん」
質問無視されたー。
スプーンの上に乗っているのは、生の何かの内臓に見えます。
まだ血の匂いがしますよ。
この辺はそういう食文化なんですか?
「あの、これをみなさん食べてるんですか?」
「食べるわけないじゃない。これは今日の夕飯の魚の内臓。
内臓は食べないからゴミ箱に分けてあったの。」
……どうゆうこと?
「人間は食べないけど、魔物なら食べられるよ。
ほら、こぼれちゃうから早く口あけて」
「いや、すみません。ちょっと食べたことないです」
「わがまま言わないで、せっかく食べやすいように切ってきたんだから」
どうしても食べさせたいらしい。
え、ちょっと待って、確かに魔物の姿だけど、中の人というか、精神的には人間なんですよ。
たぶん、言っても信じてもらえないけど、というか、よくわからない魔物で説明しちゃったから、引っ込みつかないけど。
これを食べなきゃないんですか?食べれるんですか?
よく見ると、なんか動いてる。なんか白い細い虫がいるっ!
アニーちゃんとかそういう奴じゃないの?
一気に気持ち悪くなってきた。
まてまて、落ち着け、俺は今魔物だ。
木魔人とかいう魔物だ。
生身の人間じゃない。
もしかして食べれるのか?
俺自身がわからない。
食べたくないというのは確定だが、食べれるかどうかは不確定だ。
魔物なら食べれるって、メイラさんも言ってるし、魔物なら普通のことかも知れない。
「あのー、魔物ってこういうのを食べるのが普通なんですか?」
「さあ?魔物を飼ったことはないから知らないよ。でも、犬とか熊は食べてたから大丈夫だよ」
根拠がねーよ。
メイラさん、なんか楽しんでいませんか?
若干ニヤニヤしているように、見えるんですけど。
そんなに、生ゴミを食べさせたいんですか?
そうして躊躇していても、メイラさんはグイグイ口に押し当ててくる。
ちょっと不機嫌になってきている。
「ほら、早く食べないと、私眠れないじゃない。明日も早いんだから、ほら!」
食うしかないのか?
食べれる可能性に賭けるしかないのか?
身動き取れないし、逝くか?
「わかりました。あーん」
「はい、あーん」
パクッと口に入れる。
予想通りの血の味と匂いがする。
噛んでみる。
うわっ虫を噛んだ。
口の中で動くなっ!
一瞬吐き出しそうになったが、覚悟を決めてゴクッと飲み込む。
もうどうとでもなれ。
「おいしい?ほら、やっぱり食べれたじゃない。
いっぱいあるからね。はい、あーん」
俺の不味そうな、苦しそうな表情は伝わらないらしい。
次々と口に運び、ニコニコと嬉しそうな表情をしている。
俺は我慢して食べ続けた。
実際、不味いが食べれないこともない。
この体のせいだろう。
メイラさんは太めのぽっちゃりだが美人だ。
かわいい系っていうのかな?
わざと太目の体型を維持している、某芸能人に似ている。
色白で、目は垂れ目。
笑うと糸目になる表情には、自然な色気がある。
風呂上りで寝る前だったらしく、簡単で薄手のワンピースのような服を着ていて、少し開いた胸元から、自己主張の強い谷間が見えていた。
角度によって、谷間からお腹のほうが見える。
巨乳のせいで、中から頂点は見えないが、服の外にはその形がはっきりわかる。
山の大きさの割には、火口付近は小さ目なんですね。
メイラさん、素晴らしいです。
本来は、こんなかわいい娘から、あーんしてもらえるなんて天国だと思いますよ。
しかも、無防備な寝間着姿なんて、オプション価格どれくらいか、わからないサービスです。
でも、あーんされるのは、新鮮な生の魚の内臓なんです。
色も、
形も、
匂いもはっきりしているグロ系なんです。
ピチピチの白い虫の踊り食い付き!
落差が大きすぎるっ!
「はい、これでおしまい」
やっと終わった。どんぶり一杯分を食べさせられた。
最初の頃は気持ち悪かったが、やはり俺は魔物なのだろう、途中から平気だった。
味は見た目通りだったけどね。
「……ごちそう様でした」
「ちゃんとお礼が言えるんだね。うんうん。
今日は縄を外してあげられないけど、明日は大丈夫だと思うよ。
じゃ、オヤスミ」
そういって家の中に入り、俺は土間に放置されたまま、明かりを消された。
このまま寝ろってことらしい。
まあ、そうだよね。
見たことのない生物が、家に入り込んだらこうするよね。
現代日本でも、宇宙人が田舎で捕まったら、こんな扱いになるんだろうか?
すぐに殺されて標本にされないだけマシか?
俺もメイラさん達の立場ならどうするだろう?
そう考えていると、腹は立たなかった。
仕方ない状況だし、まだ親切にしてくれたほうだと思う。
胸の中で、またポタッを音がしたが、確かめれなかったので、諦めて目を閉じた。
==========
「おいっ!起きろ!」
またガスッと頭を蹴られて、目を覚ました。
チャリダと呼ばれる青年が立っていた。
「とりあえず、目付役人のところに連れて行く。おとなしくしてろよ。
おい、みんな手伝ってくれ」
そう言うと、何人かの男たちが入ってきた。
縄に縛られたままの俺を担ぎあげ、どこかに連れて行かれるようだ。
しばらくすると、ちょっと立派な建物に着いた。
役所?公民館?それとも裁判所?
まあ、そんな嫌な感じがする建物だった。
時代劇の、お白洲のような土間に座らせられる。
目の前には、偉そうな格好をした細い男と、昨日の父親が座っていた。
周りには屈強そうな男が10人くらい立っていた。
「おい。お前はなんだ?なんでこの村に来た?」
細い男に質問され、昨日メイラさん達に話した内容を、ほぼそのまま答えた。
一通り聞き終えると、少し考えて隣を見る。
「チョーガン殿、どういたしますかね?面倒になるようなら殺してしまいますか?」
「うーん。ケッサイ殿、正直なんとも言えないんですよ。
こいつはそんなに悪い感じがしないんですよ。殺すまではしたくないんだが」
「だが、何か被害があってからでは遅いだろう、殺さないまでも、遠くに放り出したほうがいいのでは?」
「うーん。おい、ジルオとか言ったか、お前はどうしたい?」
すげーアバウトな質問来たー。
どうしよう、どうすればいいんだ?
死にたくないし、放り出されても、どこに行ったらいいかわからない。
仮にどこかで村を見つけても、同じ目に合うだけだ。
どうする?なんて答える?
少し考えて、ケツオの言葉を思い出した。
『今度こそ、成すべきことを成せ!』
それがどういう意味か分からないが、この地獄で何かをしなければならないのだろう。
どこに行っても同じなら、ここでどうにかするしかないのか?
「僕は、自分がなんなのかよくわかりません。殺されるのも、放り出されるのも嫌です。
暴れませんし、働きますので、この村においていただけませんか?」
まわりがザワッとした。
ケッサイと呼ばれた細い男も、苦い顔をしている。
「よくわからんが、知恵のある魔物は危険だ。できれば殺しておきたい」
その言葉を聞いて、まわりの男達が無言で近寄ってくる。
やばい!何か、回答を間違ったか?
どうする?身動き取れないぞ?何もしないまま殺されるのか?
「ちょっと待ってよ!何もしてないのに殺すのはかわいそうじゃない!」
声のしたほうを見ると、メイラさんが怒りながら入ってきた。
男達は困った顔をしながら、俺に伸ばしかけた手を止める。
「父さん。私がこの魔物の面倒を見るわ」
「メイラ、お前は何言ってんだ?何を言っているかわかっているのか?」
「この魔物はおとなしいわよ。少し様子を見てから決めてもいいでしょう!」
メイラさん助けてくれるんですか?
今ドキドキしています。
死の淵から生還しかけている状況と、あなたのお言葉で!
もう惚れそうです。
これが吊り橋効果というヤツですか?
いや、そんなものが無くても、メイラさんは魅力的ですが。
その後、メイラさんと、チョーガンさん、役人があーでもない、こーでもないと話し合いを続けた。
メイラさんの押しが強く、10日間、メイラさんのところで、チョーガンさんと、チャリダさんの監視の元、とりあえず様子を見ることになった。
ある程度話し合いが落ち着くと、後ろに立っていた男の中で、背の高い50代くらいの男が声をかけてきた。
「おい、働くのはいいが、何ができる?」
「わからないです。とりあえず何でもしますから、教えてください」
「そうか、じゃあ、あれを持ち上げてみろ」
指差された先に、大きな石があった。
ほぼ丸く、直径50㎝という位の石だ。
縄を解かれ、男たちに囲まれたまま石に近づく。
石を見る。
これ100㎏ぐらいあんじゃないの?
普通に考えたら、持ち上がらないよな。
「これですか?」
「そうだ。ここにいる男たちは、みんなそれぐらいなら持ち上げられる」
ウワお!みなさんパワフルですね。
そりゃ魔物を囲める訳だわ。
悩んでも仕方ない。とりあえず石を抱えてみる。
奥まで指を付け、足にぐっと力を入れる。
んんっ?なんか持ち上げられそうな感触があるぞ?
ゆっくりと力を入れて立ち上がると、自分でもびっくり、持ち上がった!
「おおっ!本当に持ち上げたぞ!」
「工長、あれはあんな風には持ち上げられねーぞ!」
「工長とチョーガンさんくらいじゃねーの?」
「何人かはできるだろうけど、全員は無理だなや」
オイ!ハッタリかよ!
まわりのざわつく中、とりあえず持ち上げた石を、工長と呼ばれた人に見せてから、元の場所に静かに下した。
「んー。まあいいだろう。ケッサイ殿、チョーガン殿、こいつは鉱山で働かせましょう。
役には立ちそうだ。何かあっても、まわりにゃ、こいつらがいるから、何とかなるでしょう」
「工長、あんたがいいならそれでいい。頼んだぞ」
「はい。それで、こいつはどこに住むんですか?」
「儂の家で、監視付きになるだろうな」
途端に、男たちが騒ぎ始める。
「チョーガンさんの家ってことは、メイラさんと一緒ですか?」
「ふざけんな!こんな危ないのと、メイラさんが同じ屋根の下とか許せないっすよ!」
「おい、俺のうちに来い!こき使ってやる!」
「いや、俺と代われ、俺が代わりに、メイラさんに監視されてやる!」
「オイ!お前何言ってんだ?」
ちょっとカオス状態だ。
メイラさん愛されてるな。
村のアイドル的な存在だったのか?
「何言ってんの?あんたらほとんど既婚者じゃないの。嫁さんたちにチクるよ!」
メイラさんの声で、そんなあ、と男たちが困った顔をする。
「とりあえず、住むところと、仕事は決まった。後は10日間様子を見る。
10日後、またどうするか考えることにする。これでいいな!」
ケッサイという役人の声で、この場が収まった。
俺には、また縄がかけられる。
仕事の時は外してもらえるそうだが、チョーガンさんの家にいる時は縛られたままらしい。
仕方ないので言われたとおりにする。
機嫌の良さそうなメイラさんと、チャリダさんに連れられ、チョーガンさんの家に向かう。
チョーガンさんは、工長と役人に少し話があるとのことだ。
==========
「メイラさん。助けてくださって、ありがとうございました」
心からお礼を言う。
あの時、メイラさんが来てくれなければ、殺されるところだった。
会ったばかりなのに、命を救ってもらった。
まさに命の恩人だ。借りは返すべきだろう。
メイラさんは振り返って、にこやかに答えた。
「いいのよ、家の生ゴミを、片付けてもらわなきゃないんだから」
ああ、俺はパ○○リキュ○ブ扱いなんですね。