失われたあの日の記憶
-映姫視点-
「不死の人間…それがどれだけ危険なことか、貴女には解りますか?」
「力さえあれば間違いなく強者の仲間入りってくらいしか解りませんが…」
「でしょうね。不死になったことがないから解るはずがない。私も100%の完全な正答は言えない、それでも推測、調査ならできる。蓬莱山輝夜に不死について尋ねてみたことがあります。彼女はこう言っていました…『不死であれば死ぬ恐怖を感じることはない。言うなれば「常に捨て身で戦える」。仮にこの力を持った者を兵士に出来たなら、まさに一騎当千、修羅の如き働きをしてくれるわ。逆に敵に回したなら…言わなくとも解るわよね?』
そう…彼は、勿論彼の力は危険すぎる…当時、彼の事を全く知らなかった私と紫はそう結論付けました。今となればただの杞憂だったのですが…」
此処まで言った所で、小町が「どうも納得がいかない」と言いたげな表情を浮かべながら口を挟んだ。
「…ちょっと待ってください。だから彼にリミッターをかけたんだって話は解りますけど、だとしたらおかしな点が幾つかありますよ。」
察しがいいわね。…全て合っているのなら、ですが。
「ええ。どうぞ。」
「まず一つ目。危険人物の可能性があるなら、それこそ映姫様があらゆる手段を講じて地獄に身柄を置いておけば良かったじゃないですか。幾ら不死とはいえ、地獄の前にはどうしようも…」
「その手段を、紫はまず私に進言しました。ですが、地獄とは『精神の監獄』…つまり死んだ者、肉体を失くした者であることが前提でなくてはなりません。特例…例えば幻想郷に多大なる恩恵を齎した者等は肉体を持つ身でも地獄に入れますが…何も知らない者をいきなり地獄に入れるのはいささか問題がありました。よって、その手段は講じませんでした。」
「二つ目です。事前に此処まで解っておきながら、八雲紫は何故彼に戦いを挑むような道を選んだのですか?殺せないというのを解っていながら戦いを挑むなんて、ぶっちゃけただの大馬鹿としか…」
「大馬鹿ではありませんよ。彼女は確かめたかったのです。彼が本当に危険な人間ではない事を。自ら悪役を演じ、彼の本性を見ようとした。結果は白。彼は危険どころか、寧ろその逆だったのです。」
「三つ目です。…彼の力を制限した理由、それは命蓮にあるんじゃないんですか?幾ら危険である可能性があったとしても、あんなガチガチの制限かけてたら戦うのがやっとってレベルでしょう。現に映姫様は紅魔異変の際、リミッターを一つ外したじゃないですか。」
「…ええ。あの命蓮の能力に似ているのなら、もっと警戒すべきだったのです。あの時はただのリミッターでしかありませんでしたが、その命蓮の目的をあの時知っていたならば、玲奈を…彼を幻想郷に入れるべきではなかったと今更ながらに後悔する部分もあるのです。」
「命蓮…そもそも、その命蓮ってどんな人間だったんです?他人を治せる、それくらいしか解りませんよ。映姫様がそこまで警戒するってことは、余程の危険人物だったのかなと思うんですが。」
彼は確かに危険だった…。
「…彼の恐ろしい所は『悪行を成さずに悪行を成す』ということです。」
「…言っている意味がよくわからないんですが…」
「まず、文献でしか知り得なかった彼の思想についてですが、彼は『完全平等主義』を貫いていました。この世に生まれた命は全て同列…人間も、妖怪も、何もかも全て平等…」
「え?善良な思想にしか見えませんが、何処が危険なんです?」
「狼人間をご存じですか?あれを頭に置いて考えてみてください。狼人間は人間と同じ知能を持ち、さらに狼のように力が強く、そして残酷…そんな狼人間が何故生まれたか、考えたことはありますか?」
「…よく話が見えてこないんですが…」
「簡単な話、狼と人間の間に出来た子孫が狼人間の起源です。命蓮は『どんな命も平等である』と言いました。つまり動物と人間が結婚しようが何をしようが構わなかったのです。そう…命蓮にその意識があったにせよなかったにせよ、結果的にこの思想のせいで人間、動物、妖怪の境界があやふやになってしまったのです。それに、すべての命が平等であるというのは、言い換えれば私のような『他人を裁く人間』なんて居てはいけない存在…排除されるべき存在なのです。…小町、この思想、成れの果てはどうなると思いますか?」
「…秩序、戒律が崩壊する…」
「そう。完全平等と言うのは全ての秩序を根底から否定する行為…そして秩序が崩壊すれば、この世界は果てしなく不安定になる。戦乱になっても十分おかしくなかった。幸い、この思想が世間に広まる前に命蓮は命を病で落としました。ですが、この志を引き継ぐ者が現れたのです。」
「誰なんです?」
「名は白蓮…私はそう聞いています。ですが、彼女は魔界に封じられた…余りにも危険すぎたその思想を、芽吹かぬ内に叩き潰す…それだけの理由で…」
「でも、平和であるなら完全とは言わずとも、平等主義ってのも良いとは思いますよ?」
「それも言えているのです…私達閻魔は地獄の戒律の下でなら平等を認めている…命蓮と似通った思想ではあります。だからこそ彼女…白蓮の処遇は長年議論されているのです。そろそろ結果が出る頃だとは思うのですが…」
「っと、なんかそれで話が終わりみたいな感じになってないですか?結局、なんでレナにそこまで肩入れしてるんです?結構な危険人物だったかも知れないじゃないですか。」
「紫の件、そして今までに起きた数々の異変…それを解決しようとする姿に、命蓮の意志は感じられませんでした。どう悪く見ても、彼は悪人ではない。だからこそ、私は彼に賭けてみたかった。彼と言う存在が、もしかすると周りを、ひいては幻想郷も正しい方向に導いてくれるのかも知れない。それに、あんな終わり方では成仏してもし切れません。」
「…ま、そうでしょうね。こんな終わり方じゃ、私も吹っ切れないですよ。」
「…さて、話は終わりました。」
終わってみたのはいいが、外は既に真っ暗。
「明日も休みなんですよね?なら今日くらい泊まってってください。布団なら2枚用意してるんで。」
「そうします。ありがとう、小町。」
彼の復活を願いながら、私は眠りについた。
-早苗視点-
「変わって…なかった…」
あの日、私は彼の死に顔を見て、全てを思い出した。
私の敵だった彼は…見たことがあった。
「レナ…なんでレナが…」
昔の記憶、もう捨てていたはずの記憶が甦る。
幼い頃、確かに彼と一緒に居た時期があった。
ほんの一年くらいだったけど、よく遊んでいた。
探検とかよくしたと言うのに…私も彼も、忘れてしまっていたようだ。
その日以来、私は毎日のように夜空を見上げている。
何時か見れるであろう、流れ星を見る為に。
能力でそんなことを起こしてしまえば話は早い、でもそれだと願いが届かないような気がして、私は待っていた。
「あっ…」
きらりと一筋の細い光が流れた。
手を組み、私は願う。
「神様…レナを…レナにもう一度会わせて…私、彼にまだ伝えてないことがあるの…」
信じなきゃいけない神は別に居る、だけどこうでもしないとあの星は、神様は叶えてくれそうにないから。
「奇跡は起きるものじゃない…起こすもの、そうだよね…レナ?」
非力な人間だからこそ、やれることをやる…罪滅ぼしじゃないけど、傲慢すぎるかもしれないけど。
それでも、願う事しかできないから。
-レナ視点-
「な、なんだってー!!」
え?つまりは俺、敵の本拠地に何も準備なしで入ったって事?
「百聞は一見に如かずって言うわよね…ついて来て。」
俺はアリスの言うとおりにして、城の中を進む。
なんか紅魔館とは随分違うな…同じ城でも、ここまで違うものなのか?
「こっちよ。」
長々とした廊下を渡り、階段を上り、結構歩いたところである部屋の前で止まった。
「この中ね…」
とアリスが扉に手をかけようとした瞬間、扉が独りでに開いた。
「…ようこそ、侵入者さん。それと…」
何かが真っ暗な部屋の奥から近づいてくる!
「おかえりアリス~!」
その人物は俺を無視して横にいたアリスに抱きつく。
「こんなに立派になって!私はとっても嬉しいよ~!」
アリスの髪をわしゃわしゃとする、銀髪の女性。
…背中からは翼のようなものが生えているが、それはもう見慣れたので良いとして。
「…それよりも、彼の方をなんとかしてください。置いてけぼりですよ?」
「うにゃ?あ、そうかそうか。」
忘れ去られていたようだ、というか最初『侵入者』ってちゃんと言ってたのに…
改まったかのように、女性が軽く咳払いをする。
「というわけで、私が魔界の神様とか言われちゃってる神綺でーす、よろしくね(はぁと」
「…」
俺は素直に思ったことを心の中で言ってみる。
…この神綺、幽々子と同じタイプだ…ほんわかしすぎてる…
次回予告。
ノーカリスマ、バットほんわかの神綺!
拍子抜けしたレナに降りかかる悲劇!
アリス「嫌な…事件だったわ…」
はたして何が起こったのか!?
というわけで次回
「魔界湯煙殺人事件(大嘘)」
お楽しみに!