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煌々恋夜~雹国恋記~  作者: 月倉 柚凪
第一夜:夜露に開く花
1/4

❖始まりは忘れ物

すっげぇ~短いですけど。

「ごめん、小蘭」


 そうにっこりと笑って、私に謝ったのは、我が家の当主でもあり、私の父様でもある そう 玲叔れいしゅく、36歳の吏部の下級官吏。


 私の父は極度のお人好しと言うか善人で、それでいて、常日頃から忘れ物が多い。


「謝るなら母様に謝って。母様、泣いて、拗ねて、宥めるの大変だったんだからね?」


 いつもは気位の高い母様は、父様の事となると、聞き分けのない子供みたいになる。

 そんな母様を宥め、父様と仲直りさせるのは私の大事な仕事。


 でも、たまには勘弁してくれとも思うのも正直なところ。

 

 だから、今日こそはと思って先手を打とうとした矢先。


「うん、だからごめんね?小蘭」


 にっこりと微笑まれ、そう言われてしまえば、私が断れないのを知っていての父様の言動。


(ズッルイ!!)


 海千山千と言われ、呼ばれている老臣達よりも遥かに腹黒な父様。


 こうでもなければ、この宮廷では生き抜いて行けないとは知ってはいるけれど。

 それでも納得いかない。


 その腹いせに、私は父様譲りの顔でにっこりと微笑んだ。


「明々采館の点心で手を打ってあげる」


「ありがとう、小蘭。いい子だね」


 そう言って頭を撫でてくれた父様は、銀を一枚袂から探り出し、手に乗せてくれた。


 この銀一枚で一般庶民ならば、半月は楽に暮らせる。


 食事はおろか、衣服や住居も楽で、より良い所で。

 

 でも。


「彩王母様のお恵みだよ。朝たまたま道端で拾ったんだ。これで蘭菊に紅でも買ってあげて?」


 中々受け取ろうとしない私に、父様は更に笑みを深め、私の手に銀を握らせ、お弁当を受け取り、ゆっくりとした足取りで吏部の方へと消えていった。


 後に残されたのはとても14歳とは思えない黒髪黒眼の小さな私と、銀一枚。


「全く、甘いんだから父様ってば」


 父様は彩王母様の事なんて信じてない。

 だけどこうして小さな嘘を吐くのは、私と母様との幸せで温かな三人での生活を守る為。


(仕方ない、騙されてあげましょう。)


 自然と綻ぶ唇を意識しながら、私は家に帰るべく元気良く駆けだした。



 

 そう 花蘭ふぁらん、14歳。


 この時の私は、恋も知らない、本当に小さな存在でした。


相手はまだ出てきません。

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