魔界篇…序章
ついに新章突入!!
「…」
此処は地獄。
その奧にあるちょっとした広間に、地獄を管理する10人の強者…すなわち『閻魔』が一同に会していた。
本来ならこの光景は余程の罪を犯した者に対する量刑を議論する時にしか見られない、それに議論は余りにも形式的で、結論はだいたい『永久に地獄に投獄する、輪廻転生など許さない』となるので議論の光景は静か、その一言に尽きる…はずである。
が、今回は事情が違った。
というのも、議題は残虐なる囚人の事ではなく、不運にも死んでしまった『ある人物』の処遇について、である。
「一体どうするのだ!!」
なんて机をガンガン叩き、進まぬ議論に苛立つ閻魔の一人。
「どうするもなにも…」
と困り果てる閻魔も居る。
まさににっちもさっちもいかない状態になっていた。
何故ここまでややこしくなったかと聞かれたら、閻魔達は口を揃えてこう言うだろう。
『悪魔に殺された人間など聞いた事がない!!』と。
本来、悪魔というのは霊的存在であって、悪魔が人間を殺める際には人間の魂を喰らう、又は破壊するのが主である。
つまり、地獄に『悪魔に殺された人間の魂』が来るはずがないのである。
ところが、今回は魂が喰われたり、破壊されていない。だから閻魔達は困ったのである。
悪魔や天使、神といった『殺意を持った』超自然的な存在の前には、人間は魂を残し得ない。
それは閻魔達にとって大前提であり、不変の真理である…はずだった。
それが根底からひっくり返ったものだから、閻魔達はオロオロしている。
閻魔と言っても、此処に居る閻魔は元は人間…予想外の事態が起きれば不安になるのも当然である。
この先行きの見えない真っ暗な議論を黙って見据える閻魔が一人居た。
四季映姫・ヤマザナドゥ…この魂について最も深く知っている閻魔である。
彼女の本心は勿論、この魂を元の世界に戻してやりたいという思いで一杯なのだが、その場合、ある問題が起きるのも同時に理解していた。
悪魔や神に傷つけられた魂には、修復出来ない程の傷がつく。
と言っても深い傷などではない、ごく小さく、浅い傷なのだ。
だがそれが、魂を肉体に戻す時に邪魔をする。
魂を肉体に戻して蘇生…それは閻魔にとっては造作もないことなのだが、その時に肉体に『印』がつく。
その印は、悪魔や神には見える。
そしてその印を見るや否や、悪魔や神は発狂する。
何故か、それはその『印』の意味にある。
その印の意味は、『この印を付けられた者は神や悪魔に逆らう者である』という意味である。
神や悪魔に逆らうというのは言ってしまえば『真理』に逆らうということと同義であり、絶対不変である真理に逆らう者は何としても排除されなければならない。
よって『印』が付けられた者…閻魔はそれを『咎人』と呼ぶのだが…は地の果てまで神や悪魔に追いかけ回され、確実に魂を消される。
仮に神や悪魔に逆らって死なずに無事だったとしても、その者も神や悪魔に傷つけられた時点で既に咎人と化しており、やはり地の果てまで追いかけ回され…消される。
そう、このままではこの魂の主…彩埼玲奈も咎人と化し、悪魔や神に追われる身となってしまう。
だから映姫は考えていた。どうすれば彼を…レナを咎人にせずに甦らせる事が出来るか。
正しく言えば、映姫にはある答えがあった。
だがその答えをこの場で言えば他の閻魔の怒りを買いかねない、それほど本来は避けるべき答えなのだが、映姫にはそれ以外に彼を甦らせる手段が思い付かなかった。
この閉塞した議論を打破すべく、映姫はついにその策を話す事にした。
だが、この意味のない雑音だらけのこの場を黙らせる、それをしてから。
「いい加減にしなさい!!」
普段見せる事のない映姫の怒りを込めたその声に、辺りは黙らざるを得なくなった。
「このままではどう考えても時間の無駄よ。貴方達は余りにも無様過ぎる…」
「それはどういうことだ!!貴様、それでも閻魔か…」
が、激昂したはずの閻魔は映姫の一睨みで「ひっ」と情けない声を上げた。
全員が映姫の言葉を待つ形に持っていってから、映姫は口を開いた。
「要は彼の魂を咎人でない形で肉体に戻してあげればいいのです、違いますか?」
「しかし、そんな手段があるわけが…」
「あります。ただ、私達が傲慢の塊である誇りを捨てる事が必要ですが。」
「…手段を聞こうじゃないか。」
「簡単です、彼の魂は魔界に居た悪魔によって傷つけられた。ならばその傷を癒すには…」
「まさか…!!」
閻魔達の顔が一斉に青くなる。
「ええ、『魔界の王』の力を借ります。」
「ふざけるな!!この地獄はどの世界にも属さない中立地帯!それを破るつもりか!」
「ふざけているつもりは更々ありません。ですが、地獄の本来の目的…『魂の救済』という観点から見れば、誇りが何だと言ってる暇はありません。まさか、そのまま放置するなんて閻魔にとってあるまじき行為をやろうとでもしてなければ、何としても彼を救わなければならない。それが閻魔である私たちの義務よ。」
「しかし…!!」
「そう、これは私の独断でしかない。この行為、もしかすると間違いがあるかもしれない。この行為がはたして正しい行為なのかどうか、第三者に判断して貰いましょう。…入って。」
扉が開き、ある人物が部屋に入ってくる。
「…なっ…!?」
閻魔たちはその人物の顔を見た途端、さらに焦りが増えた。
「改めて紹介しましょう。西行寺幽々子…冥界の管理人よ。」
「こんにちは、皆さん。」
幽々子が軽く会釈をすると、室内は喧噪に包まれた。
「こんなところに彼女を寄越すとはどこまで神経が狂ってるんだ!!」
「この神聖なる場所に、閻魔以外の者が立ち入る事は禁じられているはずだ、なのに何故…!?」
幽々子は暫く無言だったが、ついに本性を現した。
「黙りなさい、殺すわよ。」
『…え?』
閻魔達は今の言葉が聞こえていないようだ。
「一応、私はこの議会で認められた『冥界の管理人』よ?私の邪魔をする場合は殺しても構わないって言ってたのはどこの誰かしら?」
「馬鹿を言うな、そんな横暴許せるか!今すぐ貴様の権限を剥奪する!」
「却下」
映姫の一言で、全員が黙る。
この議会では完全一致でないと議題の結果の確定及び既存事項の変更は認められない。
閻魔の一人である映姫が却下したことによって、幽々子の権限剥奪は無効、現状維持となる。
「ありがとう、映姫。」
「構わないわ。厄介事に巻き込んでごめんなさい。」
「さて、魂の復活に『魔界の王』の力を借りるか否かについて、だったわよね?」
万策尽きたかのように閻魔達が黙るなか、幽々子は自分の意見を話す。
「前例がない以上、確かに批判的意見が多いのは解るわ。でも、彼は今まで善行を積んできた。どう考えても彼は甦らせるべきよ。たとえ魔界の王の力を借りることになっても、ね。」
「ならば、この第三者意見を参考にして、意見を聞きましょう。この魂を甦らせるかどうか…」
「…というわけよ。結構厄介かもしれないけど、宜しく頼みます。」
「大体の話は解った。貴女の言うとおり、本当に彼に甦らせるだけの価値があるかどうか、見極めさせてもらうわ。私のやり方でいいのよね?」
「ええ。あの悪魔に対抗しなくてはならない以上、寧ろ貴女のやり方でやってくれた方が好都合よ。」
「了解。じゃ、軽く可愛がってあげるわ。」
えへへと笑うその女性に、映姫は望みを託した。
「頼んだわ…神綺。」
次回予告。
え?どうなるの?
まさかの展開から目を離すな!
というわけで次回
「魔界入りしました」
お楽しみに!