或る聖女の顛末
「ビビッときた」なんてありえないって思ってたけど、あの時の私はこれしかないって直感してた。
あの日気づいたら大勢の人たちに囲まれていて、訳の分からないまま貴方は『聖女』ですって。――知ってた?神官たちの養成学校では必須科目らしいよ「召喚の儀」って。笑っちゃうよね、ほんと。そんな授業の一環で、「はいはい、こんにちはー」ってな感じで呼び出されちゃってんだからさ。ほんとに困っちゃう。
その後すぐに王宮に運ばれて、レオに出会ったの。なんか王様がサンタクロースみたいな髭生やしてて、すごっとか思ってたら横にモデルみたいなイケメンがいてビビった。――あ、知らないのかサンタクロース。ごめんごめん、気にしないで。
でね、あー、よくあるやつだって。――いやいや、そういう物語があっちではよくあるって話。リアルでは絶対有り得ないし。まあ、でも今私がこうしてここにいるってことは有り得るってことなのか。よくわかんなくなっちゃう。
で、それで物語の中ではこういうのって大抵イケメンとくっつくのが定石なのよ。だったら王子様かなーって。だって、私アイドルとかも王道系が好きだったし。それで、なんとなくレオを意識しだした。
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お城ですごく綺麗なお部屋を用意してもらった。しばらく至れり尽くせりで過ごしてたけど、メイドさんたちは私と必要なこと以外話してくれなくて、すごく寂しかった。そしたらレオが来てくれた。
そこで、身寄りもない私がこっちで生きていくためには、後見がいるって言われた。前に『聖女』がやってきたのはもう何百年も前だけどその時も王室が後見をしてたらしくて今回もそうすることになったって。王家は代々男ばかりしか生まれないから、妹ができたみたいで嬉しいって。
ここに来てから私と接してた人たちみんな私の事異質な存在だって思ってた。同じ人間じゃなくて、意思疎通のはかれる存在当たり前だけどね、まさに世界が違う人間なんだから。でも、レオは私を1人の人間としてみてくれてそれが嬉しくて嬉しくて嬉しかった。
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こっちの世界のことを色々教えてもらって、世界のルールとか仕組みとか少しずつ理解していった。そのうちにレオに婚約者がいることを知って、婚約者――リリーシュカさんとか何度かお話したりして、凛としてて素敵な人で、あぁレオって私と結ばれるわけじゃなかったかって。
でも相変わらずレオは私を妹のように思ってくれてて優しくて、私はレオ以外に優しくしてくれて頼れる人いなかったしつい甘えてた。――そんなこんなで学園に通うことになっても、レオにベッタリしちゃってたんだけど。
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――学園での嫌がらせのことが聞きたいって?
私がレオとべったりしすぎてたのが気に入らなかったのか、知らない女の子たちから色々された。ノートを隠したりテキストを破いたり、面前で悪評流されたり。――リリーシュカさん?直接は婚約者にはあんまり近寄るな的なこと言われたと思う。でも、女の子たちはことある事にリリーシュカさんの影をチラつかせてきてた。お城であった時リリーシュカさんはかっこいい素敵な人だと思ってたから、真正面からじゃなくて影でそういうことしてくるタイプの女の子なんだってガッカリしちゃった。
それくらいからかな。そういう女の子とレオが結婚するくらいなら私でもいいじゃん別にって思ったのは。
そこからはまさに攻略。私の経験上妹みたいとか言ってくる男ってその子のことなしではないの、っていうかなんならあり。
嫌がらせを受けてるってこと相談して徐々にリリーシュカさんからレオの気持ちを離した。――あ、そうなの。知らなかった?レオって実はリリーシュカさんにゾッコンだったの。前本人がいってたからね。彼女を一目見たときからこの子しかいないって思ったんだって。でも結果これなんだから運命なんて笑っちゃうよね。
レオは私の言うこと全然信じてくれなかったけど、レオの周りにいた人達はとても親身になって聞いてくれた。彼らはすごく頼りになったから、みんなの力を借りたらレオから独り立ちできるかもって。そしたらリリーシュカさんも嫌がらせやめてくれるかもって希望が湧いた。
――彼らにも婚約者がいたって知らなかったの。私の世界って婚約者がいるって人の方が少なかったし。婚約者の人たちから呼び出されて色々脅されてめっちゃ怖かった。婚約者さんたちがいなくなって1人で泣いてたら、騒ぎを聞いた彼らが私を探してやってきて安心して余計泣けてきた。
なんかそれからしばらくして彼らが私に妙に熱っぽい視線を送って来るようになった。独り立ちする予定だったのに彼らが怖くなって余計にレオにベッタリになっちゃった。
それからも嫌がらせは続いてリリーシュカさんが否定も何もしなかったから、レオも無言は何よりの肯定だっていよいよ少し私のことを信じだしたの。
レオが僕がリリーシュカさんとの間に入るよってお茶会をセッティングしたっていわれて、ついていった。別に対立したかった訳では無いし、やめてくれるならそれで良かったから。レオのことは好きだったけどまだ引き返せる段階だったし。
結果的にお茶会は大失敗。リリーシュカさんのお父さんなんかわかんないけど大激怒してた。怖すぎて震えちゃった。リリーシュカさんもめっちゃ怖い顔して私の事睨んでたし、こっちが歩み寄ろうとしてるのになんなのって感じで、ほんとに嫌になっちゃったの。
それからはリリーシュカさんなんかのためにレオをあきらめるのバカバカしくてレオに猛アタック。レオが勝手につくりあげた妹キャラ存分に使って甘えまくってレオの気を引いた。リリーシュカさんから気持ちが離れてまだ立ち直れてなかったから意外と簡単だった。あっという間にレオが私を見る目に熱っぽい感じが現れてきた。
その頃になってもまだリリーシュカさんの影は私たちについてまわってて、だからたまたまリリーシュカさんをたまたま見かけた時に強い気持ちで話しかけてみた。これまた失敗で、私も思わずイラついて舌打ちとかしちゃって。もう決別って感じ。
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卒業パーティーの日はは私たちにとっての記念日。悪に打ち勝って真実の愛を手に入れた記念の日。
リリーシュカさんは最後まで何も言わず、決して何も認めなかった。――簡単に言ったらやりがいがなかった。正義は勝つはずなのに、勝ったはずなのになんとも呆気ない終わりに拍子抜けしてなんの清々しさもなかった。
それからリリーシュカさんはお兄さんに貴族籍を抜かれて平民に落とされたとレオから聞いた。正直ざまあみろと思ったけど、貴族だった、自分で着替えたこともないような女の子がこれから誰にも頼らず生きてくなんてできっこないから少し可哀想だとも思ったわ。
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それからは、死ぬ気で色々学んでマナーや作法を身につけてきた。レオとの時間削って、レオのために国のためにって。それでようやく及第点が貰えたこの時期にあれが出たでしょ、あなたたちのところから。王室に批判殺到よ。この国って意外と規制緩いのね。差し止めとかして欲しかった。
ほんとやになっちゃう。レオなんかリリーがウエイトレスなんかしてるのかって、職業差別だわ。私だってバイトでファミレスでウエイトレスしてたし。――え、分からない?...とにかくウエイトレスも大切なお仕事ってこと。
でも今更すべてが分かったってレオと私の今度の挙式はもう取り消せないし。まあどうにか頑張るしかないと思ってる。私がレオを選んだのだって、結果的にリリーシュカさんから奪ってしまったんだけど、この世界に来て生きていくためにやった事だから後悔はない。
っていうかこうなったのはそもそも呼んだやつが悪いでしょりこの国の教育制度が悪いし、この国が悪い。国を支える王族が悪いしそれを良しとする国民が悪い。
――だからこれはみんな同罪なのよ。忘れないで、私はまだ許してないから。




