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変な好きな人  作者: 相澤
4/11

覗き魔変態野郎

「ねえ。真志の好きな人って、結局誰なの?」


「だから、皆の知らない人だってば」


恋愛系の話題になると、決まって仲間は私にそう聞いてくる。未だに知りたがっているのだ。私の好きな人が、いったい誰なのか。


教えるつもりは更々ないけど、いい加減疲れてきた。だけど「もう好きじゃない」と言うには、信じてもらえなそうなタイミングだし。やっぱり最初っから嘘だと言えばよかった。


「その人とさ、付き合えそうな雰囲気とかないの?」


「いやー…無理でしょ」


のほほんと仕事をするライオビットの姿を思い出す。あいつと付き合うですって?駄目だ、想像すらできない。だけどきっと、お伽噺みたいな画になることは確かだ。


さすがに私だって、あんな奇妙なマスコットとお付き合いしたいだなんて頭お花畑なこと考えてない。まぁ恋心抱いてる時点でおかしいんだけど…。


もういっそのこと、架空の人の名前でも言おうかな。県外に住んでてなかなか会えない人、とか言って。ちょっと胡散臭いかもしれないけれど。


「だって真志がその人と付き合ってくれない限り、光は私に振り向いてくれないじゃん~」


そうはっきりとぼやくのは、日比谷詩子という女だった。男相手には常に上目遣いで、舌っ足らずな喋り方をし愛想を振り撒いている。緩くカールされた髪を高校生にもなって平気でツインテールできてることが、もう自分に自信があることの表れだ。似合うし顔も可愛いから、文句は言えないけれども。


言うまでもないと思うけど、私は詩子のことが嫌いだった。さっきみたいに嫌みを言ってきたり、男中心に世界が動いてるところも嫌いだ。女のねっとりした部分を全てかき集めた見事な性格をしている。


「いやぁ…そもそも光って、私のこと本気かな」


「どういうこと?」


「だって私に好きだとか言いながら、女の子と遊んでんだよ?」


「まぁ、そうだよね。だって私、定期的に光とエッチしてるし」


「そうそう…はぁ!?」


詩子の言葉に、度肝を抜かれてしまった。定期的にって、何?エッチってそんな軽い運動みたいな感覚でしちゃえるものなの?益々光の気持ちに信憑性が欠けてきた。どの面下げて私に好きだと言っているのだろうか、あいつは。


「抱いてくれたら好きになってもらえるかな~とか思ってたけど、なかなか難しいんだよね」


「いや…エッチしてんだったらもう付き合ってるってことじゃないの?」


「だって光、私に好きって言ってくれたことない!それに私だけじゃないもん、体の関係持ってるの」


「何それ…」


全然理解できない、今時の高校生の性事情。だってエッチって、好き同士がして成立するものでしょ?それとも私がおかしいの?私の考え方が、もう時代遅れということなの。


「二人でいるときも真志の話ばっかりだしさ~…私、悲しくなっちゃった」


机に突っ伏す詩子に、周りは「また始まった」と言いたげな顔で呆れ返った。喋るだけ喋って、最後は勝手にいじける。自己中心的な彼女に、私だけでなく他の仲間たちもほとほと愛想が尽きていた。


「真志、相手にしなくていいよ」


こそっと耳元でそう囁く友人に、苦笑いしか返せなかった。それでも、いつの間にか私の好きな人の話題が皆の頭から消えていたことには安堵するばかりだった。




こいつに相談しても無駄か、と思うけれど、私は誰かに話を聞いてほしくて仕方がなかった。


とろとろモップを動かすライオビットの後を着いていきながら、私は一方的に鬱憤を吐露した。


「それでさぁ、その娘が言ったのよ。本気で好きだから手を出さないんだって。私は、好きじゃない人とエッチしちゃう気持ちのがわかんないのよね」


ライオビットは何も答えない。恋愛の話になると特に黙りを極め込むのだ。苦手なのかしら、こういう話。それでも、答えてもらえないのがわかっていてもしつこく話しちゃうのは、彼の「そういうところ」も見てみたいから。


…でも中の人の恋愛遍歴を聞きたいわけではないのよね。


「体を求めないことが本当の好きってことなのかな…経験ないからわからないよ」


そもそも私、キスはおろか誰かと付き合ったことだってない。エッチしたら更にその人が好きになったという人もいれば、大事にしたいから体を重ねることはしたくないという人もいる。どちらが本当の愛なのかわからない。高校生がそこまで深く考えて恋愛できるのかどうかも疑問だ。


それまでノーリアクションだったライオビットが突然振り返り、人差し指を口に当てた。急にどうしたんだろうと思ったけれど、子供たちの声が聞こえてきたことで彼の伝えたいことがわかった。口を慎めということだ。確かにこんなディープな話、チビたちの耳には入れられない。


「ご、ごめん」


恥ずかしさに頬が赤くなる。ライオビットはどういう気持ちで、私の話を聞いていたのかな。変わらず仕事を黙々と行う彼の気持ちは、結局わからずじまいだった。




俺はよゐこ堂で、恐らく聞いてはならないことを聞いてしまったようだ。


『経験ないからわからないよ』


香椎が何気なく洩らした言葉。俺の考えすぎなら誰かに笑ってほしいが、多分話の文脈からして「経験」というのはつまり、セックスのことではないか。


俺はさらりと、香椎が処女である事実を耳にしてしまったのかもしれない。


「ちょっと光!前向きなさいよ。先生に見つかるじゃない」


「だって~真志の顔、見てたいんだもん」


香椎の声が、嫌に俺の鼓膜に響く。自分が覗き魔変態野郎に思えた。激しい罪悪感に襲われ、ろくにペンが進まない。


「あんたがこっち向いてると、私まで先生に叱られるじゃない」


「だいじょーぶ。音無君と話してましたって言うから。ね、勉ちゃ…勉ちゃん?」


宮内が俺の顔の前でヒラヒラと手を振った。低い声で「何だよ」と尋ねると、宮内は唐突に俺の前髪を掻きあげた。


「どした?汗すげーぞ。具合悪い?」


宮内は珍しく心配そうな様子で俺を見ていた。滅多にない宮内の優しさが、今はただ胸に刺さる。きっと宮内は、香椎に本気だ。本人には全然伝わっていないが、好きだから手を出せないと言うのは本当なのだ。俺だって恋愛経験はないが同じ男だ。気持ちは何となくわかる。


全てを知られたら、軽蔑されるだろうな。考えただけでも恐ろしいなぁ。ゴミ屑みたいな扱いを俺は、卒業までされるかもしれない。


どんどん飛躍していく被害妄想に、心なしか俺の身体は震え出した。


「ちょ、勉ちゃんマジで大丈夫!?せんせー!俺、音無君と保健室行ってきます!」


宮内のその言葉を最後に、俺の意識はプツリと途絶えた。


どれくらい時間が経ったのだろうか。目を覚ますと、真っ白い天井が見えた。ゆっくりと周囲に視線を移す。白いカーテン、身体にかけられた白い布団。全てが白々としているこの場所が保健室だと気づくのに、7秒は要した。そしてスプリングの軋む音に、自分はベッドの上にいるのだとぼんやりと現状を把握した。


上半身を起こすと、激しい頭痛がした。いったい俺は何時間寝ていたんだ?もう昼だろうか。大分腹が減った。


「しつれーい。あら、起きてたの」


予告もなしに養護教諭がカーテンを開けた。ビクリと肩を震わす俺に、特に謝罪の言葉を述べるわけでなく淡々と用件を告げた。


「起きたなら担任の先生に一言いって帰りなさい。もう下校の時間だから」


「え…下校!?」


「あなた一日中寝てたわよ。最近ちゃんと睡眠とれてなかったんでしょ。爆睡よ。あと、あなたのクラスの子が来てくれてるわ」


どうぞ、と言われカーテンから顔を出した人物に、俺は思わず目を見開いた。


「音無君。具合、平気?」


香椎だ。見紛うことなくそこにいたのは香椎だった。もしかして俺はまだ夢の中にいるのか?バレないように尻の肉をつねってみた。普通に痛かった。


「な、何で…」


「先生にプリント渡すように頼まれたの。あと、これ授業でとったノートのコピー。私の字汚いし、わかりにくいかもだけど…」


香椎から受け取ったノートのコピーに目を通した。女の子らしい丸字だが、読みにくいということはない。要点もきちんと纏められていて、非常にわかりやすい。下手したら俺よりノートの取り方うまいんじゃないか。


「あ、ありがとう…香椎のノート、綺麗だな」


「本当?嬉しい!まぁ、頭はよくないけどね」


「予習してないからじゃない?その日のうちに見返したら、多分一発で理解できるよ」


つい真面目にアドバイスしてしまった自分に気づいて、見投げしたい衝動に襲われた。何を偉そうに語ってるんだ俺は。でも、勿体ないと思ったんだ。根っから頭悪かったら、こんな綺麗なノートの取り方はできないはずだ。


「えへへ…確かに予習とかしてない。音無君はしてるんだ?」


「…うん、まぁ」


ああ、絶対「ガリ勉野郎」とか思われてる。事実だから何も言えないがな。


「私もこれから、勉強頑張っちゃおうかな!光みたいになりたくないし」


香椎は両手で握り拳を作りふんと鼻息を鳴らした。確かに宮内みたいになってしまったら、なかなか後戻りはきかないだろう。もうあいつは自分で問題解く気もないんだもんな。


「ていうか…丸山に頼めばよかったのに。わざわざ香椎が持ってきてくれなくても」


「丸山くん、HR終わってすぐに帰っちゃったの。私は用事とかもないし、全然大丈夫」


「そうなんだ…」


相変わらずなんて非情な男だ。親友が倒れたというのに足早に帰っちゃうんだもんな。あいつのことだからどうせ、リアルタイムでアニメを観るためとかだきっと。ほろりと零れ落ちそうになった涙を、頬を伝う前に拭った。


「あと何か渡し忘れてるのないかな~…」


香椎は自分の鞄の中をまさぐった。何気なく目を向けると、見覚えのあるものが彼女の鞄の取っ手にぶらさがっていた。


フェルト生地で作られているそれは、うさみみを生やしたライオンの人形だった。こんなビジュアルのキャラクターは一人しか思い付かない。二人といてたまるものか。


「…それ、」


ライオビットだよね。そう口走りそうになり、俺は咄嗟に言葉を飲んだ。香椎は手を止め俺の視線の先を辿った。俺が人形を見ていたことに気づくと、笑いながらライオビットの顔を撫でた。


「これ?家庭科の時間に作ったんだ」


「香椎の手作り…?」


「そう。気持ち悪いよね」


香椎もライオビットを気持ち悪いと思っているのか。正常な感性だ。しかし気持ち悪いと思っているものを作ろうというその思考は全く理解できない。流行りのツンデレか?だとしたら発揮する場所を間違えてるぞ。


「でもさ…大好き。なんだよね」


香椎は手作りライオビットの頬をむぎゅっと指で挟んだ。可愛くない顔が歪んでさらに形容しがたいものになっている。


ライオビット。お前は幸せ者だなぁ。可愛い女子高生に「大好き」だと思われているのだから。


香椎は、中身が誰であろうともやつに好意を持つのだろうか。そう考えると、ちょっとモチベーションが下がるな。もとから全力でマスコットしてるわけじゃないが、「中の人をやっててよかった」と思える実感はやはりちょっと欲しい。




翌日、学校に行くとなぜか俺の机の上には全教科の課題が乗っかっていた。


おかしいな。確か香椎から既に貰っていたはずだ。しかも昨夜のうちに全て終わらせてしまった。誰かが間違えて置いていってしまったのだろうか。


「やっほー勉ちゃん。具合はもう大丈夫?」


「ああ、宮内。平気だよ。昨日はありがとうな」


不本意にも一応世話になったことだし、ここは素直に礼を述べよう。それに少し嬉しかった。こんなやつでも人を心配する心が備わっていたことが。人生捨てたものじゃないと少しだけ思えたほどだ。


「そうだ。この課題、俺もう持ってるんだが何か知ってるか?」


「あーそれ?俺が置いといたの」


「そうなの?必要ないから返すわ」


俺は課題を宮内に手渡した。しかし宮内は受け取らなかった。湿っぽい笑みを浮かべたまま、俺をずっと見ていた。嫌な予感が胸を過った。


「…ねぇ勉ちゃん。勉ちゃんって痩せてるわりに、結構重いよね」


「は?な、何だよいきなり」


「大変だったな~勉ちゃんを抱えたまま保健室までいくの。腕外れるかと思っちゃった」


たり、とこめかみに汗が伝う。予感はほぼ確信に変わっていた。こいつは俺を揺すろうとしている。たった一回助けてくれただけで、今まで散々俺に迷惑をかけたことを棚に上げて。


「俺の分の課題も、よろしくね」


語尾にハートをつけてそう言い放った宮内に、やっぱり人間なんてのはくだらない生き物だ。今まで生きてきて最も強くそう感じた。




土曜日になると香椎はいつものようによゐこ堂に訪れた。ただ一つ違うのは、連れがいたということだ。そして心なしか香椎の顔が翳りを帯びていた。


「真志ってば、いつも玩具屋さんなんかに来てるのー?」


聞き覚えのある少し甲高く甘ったるさを孕んだ声に、俺は目を凝らして香椎の連れに目を向けた(マスクをしていると結構視界が悪いのだ)。彼女は同じクラスであり香椎の友達の日比谷だった。香椎は仕方ないが同級生が二人もいる現状に、思わず心臓が嫌な早鐘を打つ。


無自覚の圧力をかけられているのだ。何だって香椎のやつ、日比谷も連れてきてんだ。そう心の中でぼやいたが、二人が話しているのを聞いていると、どうやら偶然香椎がここに入っていくのを目撃した日比谷が着いてきてしまったらしい。香椎にとっても不本意だったようだ。


「ちょっと真志!あそこに変な人いるー!」


香椎の背をバシバシ叩きながら、興奮を抑えきれない様子で日比谷は俺を指差した。変なのはわかっているが、さすがにいい気持ちはしないな。


香椎は遠慮がちに俺に向かって手を振った。俺も片手を上げて返した。彼女の表情からして、日比谷と俺を会わせるのをよろしく思っていないようだ。明らかにこちらに歩み寄るのを渋っている。それでも好奇に目を爛々と輝かす日比谷に強引に引っ張られ、香椎は俺のもとへやってきた。


「こんにちはー!やだ、可愛い~」


女子特有の「何にでも“可愛い”言っちゃう病」に騙されないぞ俺は。さっき「変」って言ってたの聞いちゃったもんね。


「ほ、本当に可愛いって思ってる?」


マジな顔でその確認はやめろ。もし店長に聞かれたりしたらあの人泣くぞ。


「可愛いじゃん!兎さん~」


日比谷はそう言ってライオビットの頬を両手で挟んで撫でくり回した。至近距離に日比谷の顔がある。おまけにちょっと身体が密着してる。何だこれ、そんなに悪くないな。


「ちょっと詩子。迷惑になるからやめなよ」


いつも俺に暴力かますお前が言うな。何がそんなに面白くないんだか、香椎は珍しく友達相手に不快感を示していた。


日比谷はそんな香椎に気づかずに、遠慮なく俺に触ってくる。 「細ーい」なんて言って、軽く腰に抱きついてくる始末だ。マスク越しでも日比谷がいい匂いをしているのがわかった。


「名前なんて言うの?」


「ライオビットだけど…」


「ライオビット?ウケる!ここのバイトの人ですか~?」


日比谷は身体をくねらせながら上目遣いで俺に話しかける。あざといのがわかっていても、男とは馬鹿なものでこんなベタな仕草にコロッといってしまうものなのだ。しかもボディタッチが自然すぎて、お見事と拍手を送ってやりたい気持ちだ。女子力ここに極まれり。


「ねぇ、写真とりたい!真志お願い~」


日比谷は香椎に自分の携帯を渡し、俺と腕を組んでピースサインをつくった。肘に当たっている柔らかさを意識してしまったら負けだ。シャッターを切るまで何とか耐えろ、俺。


「どうしたの真志?カメラのやり方わかる?」


「う、うん…」


香椎はなかなかシャッターを切ろうとしなかった。難しい顔をして液晶とにらめっこしている。そろそろ俺のライフが限界に近づいているのだが。


「…あ、詩子。何かメール来てる」


「えー、タイミング悪すぎ。誰から?」


「光からみたいよ」


「うそ!貸して貸して!」


日比谷はあっさり俺から手を離し、香椎から携帯を奪い取った。光って、宮内のことか?まさかこの女もあいつのことが好きなのか。いったいどこがいいんだろうか。あんな一回助けたことをダシにして人を脅すような輩。


「今から会える?だって~私いくね!」


別れの挨拶もそこそこに日比谷は帰ってしまった。嵐のような女だ。彼女を見送っていた香椎の背中が、妙な威圧感を背負っている。


「…何でよ」


静かに唸る香椎に、一瞬背筋が凍った。本能的に恐怖を感じた。さながら狩られる寸前の草食動物だ。ライオビットのライオンの要素は完全に消え失せている(もともと兎の要素もライオンの要素もないが)。


振り向いた香椎は、今までに見たこともないような形相をしていた。鬼だ。そこには鬼がいた。


「何で私のことは突き放すくせに、あの子には好きなようにさせたの?」


何だその彼氏の浮気現場を見たときみたいな発言。あと目が血走ってるぞ香椎。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。


「意味わかんない!何であんなわざとらしい女に、デレデレしてんのよ!」


べちんと平手で腹を叩かれた。薄手のTシャツだからヒリヒリして痛い。何で俺が怒られなきゃならないんだ。デレデレしてないと言えば嘘になるが、少なくとも香椎にとやかく言われる義理はないはずだ。


さっきの一撃じゃ足りなかったのか、香椎は今度は的確に鳩尾を狙って拳を打ち込んできた。さすがに命の危険を感じ、俺は香椎の腕を掴んだ。


ジェスチャーで“落ち着け”と訴える。荒い呼吸のまま、香椎は俺を睨み付けた。心なしかその瞳には涙が滲んでいた。


「何で私のことは、拒否するの…?」


香椎の頬に涙が伝った。それを皮切りに大粒の雫がぼたぼたと足元に落ちていった。


香椎はライオビットに触りたいのか?俺が照れ臭いのと罪悪感によって拒んでいただけで、香椎はライオビットとよくスキンシップをとっていたのだろうか。


何となく感じていたが、香椎は対こいつのとき、妙に言動が幼くなる。小さい頃の彼女に戻っているかのように。


「ライオビット…私のこと、嫌い…?」


「…っ」


そんな涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を向けないでくれ。心が痛む。俺はどうしたらいいんだ。


とりあえず首に巻いていたタオルで香椎の顔を拭った。汗臭さとかを気にする余裕はなかった。それからぽんと軽く香椎の頭に手を置いた。香椎は少し口角を上げてくれた。


腰の辺りの服をきゅっと掴まれる。香椎はそのまま額を俺の肩にくっつけた。香椎の頭に置いていた手を滑らせて、背中を柔らかく叩いてやった。嬉しさを表現するように、香椎はぐりぐりと額を擦り付けてきた。


下心抜きにして、香椎が可愛いと思った。こいつの喜ぶことをしてやりたい。そんな衝動が、このときは俺の中に走ったんだ。

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