血の雨
ポツ・ポツ・ポツッ
「うんっ……?」
顔にあたる水滴で目が覚めた。
周りを見回すと、岩に囲まれていた。
少し離れた場所から光が入っている。
「洞窟かな?・・」
ゆっくりと上体を起こし、自分の手足を見る。
薄暗いせいか、手足が茶色く、くすんで見える。
格好は、死ぬ前に来ていた、半袖の黒いジャージだった。
「何だったんだあれ?ここどこだ?」
とりあえず立ち上がり、光の見える方向に歩いてみる。
裸足だったが、地面は砂の様で、特に痛みも無く、何とか歩ける。
やはり洞窟の様で、外は薄明るく、雨が降っていた。
不意に顔に着いた水滴を擦り、その手を見る。
「何だ?これ?」
手の甲が茶色く、木の様だった。
手の平には、赤い液体が付いていて、まるで血の様だった。
「え?どうなってんの?」
顔や体をさわり、自分の体を探る。
痛みは無いし、怪我もしていない。
赤い液体は、顔に着いた水滴のようだ。それよりも・・・
「なんだか全体的に茶色い、木か?これ?」
体全体が木になっていた。
トゥレント?
コボルト?
ウッド・○ッカー?
うん、最後のは違うな。
なんか変な笑い声を出しそうだ。
指も、手も、足も、今までと同じ感触で動くのに、材質が木だ。
柔らか素材の様で、肘や肩だけじゃなく、関節以外の場所も曲がる。
だが、基本的には今までと同じ、人間の関節が曲がるようだ。
なんか変な病気に罹ったか?
海外の病気で、少しずつ木になってくのを見たことがある。
あれか?
俺、看病してくれたり、見届けてくれる人居ないんだけど?
いや、死んだから関係ないか?
「もしかして……人間では無くなってのか?」
自分の顔や体を好きだった事は無いが、変化が大きすぎて、ショック状態だ。
でも、もしかしてアレか?
異世界転生ってやつか?
スライムになったり、スケルトンになったり、ドラゴンになったり?
んでもって、魔王になったり、勇者になったり、無双したり、ハーレム作ったり?
…いや、こんな地味な、柔らかい木だと、あんまり期待できないぞ?
『地獄』って、言ってたしなぁ。
「まあ、地獄に落とされた様だし、何でもアリなのかねぇ?」
諦めの言葉を吐いて外を見ると、雨がおかしいことに気が付いた。
小降りの雨なのだが、
雨が赤い。
「血の雨ってやつですか?地獄っぽいけど、血の池じゃないんだな。
溜まれば池になるのか?」
霧に近い小降りだが、色が付いているせいで、ひどく視界が悪い。
明るいのに全く先が見えず、地面や岩壁が、赤黒くなっている。
不意に地面が揺れた。
ゴゴゴと音がして立っていられない。
「うおっ?なんだー?地震か?でかいし、長いー!」
洞窟の奥からドンと音がする。
振り向くと、天井が落ちてきていた。
「やべっ!」
転がりながら外に出ると、洞窟が崩れて埋まってしまった。
それと同時に揺れが小さくなり、収まったようだ。
雨は止んでいない。
ジャージ一枚で、
木の化物姿で、
血の雨の中に放り出されてしまった。