僕らは、いつもの場所で。
【登場人物】
金坂 愛結
主人公。文学部所属の大学一年生。
創作サークル所属。小説を読むことと書くことが趣味。
学科に友達はいない。
久保田 舞海
政治学部所属の大学一年生。
金坂とは高校時代のクラスメートで親友。
瀬名 葵
政治学部所属の大学一年生。
小柄でかわいらしい見た目で、男女問わず人気がある。
軽音サークル所属。
浜野 孝子
政治学部所属の大学一年生。
グループの元気印でリーダー的存在。
大岩 四季
心理学部所属の大学一年生。
創作サークルに所属。金坂とはサークルの同期。
秋学期が始まった。
大学1年の夏休みは、想像以上に長い。
小説を読んだり書いたりする以外に趣味を持たない私は、ただ漫然と過ごす日々が続き、暇を持て余してしまったように思える。
こんなに暇だったのは、生活の中に「いつものメンバー」がいなかったから。
彼女らがいない大学生活は、きっと無彩色であったに違いない。
でも、ようやく会える。あの日常が、久しぶりに帰ってくる。
僕らは、いつもの場所で。
あの5人で、何気ない日々を過ごす。
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2限は必修の英語。
大学の授業にしては珍しくクラス制の授業だが、誰とも話さない私にとってはそんなこと知ったことではない。
暑い夏を乗り越えた結果、ピアスをつけたり、金髪になっていたり、日焼けをしている同級生の話し声が部屋を埋めるなか...。
12時40分。教室のスピーカーは、授業の終わりを告げる鐘を鳴らした。
講師の話が終わるが早いか、同時にリュックを背負い、教室を出る。
ほかの教室から出てくる人たちを避けながら、階段を下りる。
2限が終わると、1時間の昼休みが幕を開ける。
ここは文学部棟である3号館。食堂までは少し距離があるが、無理に急ぐ必要もない。
食堂に行けば、いつもの「彼女たち」が、いつもの席を取ってくれているから。
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「お、愛結ちゃん!久しぶり~!」
坂を下って5分ほど。エスカレーターを上り、自動ドアを過ぎるや否や私の名前を呼ぶのは、政治学部所属の孝子――こと浜野孝子。
彼女は春学期、木曜2限を空きコマにしていた。今学期も無事空きコマを作れたようで、私たちのために席を確保しておいてくれたのだった。
大学の食堂の2階は、西側と南側が全面ガラス張りになっている。
その恩恵を受けつつも競争率が低いのが、この東側手前の6人席。
私たちは、この席を囲んで昼食をとるのが日課となっていた。
こここそが、私たちにとっての「いつもの場所」なのだ。
「ひ、久しぶり...!」
1か月半ぶりに会っても変わらず接してくれることへの安堵と、孝子の陽キャぶりにたじろぎつつ、控えめな挨拶を交わす。
この時間は多くの大学生が食堂に集まるため、券売機には行列ができる。
その行列が過ぎ去るまで席を立たないのも、私たち流だ。
「最近どうよ?なんか面白いことあった?」
リュックを下ろす私の前で孝子が訊く。
「別に、本当に本読んでただけだったよ。部室には何回か顔出したけど。」
そう、この夏休みは本当に何もしていないのだ。
「愛結ちゃんもそろそろバイト始めたら?最近ウチ、バイト始めてみたんだ~。」
5月と8月はアルバイトを始める学生が多いと聞く。孝子もその流れに乗って始めたのだろう。
私はこのピークが過ぎ去ってから始めようと思っているのだ。本当なのだ。
「え~いいじゃん。ちなみに、どういうバイト?」
とはいえ、単純に気になるので訊いてみた。決して一緒のところで働きたいとか、そういう邪な質問ではない。本当なのだ。
「コンカフェ!変なお客さんも多くて楽しいよ!」
危ない。一緒に働きたいとか言わなくてよかった。
「へ、へぇ...。確かに孝子のキャラだったら似合うかもしれないね。」
「そうそう!まさに天職って感じ!んでんで、このままうまくいったら、来年はバーとかでも働いてみたいな~!」
ダメだ。住む世界がまるで違う。
陽キャぶりに振り回されつつ、孝子には心底感謝もしていた。
出会ってまだ半年も経っていないのに、こんなに親しく接してくれる彼女に。
気まずさも何もなく、ただ自然に話しかけてくれる彼女に。
そしてこの雰囲気に、懐かしささえ覚える。
春学期もこんな感じで、孝子に振り回されてたっけ...。
「んあ~疲れた!!初回からがっつり授業やんなし!」
何気ない会話がちょうど途切れたところで、サークルの同期の四季――大岩四季さんが、ため息とともに来場。
「それはお疲れ~。ウチも3限怖くなってきたんだけど!」
「二次抽選するとしても、教育学は絶対取っちゃいかんからね!あれは絶対外れ。」
毒舌な物言いが、四季さんのダウナーな雰囲気をさらに加速させる。
ふと、四季さんが私の方を見る。
四季さんは家が近いからか、部室によく顔を出していたらしい。私も行くたびに会っていたので、あまり久しい感じがしない。
「愛結もお疲れ。部紙に寄稿する小説は進んでる?」
「ぶ...し......?」
「あっ!忘れてた!!!」
「あんた、LINE確認しときなよ...。」
私と四季さんが所属する創作サークルは、10月末の文化祭をめどに部誌を寄稿するらしい。ラノベを読むことに夢中になって完全に忘れていた。
「まあ、ちょっとなら遅れても許されるっしょ。」
「そ、そうなの...かな...。」
この楽観的思考もまた、四季さんらしい。
もっと仲良くなれたら、四季さんにもついていけるのかな...。
「お、やっぱり集まってるね~。」「みんな久しぶり!」
打ちひしがれた私の横で、さらに教室の遠い2人が集合。
政治学部の葵――瀬名葵ちゃんと、同じく政治学部で高校時代からの同級生、舞海――久保田舞海。
2人は波長が合うらしく、春学期からよく一緒に帰宅しているのを見かけていた。
そして今期は、同じ授業をいくつも取っているようだ。羨ましい。
疑似BSSを体験したところで、2人も席に着く。
柱側に孝子、隣に四季さん。向かいの柱側に私、隣に舞海、その隣に葵ちゃん。この並びも、いつもの席順だ。
と、全員が席に着いたところで孝子が口を開いた。
「ヤバ!久しぶりすぎてヤバい!!」
「いや1か月しか経ってないし!」
葵ちゃんが即座にツッコミを入れ、皆笑う。
しかし、「久しぶりすぎてヤバい」感覚は、私も感じていた。
普段はそれぞれ別のコミュニティで大学生活を送る5人。
趣味も違えば、関わる人も違う。ただ同じ時間に、同じ場所にいるだけの5人。
でも、それでも、この時間は特別で。
食堂の喧噪をかき消すようなこの場所は、隠されていなくても、秘密基地のように思えるのだった。
しばし近況報告を交わしていると、気づけば時刻は12時55分。
「っと、そろそろだよね、行ってきな~。」
孝子が声を出したことで、私、舞海、四季さんの3人は席を立つ。
3人は学食を頼むべく、注文口に向かう。ちなみに孝子と葵ちゃんは毎日お弁当を持ってきている。すごい。
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四季さんはいつも単品を頼むため、券売機で別れる。私と舞海は、定食を頼むためそのまま注文口へ。
授業終了直後の行列もほとんどなくなり、そこまで長い時間をかけずに到達できた。
「秋学期もこの5人で集まれそうで、よかったよ。」
完成を待つ間、私はようやく2人になれた舞海に声をかける。
高校時代いつも隣にいた親友は、いつもの席を眺めながら、答える。
「私も嬉しいよ。やっぱり大人数で集まるのって楽しいし。何より...。」
「...?何より...?」
「...愛結に居場所ができたことが、何より嬉しい、かな。」
高校時代、私は舞海とずっと一緒にいた。
休み時間も昼休みも帰り道も、必ずと言っていいほど彼女と一緒に過ごした。
私には友達が少なかった。だから私には、舞海しかいなかった。
いつも隣にいた親友が発した言葉は、素直に胸の中に入ってきた。
「うん、そうだね...。本当に...。」
恥ずかしさを覚え、うつむきながら答える。
「だからさ、もっと話そうよ。」
舞海は私に顔を向け言った。
「え?話す、って...?」私は顔を上げる。
「あたしは愛結に、もっとみんなと親しくなってほしいんだ。別に、いま仲が悪いって思ってるわけじゃないけど、愛結は簡単に心を開かない癖があるからさ。」
当然だ。人はいつ裏切るか分からない。今の4人を信頼していないわけではないが、どうしてもすべてを許すのが怖くなってしまう。
私の心の中を見透かしたように、舞海が続ける。
「この5人の中に、あたしたちを裏切るような人はいないって、私は信じてるけどな。」
「せ、せっかくできた友達だし。慎重になりたいなって、思っちゃって...。」
「それ、『もっと早く親しくなっておけば』って後悔するやつだ。」
ええ。ごもっともである。
でも私は実際、もっとこの5人で仲良くしていきたいと思っている。
孝子の底抜けた明るさも、葵ちゃんのかわいらしい顔と声も、四季さんのダウナーな雰囲気も、すべて代えがたいものだ。
私だけが、この5人を大切に思っていたらどうしよう。
空回りしたくない。
そう思うけれど。
彼女たちは間違いないく、私の大学生活を彩ってくれる人たち。私に初めてできたグループと、居場所。
5人の行く先には、どんな未来が待っているのだろうか。それを見てみたい。
「だから、ぜひ愛結にもいっぱい話してほしくて――」
「うん、ありがと、舞海。勇気ちょっぴり出たかも。」
怖がっていては、何も始まらない。
その先を、見てみることにした。
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この時代に500円台で十分な昼食がとれるというのは、実にありがたい。
大学という箱庭に感謝しつつ席に戻ると、すでに四季さんも席についていた。
「あ!2人とも聞いてよ!!」
開口一番、孝子がずいと迫る。
「と、とりあえずお盆だけ置かせて...。」
なだめつつそっとお盆をテーブルに置いたところで――。
「葵ちゃん、彼氏できたんだって!!」
「「ええぇぇぇっ!?!?」」
舞海と同時に驚嘆の声を上げる。味噌汁がちょっとお盆にこぼれた。
「え!?いつ!?どこで!?!?」
焦りからか、上ずった声で訊いてしまった。
もちろん恋愛は応援したいが、それが原因で食堂に集まらなくなってしまったら、それはそれで悲しい。
「あぁいや、バイト始めたらサークルの先輩がいて、流れでこうなっちゃった。」
葵ちゃんも流れに乗ってバイトを始めた組だったか。
「驚いたよね。葵、そういう男ガンガン振ってそうなのに。」
相変わらず攻撃力の高い四季さん。
「実際振ってるんだよ?でも今の人は、サークルでの関係が先にあったし、少しは信頼できるかなって。」
淡々と答える葵ちゃん。モテモテで許せない。
「葵ちゃんって、なんのサークル入ってるんだっけ?」孝子が対角線から割り込む。
「軽音だよ。」
「ぜってぇロクでもねえ...。」
相変わらず攻撃力の高い四季さん。
「で?で?彼とはどこまでしたの??」
「い、言うかバカ!」
対角線上のやりとり、一蹴。
しかしめげない孝子。ついに席を立った。
「私たちと彼氏、どっちが大事なのよ!!」
おぉ...。ぶっこんだなあ...。
「どっちも大事だって。たまに来ないときはあるかもしれないけど、週4でここ来るから。」
「しゅ、週に1回は彼氏のところへ...?」
「全休だっつーの。までも、たまには月曜日も顔出すから、安心してよ。」
全休。1日授業がない平日のことだ。計画的に授業をとっていることを祈りつつ、一連の会話を聞いて、私は胸をなでおろしていた。
よかった。このグループを大切に思っているのは、私だけじゃなかったんだ。
舞海も、サークルではあまりつるまないのに集まってくれる四季さんも、彼氏ができた葵ちゃんも、陽キャの孝子も。
みんな、このグループに、特別な想いを抱いているんだと感じた。
それだけでも、嬉しかった。
四季さんと孝子に乗っかり、私も仕掛けてみることにした。
私だって、このグループを大切に思っているんだ。
「こ、このグループも大事ならさ!」
全員の視線がこちらに向く。慣れないことはするべきではない。少し声を大きくしすぎたようだ。
「私、やりたいこと、ある...。」
「...なんでカタコト?」
四季さん、部紙に寄稿する小説はこういうのじゃないからね。
そんなツッコミを心の中でしつつ、私は続ける。
「もちろん、葵ちゃんは彼氏さんを大事にしてほしいし、末永く幸せになってほしいけど、でもやっぱり私は、このグループが好きだし、この先4年間、この5人でいたいと思ってる。だから――」
意を決して。でもまだ恥ずかしさも残りながら、私は4人の顔を見渡す。
特別なことは、何もいらない。
ただ、この5人で、ずっと一緒にいたい。
何にも代えがたいこの場所が続くよう願って、私は――。
「ぐ、グループLINE、作りたい...。」
...。
しばしの沈黙。
それを破ったのは、親友の笑い声。
「ちょっ、な、何がおかしいのさ!」
「ふふっ、え、それだけなんだ?」
「えっ!?それだけって、失礼な!わ、私はただ、この5人でずっといたいと思ってるだけで、そのためにまず必要なものを言ったんだよ...!」
「ごめんごめん!もっと大きなこと言うって思ってたから、つい...。」
あー笑ったと、目に涙を浮かべながら、親友の平謝り。
「でも...そうだね、確かにまだ作ってなかったよね。」
舞海は笑い疲れたまま言う。
「こんだけ一緒にいたのに気付かなかったの超おもろい。ま、今後絶対必要になってくるはずだしね。」
四季さんが時折見せる笑顔は、実に美しい。
「今すぐにでも作ろ!でさでさ、この5人で旅行とか行きたくない!?ウチずっと考えてたんだよ~!」
率先してQRコードを開き、交換の準備を整えた孝子。こういう時に、孝子の行動力は助かる。
「あ、それだったらわたし、夏休みに免許取ったよ!車買ったら、わたしの車で行こ!」
葵ちゃんの、小柄な中にあるワイルドな性格が、私たちをさらなる場所へ連れて行ってくれそうな気がする。
「ついでに旅行先とか決めよ!」「名古屋は勘弁!」「いや、まずご飯食べさせろ...。」
いつの間にか会話が弾む私たち。
それを見た親友が、そっと私に声をかけてくれる。
「ね、話すといいことあるでしょ?この5人は、みんないい子だよ。」
「う、うん、そうだね...!」
この先の私たちの大学生活は、きっと長いようで短い。
だからこそ、この地で出会ったこの5人の時間が、いつまでも続いてほしいと願っている。
これは曇りのない、まっすぐな想いだ。
ようやくわかった。今までは、小説の中の創作物としか思っていなかったけれど。
きっとこれが、「青春」というものなのだろう。
元楽曲はこちら→https://www.nicovideo.jp/watch/sm46944490
こんにちは。Lv.0(けけロイドP)です。
イラスト統一祭「さかな坂祭」参加楽曲を基にした小説です。この小説を読んでから楽曲を聴くと、より解像度が高くなると思います。
さて、今回は読み切りの短編小説。大学の食堂が舞台です。
私自身も、大学時代一緒にご飯を食べていた友人やサークルのメンバーがたくさんいました。学科に友達がほぼいなかった私にとって、この時間はとてもかけがえのないものでした。
今思えば、あれこそが「青春」だったのかもしれません。
ということで、舞台となった食堂は私が毎日通っていた大学の食堂をモチーフにしています。探さないでください。
そして毎度のことですが、私は普段ゲーム実況をしているものです。
ゲーム実況の編集などもありますゆえ、更新速度はそこまで早くないと思いますが、良ければこれからも、ゲーム実況動画やオリジナル曲共々、ちらっと見てくださると幸いでございます。




