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地獄の我慢汁 ~異世界で罪を償う物語~  作者: 鳶 檳榔
地獄の生活
6/39

魔物の扱い

グロ描写あります。

「えーと、これはなんですか?」

「だから、おなかすいてるんでしょ。

はい、あーん」


 質問無視されたー。

 スプーンの上に乗っているのは、生の何かの内臓に見えます。

 まだ血の匂いがしますよ。

 この辺はそういう食文化なんですか?


「あの、これをみなさん食べてるんですか?」

「食べるわけないじゃない。これは今日の夕飯の魚の内臓。

内臓は食べないからゴミ箱に分けてあったの。」


 ……どうゆうこと?


「人間は食べないけど、魔物なら食べられるよ。

ほら、こぼれちゃうから早く口あけて」

「いや、すみません。ちょっと食べたことないです」

「わがまま言わないで、せっかく食べやすいように切ってきたんだから」


 どうしても食べさせたいらしい。


 え、ちょっと待って、確かに魔物の姿だけど、中の人というか、精神的には人間なんですよ。

 たぶん、言っても信じてもらえないけど、というか、よくわからない魔物で説明しちゃったから、引っ込みつかないけど。


 これを食べなきゃないんですか?食べれるんですか?

 よく見ると、なんか動いてる。なんか白い細い虫がいるっ!

 アニーちゃんとかそういう奴じゃないの?

 一気に気持ち悪くなってきた。


 まてまて、落ち着け、俺は今魔物だ。

 木魔人とかいう魔物だ。

 生身の人間じゃない。

 もしかして食べれるのか?

 俺自身がわからない。


 食べたくないというのは確定だが、食べれるかどうかは不確定だ。

 魔物なら食べれるって、メイラさんも言ってるし、魔物なら普通のことかも知れない。


「あのー、魔物ってこういうのを食べるのが普通なんですか?」

「さあ?魔物を飼ったことはないから知らないよ。でも、犬とか熊は食べてたから大丈夫だよ」


 根拠がねーよ。


 メイラさん、なんか楽しんでいませんか?

 若干ニヤニヤしているように、見えるんですけど。

 そんなに、生ゴミを食べさせたいんですか?


 そうして躊躇していても、メイラさんはグイグイ口に押し当ててくる。

 ちょっと不機嫌になってきている。


「ほら、早く食べないと、私眠れないじゃない。明日も早いんだから、ほら!」


 食うしかないのか?

 食べれる可能性に賭けるしかないのか?

 身動き取れないし、逝くか?

「わかりました。あーん」

「はい、あーん」


 パクッと口に入れる。

 予想通りの血の味と匂いがする。

 噛んでみる。

 うわっ虫を噛んだ。

 口の中で動くなっ!

 一瞬吐き出しそうになったが、覚悟を決めてゴクッと飲み込む。

 もうどうとでもなれ。


「おいしい?ほら、やっぱり食べれたじゃない。

いっぱいあるからね。はい、あーん」


 俺の不味そうな、苦しそうな表情は伝わらないらしい。

 次々と口に運び、ニコニコと嬉しそうな表情をしている。

 俺は我慢して食べ続けた。

 実際、不味いが食べれないこともない。

 この体のせいだろう。


 メイラさんは太めのぽっちゃりだが美人だ。

 かわいい系っていうのかな?

 わざと太目の体型を維持している、某芸能人に似ている。

 色白で、目は垂れ目。

 笑うと糸目になる表情には、自然な色気がある。

 風呂上りで寝る前だったらしく、簡単で薄手のワンピースのような服を着ていて、少し開いた胸元から、自己主張の強い谷間が見えていた。


 角度によって、谷間からお腹のほうが見える。

 巨乳のせいで、中から頂点は見えないが、服の外にはその形がはっきりわかる。

 山の大きさの割には、火口付近は小さ目なんですね。

 メイラさん、素晴らしいです。


 本来は、こんなかわいい娘から、あーんしてもらえるなんて天国だと思いますよ。

 しかも、無防備な寝間着姿なんて、オプション価格どれくらいか、わからないサービスです。

 でも、あーんされるのは、新鮮な生の魚の内臓なんです。

 

 色も、

 形も、

 匂いもはっきりしているグロ系なんです。

 ピチピチの白い虫の踊り食い付き!

 落差が大きすぎるっ!


「はい、これでおしまい」


 やっと終わった。どんぶり一杯分を食べさせられた。

 最初の頃は気持ち悪かったが、やはり俺は魔物なのだろう、途中から平気だった。


 味は見た目通りだったけどね。


「……ごちそう様でした」

「ちゃんとお礼が言えるんだね。うんうん。

今日は縄を外してあげられないけど、明日は大丈夫だと思うよ。

じゃ、オヤスミ」


 そういって家の中に入り、俺は土間に放置されたまま、明かりを消された。

 このまま寝ろってことらしい。


 まあ、そうだよね。

 見たことのない生物が、家に入り込んだらこうするよね。


 現代日本でも、宇宙人が田舎で捕まったら、こんな扱いになるんだろうか?

 すぐに殺されて標本にされないだけマシか?

 俺もメイラさん達の立場ならどうするだろう?


 そう考えていると、腹は立たなかった。

 仕方ない状況だし、まだ親切にしてくれたほうだと思う。


 胸の中で、またポタッを音がしたが、確かめれなかったので、諦めて目を閉じた。



==========



「おいっ!起きろ!」


 またガスッと頭を蹴られて、目を覚ました。

 チャリダと呼ばれる青年が立っていた。


「とりあえず、目付役人のところに連れて行く。おとなしくしてろよ。

おい、みんな手伝ってくれ」


 そう言うと、何人かの男たちが入ってきた。

 縄に縛られたままの俺を担ぎあげ、どこかに連れて行かれるようだ。


 しばらくすると、ちょっと立派な建物に着いた。

 役所?公民館?それとも裁判所?

 まあ、そんな嫌な感じがする建物だった。


 時代劇の、お白洲のような土間に座らせられる。

 目の前には、偉そうな格好をした細い男と、昨日の父親が座っていた。

 周りには屈強そうな男が10人くらい立っていた。

 

「おい。お前はなんだ?なんでこの村に来た?」

 細い男に質問され、昨日メイラさん達に話した内容を、ほぼそのまま答えた。

 一通り聞き終えると、少し考えて隣を見る。


「チョーガン殿、どういたしますかね?面倒になるようなら殺してしまいますか?」

「うーん。ケッサイ殿、正直なんとも言えないんですよ。

こいつはそんなに悪い感じがしないんですよ。殺すまではしたくないんだが」


「だが、何か被害があってからでは遅いだろう、殺さないまでも、遠くに放り出したほうがいいのでは?」

「うーん。おい、ジルオとか言ったか、お前はどうしたい?」


 すげーアバウトな質問来たー。

 どうしよう、どうすればいいんだ?

 死にたくないし、放り出されても、どこに行ったらいいかわからない。

 仮にどこかで村を見つけても、同じ目に合うだけだ。

 どうする?なんて答える?


 少し考えて、ケツオの言葉を思い出した。

『今度こそ、成すべきことを成せ!』

 それがどういう意味か分からないが、この地獄で何かをしなければならないのだろう。

 どこに行っても同じなら、ここでどうにかするしかないのか?


「僕は、自分がなんなのかよくわかりません。殺されるのも、放り出されるのも嫌です。

暴れませんし、働きますので、この村においていただけませんか?」


 まわりがザワッとした。

 ケッサイと呼ばれた細い男も、苦い顔をしている。


「よくわからんが、知恵のある魔物は危険だ。できれば殺しておきたい」

 その言葉を聞いて、まわりの男達が無言で近寄ってくる。

 

 やばい!何か、回答を間違ったか?

 どうする?身動き取れないぞ?何もしないまま殺されるのか?


「ちょっと待ってよ!何もしてないのに殺すのはかわいそうじゃない!」


 声のしたほうを見ると、メイラさんが怒りながら入ってきた。

 男達は困った顔をしながら、俺に伸ばしかけた手を止める。


「父さん。私がこの魔物の面倒を見るわ」

「メイラ、お前は何言ってんだ?何を言っているかわかっているのか?」

「この魔物はおとなしいわよ。少し様子を見てから決めてもいいでしょう!」


 メイラさん助けてくれるんですか?

 今ドキドキしています。

 死の淵から生還しかけている状況と、あなたのお言葉で!

 もう惚れそうです。

 これが吊り橋効果というヤツですか?

 いや、そんなものが無くても、メイラさんは魅力的ですが。


 その後、メイラさんと、チョーガンさん、役人があーでもない、こーでもないと話し合いを続けた。


 メイラさんの押しが強く、10日間、メイラさんのところで、チョーガンさんと、チャリダさんの監視の元、とりあえず様子を見ることになった。


 ある程度話し合いが落ち着くと、後ろに立っていた男の中で、背の高い50代くらいの男が声をかけてきた。


「おい、働くのはいいが、何ができる?」

「わからないです。とりあえず何でもしますから、教えてください」

「そうか、じゃあ、あれを持ち上げてみろ」


 指差された先に、大きな石があった。

 ほぼ丸く、直径50㎝という位の石だ。

 縄を解かれ、男たちに囲まれたまま石に近づく。


 石を見る。

 これ100㎏ぐらいあんじゃないの?

 普通に考えたら、持ち上がらないよな。


「これですか?」

「そうだ。ここにいる男たちは、みんなそれぐらいなら持ち上げられる」

 

 ウワお!みなさんパワフルですね。

 そりゃ魔物を囲める訳だわ。


 悩んでも仕方ない。とりあえず石を抱えてみる。

 奥まで指を付け、足にぐっと力を入れる。

 んんっ?なんか持ち上げられそうな感触があるぞ?

 ゆっくりと力を入れて立ち上がると、自分でもびっくり、持ち上がった!

 

「おおっ!本当に持ち上げたぞ!」

「工長、あれはあんな風には持ち上げられねーぞ!」

「工長とチョーガンさんくらいじゃねーの?」

「何人かはできるだろうけど、全員は無理だなや」


 オイ!ハッタリかよ!


 まわりのざわつく中、とりあえず持ち上げた石を、工長と呼ばれた人に見せてから、元の場所に静かに下した。


「んー。まあいいだろう。ケッサイ殿、チョーガン殿、こいつは鉱山で働かせましょう。

役には立ちそうだ。何かあっても、まわりにゃ、こいつらがいるから、何とかなるでしょう」

「工長、あんたがいいならそれでいい。頼んだぞ」

「はい。それで、こいつはどこに住むんですか?」

「儂の家で、監視付きになるだろうな」


 途端に、男たちが騒ぎ始める。


「チョーガンさんの家ってことは、メイラさんと一緒ですか?」

「ふざけんな!こんな危ないのと、メイラさんが同じ屋根の下とか許せないっすよ!」

「おい、俺のうちに来い!こき使ってやる!」

「いや、俺と代われ、俺が代わりに、メイラさんに監視されてやる!」

「オイ!お前何言ってんだ?」


 ちょっとカオス状態だ。

 メイラさん愛されてるな。

 村のアイドル的な存在だったのか?


「何言ってんの?あんたらほとんど既婚者じゃないの。嫁さんたちにチクるよ!」

 メイラさんの声で、そんなあ、と男たちが困った顔をする。


「とりあえず、住むところと、仕事は決まった。後は10日間様子を見る。

10日後、またどうするか考えることにする。これでいいな!」

 ケッサイという役人の声で、この場が収まった。


 俺には、また縄がかけられる。

 仕事の時は外してもらえるそうだが、チョーガンさんの家にいる時は縛られたままらしい。

 仕方ないので言われたとおりにする。


 機嫌の良さそうなメイラさんと、チャリダさんに連れられ、チョーガンさんの家に向かう。

 チョーガンさんは、工長と役人に少し話があるとのことだ。



==========



「メイラさん。助けてくださって、ありがとうございました」


 心からお礼を言う。

 あの時、メイラさんが来てくれなければ、殺されるところだった。

 会ったばかりなのに、命を救ってもらった。

 まさに命の恩人だ。借りは返すべきだろう。

  

 メイラさんは振り返って、にこやかに答えた。



「いいのよ、家の生ゴミを、片付けてもらわなきゃないんだから」



 ああ、俺はパ○○リキュ○ブ扱いなんですね。

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