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地獄の我慢汁 ~異世界で罪を償う物語~  作者: 鳶 檳榔
地獄の生活
5/39

とりあえずの接触

 俺は、土砂の中で目が覚めた。

 どうやら動かなくなったので、放置されていたらしい。


 体にに力を入れると、土の中から手が取りだせた。

 あの時はうまく動かせなかったけど、思ったより力があるようだ。


 土砂から這い出し、体をチェック。

 頭部が割れていたけど、手でぐっと合わせたらくっ付いた。

 鏡が無いから、自分がどういう姿になっているかわからないけど、触ってみると、とりあえずは以前の人型のサイズで、特に損傷は無い。

 本当に無いかな?判らない物は判らん。


 ジャージはぼろぼろで、ほぼ裸なんだが、木の皮のようなもので覆われているので、あんまり裸の感覚は無い。

 獣人になって、毛むくじゃらになったみたいなもんかな。


 周りを見渡すと、夜になっていた。

 月が出ていて少し明るく、村全体が見える。

 村の家にはそれぞれ明かりが灯っている。


 なんか腹減った。

 そういや何も食べてない。

 裸で空腹で外に放置。

 衣食住の三点が全てそろって無い状態。

 もう、これ以上過酷な状況が無くないか?

 

 しかもボッチ状態で、前世の記憶も薄くなって来ている。

 自分の名前さえ思い出せず、笑いながら付けられた『ジルオ』という名と、『我慢汁』を溜めるという目的だけしか残ってない。

 心が折れるとか、そういうレベルじゃないぞこれ。


 ちょっとの間ぼうっとしていたら、急に胸のあたりに痛みが来た。

「んんっ!なんだこれ?」

 その後、心臓のあたりが光り、ポタッと音がする。

 胸を探ると10㎝位の瓶が有り、引っ張ったら取れた。

 月にかざすと、瓶の中に、液体が少しだけ入っていた。


「これが『我慢汁』かな?」

 ということは、このきつい状況の中にいれば溜められるのか。

 じゃあこのまま朝までここに居て、あの男達に襲われて、ゾンビみたいに生き返るのを、繰り返せばいいのかな?


 うわー。いくらなんでもそれはキツイよ。

 一滴ずつじゃ、何回襲われたらいいかわからないし、瓶を割られたら、ケツオに再会することになるかも知れない。

 あいつには会いたくない。思い出すだけでも嫌だ。

 恐らく、そういった呪いの様な物が、かけられているんだと思う。


 どうすっかな?

 うーん、この状況を打破するには、何らかのアクションを起こすしかないのかな?

 ここに居てもどうしようもない。


 ケツオに言われた通りにするのは嫌だが、この地獄で『我慢汁』を溜めるしか無いんだろう。

 俺は木魔人とかいう、化け物らしいし、地獄の住人も居るらしい。

 人生の延長戦だと思って、楽に考えますか! 


 停滞は何も生まない。足掻くことしかできないんだろうな?

 前世では、それに気が付いていたけど、何もしなかった。

 恐らく、これが怠惰の罪になっている。


 何もしなくても生きていけた状況もそれを冗長させたんだが。

 この地獄は、それを許さないと思っていいな。

 どうにかしなきゃないってことか。


 はあぁ、面倒くさいけど、どうにかしましょう!

 追い詰められてからしか、動けない自分が、なんか嫌!

 とりあえず、人間に接触しなきゃないんだったかな?

 あと、記憶の余計な事はしゃべらない!

 ケツオにあったり、もっとキツイ目に合うのは嫌だ!

 よし、精神的準備完了!


 崖から、人のいる所に行く事にした。


 土砂に埋まっている時は、焦って動けなかったけど、基本的には柔らかい木の化け物だ。

 斧で顔を割られても、すぐには死ななかったし、タフな化け物だと思って良い。

 最悪、また襲われても、この体なら動けさえすれば、殴られながら逃げれそうだ。

 そん時は、諦めて別の場所を探しに行こう。

 胸だけは防御しなきゃいけないかな?


 近くの、明かりが灯っている家に向かい、玄関の辺りに来た。

 とりあえず声をかけてみよう。


 どうせ考えても良い方法は思いつか無いし、何にも失う物も無い。

 相手に襲われても良いやと思ったら、もう怖い物が無かった。


「コンバンワー。誰か居ませんかー?」

 返事がない。


 明かりが点いているから、人が居そうなんだけどな?

 んんっ?家の裏側から音がする。


 もう、どうでもいいや状態だったので、なにも気にせずに裏に回ると、木の窓から明かりが漏れていた。

 ここの家は、古い日本の家と、海外の丸太小屋を合わせたような造りだ。

 壁も、扉も、窓も基本的には木製で、ガラスは無く、木の皮を薄くし、障子紙の様に使っている。


 音のする木の窓から、家の中を覗くと、女が風呂に入っていた。

 水の音がしたから、何となくそうかな?と思っていたが、やっぱりそうだった。


 イヤッふー!

 まさかのエロ展開。

 辛いことの後はこうじゃないとね。

 なんだケツオもいい仕事すんじゃん。

 覗きは罪だろうけど、俺の目的は『我慢汁』を溜める事だ。気にしなくていいだろう?


 …いや、ダメだろう。

 でも…見たい。

 どうすっかな。目が離せないよ。本能だよ。

 なんか、ゴメンよ。


 風呂に入っていたのは若い女だった。

 全体的にふくよか。

 っていうかちょっと太ましいかな?

 デブ専ではないが、これはこれで、アリな感じだ。

 人によっては太った女は嫌いと言われそうな体だけど、俺には眼福です。

 いよっし、これは見ながらワンプレヤープレイでもしますか!

 もう雑魚の発想だけど、なんでもいいです。


 そう思って手を股間に当てると、

 「あれっ?」


 そこには何も無かった。ナニが無かった。

 あの排尿と玄人にしか使うことのない、無駄な18㎝サイズのホースが無かった。

 川反とか、五反田とか、新地とか、中洲とか、辻とか、そういう所でしか褒められない物が無かった。


 あんまりじゃない?

 これは、あんまりじゃないかい?


 愕然として前に倒れ込み、ドサッと大きな音を立てた。

「ダレっ!」

 そんな声がしたけど、振り向く気も動く気も無かった。

 胸にポタッと音がしたけど、どうでも良かった。

 


==========



「おい、なんだこいつ?」

「わかんないわよ。昼間の魔物がまた動いたんじゃない?」

「でも、なんかぼうっとして、動かないんだけど?」


 俺は縄で縛られ、土間のような所に転がされていた。

 何人かの話し声が聞こえる。


「おいッ!何だお前ッ!」

 ガスッと頭を蹴られて意識が戻った。


「あ!気づいた。魔物?色が黒い人間?亜人?」

「おい!何だお前は、何であそこに倒れて居たんだ?」

「………」

「何か言えよ!」


 ショックで何もしたく無かったけど、この人達には何の関係も無い。

 むしろ、家の敷地内に入り込んでいる化け物だし、警戒されて当然だよなー。


「僕はジルオと言います」

「うわっ!しゃべった!」

「いや、お前がなんか言えって言ったんじゃねーか?チャリダ。」


 目の前には男が二人と、女が一人居た。

「おやじ!ちゃかすなよ!」

「チャリダ、ちょっと黙って。ジルオって言ったかい?私はメイラ。あんたは魔物だね?」

「魔物かどうかはわかりませんが、昨日、山から下りてきました」

「言葉の通じる魔物は珍しいね。あんた何であそこに居たんだ?」

 

 そこから尋問が始まった。

 ケツオには地獄について話すなって言われてるから、ある程度は誤魔化し、姿や状況で解る様な事は話して、後は解らないで通す事にした。

 山の中で過ごして居たが、雨で山が崩れ、ここに降りて来た事。

 記憶が薄く、どうしてしゃべれるのか、この姿は魔物なのか解らない事。

 何も食べておらず、腹が減った事。


 後は解らないで通した。

 特に覗きと、マイグリップが無くてショックで倒れて居た事は内緒だ。

 色々とセツナクナルよ。


「そうか。腹が減って動けなくなって居たのか?暴れたりしないんで無ければ、何か食わせてやるぞ?」

「暴れたりしません。縄で縛られたままで良いので、何か食べさせて下さい」

「ええー!それじゃー、アーンってしなきゃないじゃない。良いよ縄は解くよ」

「姉ちゃん危ないって!どんぶりに食いもん入れて、犬みたいに食わせりゃ良いんだよ!」


 キツイな、この弟。

 

 どうやらこの三人は家族で、父親、娘、弟の様だ。

 父親は、なんかゴツイ。背が高く、肩幅もしっかりしている。年齢的には五十代かな?顎が少し出ていて、顔が長い。強面だが、家族の前だからか、優しそうにも見える。肉体労働系のお父さんって感じの人だ。

 弟は、父親より少し背が低い。俺と同じくらいかな?十代後半で、ちょっとチャライ印象がある。でも、体付きは父親同様にゴツイ。


「それでも良いです。僕も自分が良く解って無いんで、お任せします」


 良く解らないのは本心だ。

 この木魔人という化け物が、何を食べるのかさえ知らない。


「んー?大丈夫なんじゃない?良く見ると好い男じゃーん。

アーンしたげようか?」

「姉ちゃん馬鹿じゃないの?とりあえず今夜は縛ったままにして、明日に村の人達の前で外そうよ!」

「メイラ。面倒を任せていいか?」

「いいよー。食べさせたら寝るわ」

「はあ、んじゃお休み。姉ちゃん。何かあったら大声出してね」


 みんな家族思いで、優しい人達の様だ。

 いいなあ、俺にもこんな家族が居たら良かったな。

 家族は居たはずなんだけど、何か良かった思いが無く、家族という言葉に嫌な思いしか出て来ない。

 記憶は薄れているけど、恐らくあまり良い環境じゃ無かったんだろうな、俺。



 メイラは台所で何かを準備し、目の前にやって来た。

「持って来たよ。沢山有るから遠慮しないで食べてね」

「すみません。有難うございます」


「はい、アーン」



 スプーンの様な物に、乗っかって居たのは……


 生の、何かの内臓を、刻んだ物だった。

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