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煌々恋夜~雹国恋記~  作者: 月倉 柚凪
第一夜:夜露に開く花
3/4

❖妹

気分転換。

 小さくて、本当に小さくて。

 でも、とても可愛くて。

 だから、一生懸命守ろうと思っていたのに。

 それなのに、私の可愛い――は・・・。



 とてとてと小さな足で、一生懸命に走って来るこの国の貴妃に、私は服に汚れをつくのも躊躇う事無く頭を下げる。


「――貴妃様におかれましては、ご機嫌麗しく・・・、」


 途端、その足音がとまり、それと同時に、悲しみの感情がひしひしと伝わってくる。


 帰る途中、通りかかった道がいけなかった。

 近道だからと、以前に父様に教えて貰った道を通ったが故の今回のこの失態。


 逢ってしまってはダメだったのに。

 顔を見せてはダメだったのに。

 声を、目を合わせてはダメだったのに・・・。


「ちぃ姉様、」


「杏貴妃様、私の事はどうぞ花蘭と。」


 あなたは私の妹ではないのだから。

 あなたはこの国の貴妃なのだから、弱味の根源となるものを持っていてはならない。

 だから私の事は。


「いや、ちぃ姉様!!」


 幼く、頑是ない子供の泣き声がその回廊に響く。


 パタパタと走り寄る足音に、思わず上げかけた頭は寸前で堪え、その姿のまま後退すし、記憶にあるより更に甘くなった声に、甘い香りに、抱いてはならない感情が湧き起こる。


 私がもし男だったのなら、私がもし武官だったのなら・・・!!


「御前、失礼致します。」


 これ以上、ここには居られない。

 皇帝に刃を抜く前に、皇帝を罵倒する前に、早くここから離れなくては。


 素早く立ち上がり裾が翻るのも構わず、その場から逃げるように走り出す。

 後ろからは胸を引き裂かれるような声で私を求める声。


 本当は抱き締めたかった。

 本当は思いっきり甘やかし、話もしてやりたかった。

 でもそれはあの子を危険に曝すこと。


 どれだけ必死になって忘れようとした事か。

 どれだけ必死になってあの子を守ろうとしてしている事か。

 

 あの子は家にとっては皇家との糸より細い絆。


 だから。


「貴妃様、私でよければあの者を引っ捕らえて来ましょうか?」


「・・・、」


 聞いた事のない男の声を首を振るだけで拒否した、私の嘗ての妹を、ほんの少し立ち止まって見て、誇らしく思いつつ、私は、逃げた。

こんなものかな?

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