月下の惨劇
永夜抄編スタートです!
2011,7/3,一部修正しました。
その日は不気味なまでに月が白く、鈍く輝いていた。
月の下、白装束の者が神輿のような何かを運んでいた。
ちょうど人が数人入りそうな箱を乗せ、神輿のようなものは進んでいく。
「…蓬莱山輝夜、もうすぐ目的地に着く。準備を。」
外から冷たい声がした。
「…姫様、何かの間違いですよね?姫様が蓬莱の薬を飲んだだなんて…」
「飲んだわ。不老不死というのは魅力的だった。…誰も死にたくないのは同じ。」
十二単を着た少女が、心配そうに見つめる従者にぽつりと言った。
「そうでしょう…永琳?」
少女は目の前に座る女性にそう語りかけた。
紺と赤の2色の服を着た、白銀の髪の女性。
「…確かにそうですね。」
女性はそう返したきり黙ってしまった。
「でも清々したわ。あんな屋敷で死ぬまで永遠に住むなんて御免よ。死ななくなったし、老いて美しさを損なう事も無くなったし。責めるなんてとんでもないわ、だって私からそう頼んだんだもの。」
…これからの生活にどうやらこの少女は期待しているようだ。
「貴様!何を…ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
突然の悲鳴と共に、神輿は地に沈む。
「殺せ!殺られる前に殺れ!」
箱に閉じ込められていた少女達は、何が起きているか確かめるべく外に出てみた。
…白装束の者達が、身体を引き裂かれて無惨に死んでいる。
肉片が、赤黒く光る。
そして、屍の頂点に立つ者に気が付いた。
血に濡れた黒の男。
「…随分と酷い出迎えじゃない。」
少女は彼を知っているようだ。
「…姫、もう少し待ってくれ。…まだ生きてる奴が居る。」
音を立てずに逃げようとした白装束の者が彼に捕まる。
「た…助けて…」
その恐怖の感情を直に表した顔を見て、彼は引き攣る程唇を吊り上げて返した。
「無理だ。今の俺は…殺人鬼だからな。」
頭を握り潰し、返り血を直に浴びた彼の顔には笑みが。
「…うっ!」
従者が余りもの惨劇に耐え切れなくなったのだろう、その場所から離れた。
「…恐ろしいわ。人を人と思わないのね。」
少女…輝夜はあくまで冷静に話しかけた。
「あれはそもそも人じゃない。『人の形をした何か』だ。現に、あれは…」
彼は、先程頭を握り潰した肉体を指差した。
肉体は立ち上がっていた。
「頭がないのに動いている、これはどう考えても人じゃないだろう。だから容赦なく殺した。」
今度は胸の辺りを貫き、止めを刺した。
「…蓬莱山輝夜…でいいんだな?」
「ええ。」
「依頼主と確認した。こっちだ。」
彼に案内され、竹林に足を踏み入れる。
「…此処だ。貴女方には暫く此処に隠れて貰う。…異論はないか?」
目の前には立派な建物が。
「特にないわ。強いて言うとすれば…貴方の名前をまだ聞いてない。」
「…名前はない。貰った事すらないが、上司からは『ネイビー』と呼ばれている。」
「そう…。ネイビー、私達は何時まで此処に居ればいいの?」
「奴ら…月の奴らが追ってこなくなるまでだな。」
「月の奴ら…?」
「きっと、この事態は直ぐに奴らに伝わる…つまり、奴らは必ず君達を追いかけまわす。だが、必ず終わりは来る…それまで、君達は隠れていてくれ。」
「解ったわ。それより、貴方はどうするの?」
「俺は月へ向かう。奴らが動き出すより前に手を打つ。…ただ、君達にもう会う事はないだろう。」
ネイビーのその一言が、輝夜に疑念を抱かせる。
「どういう事?」
「俺の任務は此処で終わりだ。後は月で一騒動起こせばそれでおしまい。安心しろ、人殺しは今の所する予定はないから。」
「何処に安心できる要素があるのよ…月に入るのにも一苦労なのに、それを…」
「何も正しい手段で入るとは誰も言ってないぞ?…ある人物の力を借りる。これ以上は聞かないでくれ、任務に支障が出る。」
とにかく、ネイビーはそう間を繋げ、続けた。
「『月の頭脳』と言われた彼女が傍にいるんだ…俺の行動の意味は彼女になら解るはずだ。解らないなら彼女に聞いてくれ。」
そう言い残し、彼は足早に去った。
「どういう事、永琳?」
すると、彼女はすぐに閃いたようだ。
「姫様、すぐに…」
輝夜に何かを耳打ちする永琳。
「…え!?それって…!」
全てを聞いた時、輝夜の顔に見えたのは驚き。
「ええ…彼はきっと…!」
次回予告
「欠けた月、新たな異変」
久しぶりにレナ登場!
お楽しみに!