5 副会長に注意される
とりあえず、全ての授業を終え、放課後になる。
幸いにして、授業については今まで通りだった。部活には入っていないから、さっさと帰ろう。
「山本さん。帰られるのかしら? どうしてもというのなら、仕方ないから、一緒に帰ってあげても良くてよ」
妙な言い回しの西園寺に捕まる。
嫌なら声を掛けなければ良いのに。確か『ツンデレ』っていうんだったか。めんどくさい奴だな。どう考えても、悪印象しか与えないのに、何でこんな行動をとっているんだろう。度し難い。
「ああ、さっさと帰るから、ほっといてくれ」
「大智さん。帰りましょう。」
ごく自然に杏子が俺の横につく。
あれ? 何で杏子が一緒に帰る流れになっているんだ?
家が近所で、帰る方向が一緒だから良い・・・のか?
「ぐだぐだ言っていないで、さっさと帰ろうぜ」
正人までカバンを片手に声を掛けてくる。
正人、ついでに浜口さん。・・・お前らもかよ。
「諦めて受け入れろ。それが主人公の宿命だ」
正人がぼそっと呟く。
・・・めんどくさいな。ギャルゲーの主人公ってやつは。
まだ、ぎゃーぎゃー五月蝿い西園寺を引き連れ昇降口へ向かう。
「そこの貴方たち」
一階の廊下で声を掛けられた。進路を塞ぐように回り込んで、上級生と思われる女生徒がこちらを睨みつけてくる。
腰まである長い黒髪。すらっとした長身。きりっとした顔立ちの大和撫子。巫女服とかが似合いそうだ。だが、今は怖い表情で視線を飛ばしている。
「何でしょうか」
「また貴方たちなの? 前回も注意したのに、まるで聞いていなかった様ですね」
「誰?」
「さあ? けど、おそらく生徒会の副会長だ」
俺の疑問に正人が答える。
「注意を聞いていないどころか。私のことさえ覚えていない様ですね」
そんなこと言われても、正直困る。副会長?のことは違和感どころか、微塵も記憶にない。
副会長なんて、しっかり覚えていないけれど、そもそも男だったはず。
彼女はやれやれと額に手をやり、
「副会長の藤崎菫です。前回も廊下で騒がない様、お願いしたはずです」
騒がしいのは俺ではなく、主に西園寺だ。しかし、副会長には関係ないらしい。どうしてか俺にターゲットを絞っているようだ。
「その長い前髪。それも学生らしくもっと短くする様、再三言っていますよね」
おお、朝は覚えていたけれど、全く支障ないから忘れるところだった。やっぱり長すぎるよな。さっそく切ってこよう。
「何を笑っているんですか」
俺の苦笑した顔もお気に召さないらしい。
「いえ、副会長以外誰もこの髪を注意してこなかったので・・・」
正人の『主人公の証』セリフは除いて。
「今日、さっそく切ってきます」
「えっ、ええ。それは良い心がけです」
俺が言う事を聞くとは思っていなかったのか、ちょっと驚きながら答える。
「じゃ、そういうことで・・・」
一礼をして、副会長の横をすり抜ける・・・が、再度立ちふさがる。
「騒いだ事への弁明をまだ聞いていません」
騒いでいたのは主に西園寺だ。何故俺に矛先が向くんだ。完全なとばっちりだろ。
西園寺は知らん顔。・・・お前のせいだろうに。
杏子は困った顔をしているが、口を挟んでくる様子はない。
正人は口パクで「あ・き・ら・め・ろ」 ・・・理不尽だ。
騒ぎすぎたせいか、下校中の生徒から注目を浴びてしまっている。廊下の真ん中を占拠しているのだから、当然と言えば当然だ。
さて、どうしたものか。
「如何したんだい? 藤崎クン」
ぱさ~と、金髪の前髪をかきあげ、ナルシストっぽくて、似非王子サマっぽい男が声を掛けてくる。
キラキラという効果音、さらには背後に後光が見える。無論、錯覚だが。
正直、キモい。
「会長!」
「お兄様!」
副会長と西園寺がその男を見て声を上げる。
その言い方だと、この人・・・西園寺のお兄さんで生徒会長なのか。
「このボクに免じて、ここは見逃してくれないかな」
こちらに向かって、ウィンクしてくる。
「うげっ」浜口さんが滅茶苦茶引いている。
様にはなってはいるのだが、男にやられると鳥肌が立つ。
しかし、副会長は納得したようだ。
「会長が、そう仰るのでしら・・・」
・・・えっ、それで良いの?
「彼が申しわけありませんでしたわ。藤崎先輩」
西園寺が副会長に謝罪する。
・・・いや、お前のせいだからな。
生徒会副会長と、ついでに会長が登場。
ヒロインが登場する強制イベントはこれで完了です。
後は、フラグを立てて特定の場所に行くと、もう少し出てくるはずですが、もう要らない気がしてきました。
ということで、次話は視点を正人にしての物になるはずです。