12
「あんたの名前は、黒銀。あだ名はクロ。黒銀のクロだ。」
手をドラゴンの頭に乗せて言った。
『あ、主・・・。』
ん?何よ・・・。
手で顔面を覆っている精霊と、小さな翼で宙に浮いているクロ。
『名前を授けたことで、主は、その闇のドラゴンの真の主となりました。』
へっ?
そ、そんなん聞いてへん・・・。
『仮とは言え、主となった者が正式な主となるためには、相手のドラゴンがその名前を気に入り、納得する必要があるんです。この闇のドラゴンは・・・主から貰った“黒銀”という名前が気に入ったみたいですね。』
私の周りをパタパタと飛ぶクロこと、闇のドラゴン。
そうか、そんなに嬉しいのか。
「はははっ、」
乾いた笑いしか出ないよ。
さあ、ちょっと深呼吸してみようか。
ココに来て、思い始めた現実について。
それは、これ、今まで起こった現象が夢ではなく、現実なんじゃないかと言うこと。
つまり、
私は、違う世界に来てしまったという仮説。
第一の仮説は“夢”だけど、夢を仮説と言っている時点で少し悲しいんだけどさ。
夢じゃないとしたら、ここは異世界で、となると私は帰るために生きていかなきゃならない。
がっくりと項垂れる私に視線を合わせる精霊が、顔を覗き込む。
「何?」
『・・・私にも名前をください、主』
覗き込んでくる綺麗な緑の瞳。
うううっ、思わず後ずさりしてしまった。
この態度が精霊を傷つけてしまったようで、今度は彼ががっくりと項垂れる。
『・・・・。』
しくしくしくしく・・・。
大袈裟な。
しくしくしくしく・・・。
ええーいっ!鬱陶しい!!
「分かった、分かったから。」
その一言で精霊は、輝くような笑顔を見せた。
目元が赤くなり潤んでいるから、嘘泣きではなさそうだ。
「えー、えーと、(苦手なんだよ・・。)あーうー・・・精霊、妖精、んー、エルフ、エル、んー、アロマ、アロ、アロル・・・。」
そ、そんな期待に満ちた目で見るなっての。
「エルア、あんたの名前はエルア。」
精霊は、飛び上がらんほどに喜んだ。
『ありがとう、主!!これほどまでに嬉しいことはない。』
ちょ、ちょっと、大袈裟・・・。
何故か、ドラゴンと精霊が手を取り合って、踊ってるし。
「あんた達、騒ぐのはお止め!」
こんな道の真ん中で。
恥ずかしい。
民家とかがないからいいものの、煩いでしょうに!!
『『はい、主!』ママ!』
ぴしっと起立してみせる2人。
ため息が出た。
つづく