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ふと、あの日が見えて

作者: ろゐ

 これは僕が小学生だった頃の話なのだけれど、当時の僕はクラスから浮いていた。

 

 年月が経って思い出として振り返れる今だからそう言えるが、それは当たり前だったと思う。なぜなら小さな彼は癇癪持ちの人見知り、しかもどうしようもない我が儘な子供だった。


 友達は少なくて、クラスの皆と遊ぶことも少しだけだった。そんな彼に気軽に話せる女の子なんていなかった。


 だけど、ある日。彼は一人の女の子に声をかけた。きっかけは何だったか、本の趣味が一致した記憶だけが朧げに残っている。


 その日から何度か彼は女の子と会話するようになった。何のとりとめのない話。これと言って面白みのない話だった。でも女の子は楽しそうで、それを見ている彼も楽しかったのかもしれない。


 突然彼女が学校に来なくなった。先生は理由を話さず、女の子が何日か登校出来なくなるとだけクラスに伝えた。


 彼は女の子が心配になり、数回。彼女の家に訪れた。訪れはしたが、いずれも門前払い。女の子には会わせてもらえなかった。それは彼だけでなく、他のクラスメート達も同じ応対をされたと話していた。会いにいくたび彼女の母親がごめんね、と優しげな哀しい笑顔で言っていたのを今でも覚えてる。


 月日が流れ女の子と彼の繋がりは希薄になっていった。彼は何人か友達も増え、以前よりは充実した生活をしていた。


 その日はバレンタインだった。例年と同じようにクラスメートからチョコを貰っていると、同じクラスメートから一つチョコを渡された後、もう一つチョコを渡された。これは何と尋ねると、その子はそれは彼と話していた女の子からのチョコだと言った。そのチョコはコアラのマーチで、箱の裏に彼の名前が書いてあった。


 彼がそれを眺めていると、チョコをくれたクラスメートが、そのチョコは誰にもあげちゃダメだよ。そう言って駆けていった。小学生だった彼にその意味はわからなかった。


 それから何事もなく卒業式を迎えた。クラスメート達はスーツや中学校の制服を着ていて、笑っていたり泣いていたりしていた。彼は卒業すれば他県に引っ越すことが決まっており、クラスメートと気軽には会えなくなってしまう。だが、涙はでなかった。不思議とまだ泣いてはいけない気がした。


 式が終わり、集合写真を撮って解散するとなったとき、あの女の子が校門に立っていた。彼は彼女の元へ走った。今さら会ったところで何を言ったらいいかわからなかった。


 その時した会話は覚えていない、もしかしたら何も話さなかったのかもしれない。ただ、女の子からバレンタインと同じコアラのマーチを手渡されたのは覚えている。


 彼女と会ったのはそれきりで、引っ越した後、バレンタインにチョコを渡してくれたクラスメートから電話がかかってきた。その通話での一言が今でも忘れられない。


「あの子は君のことが好きだったんだよ」


 それを聞いた後、喉が潰れるほど泣いた気がする。自分は彼女を裏切った。気持ちに応えなかった。逃げたんだ。


 そんな思いが、今でも澱のように僕の心に沈んでる。

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