❖妹
気分転換。
小さくて、本当に小さくて。
でも、とても可愛くて。
だから、一生懸命守ろうと思っていたのに。
それなのに、私の可愛い――は・・・。
とてとてと小さな足で、一生懸命に走って来るこの国の貴妃に、私は服に汚れをつくのも躊躇う事無く頭を下げる。
「――貴妃様におかれましては、ご機嫌麗しく・・・、」
途端、その足音がとまり、それと同時に、悲しみの感情がひしひしと伝わってくる。
帰る途中、通りかかった道がいけなかった。
近道だからと、以前に父様に教えて貰った道を通ったが故の今回のこの失態。
逢ってしまってはダメだったのに。
顔を見せてはダメだったのに。
声を、目を合わせてはダメだったのに・・・。
「ちぃ姉様、」
「杏貴妃様、私の事はどうぞ花蘭と。」
あなたは私の妹ではないのだから。
あなたはこの国の貴妃なのだから、弱味の根源となるものを持っていてはならない。
だから私の事は。
「いや、ちぃ姉様!!」
幼く、頑是ない子供の泣き声がその回廊に響く。
パタパタと走り寄る足音に、思わず上げかけた頭は寸前で堪え、その姿のまま後退すし、記憶にあるより更に甘くなった声に、甘い香りに、抱いてはならない感情が湧き起こる。
私がもし男だったのなら、私がもし武官だったのなら・・・!!
「御前、失礼致します。」
これ以上、ここには居られない。
皇帝に刃を抜く前に、皇帝を罵倒する前に、早くここから離れなくては。
素早く立ち上がり裾が翻るのも構わず、その場から逃げるように走り出す。
後ろからは胸を引き裂かれるような声で私を求める声。
本当は抱き締めたかった。
本当は思いっきり甘やかし、話もしてやりたかった。
でもそれはあの子を危険に曝すこと。
どれだけ必死になって忘れようとした事か。
どれだけ必死になってあの子を守ろうとしてしている事か。
あの子は家にとっては皇家との糸より細い絆。
だから。
「貴妃様、私でよければあの者を引っ捕らえて来ましょうか?」
「・・・、」
聞いた事のない男の声を首を振るだけで拒否した、私の嘗ての妹を、ほんの少し立ち止まって見て、誇らしく思いつつ、私は、逃げた。
こんなものかな?