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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第42話

「な、なんですの、これは! なぜミクルマ様のおなかの中に本が!」

「こんなもん、探しても見つかるかぁああああああ!」


 まさかこんなところに探し求めていた聖導経典があるなどと、わかるはずもない。

 聖導経典はもぞもぞと動いていたが、ニルマと目が合うとぴたりと動きを止めた。

 ニルマは混乱しつつも、ミクルマの腹から聖導経典を取り出した。


「目が合ったよね? 何いまさら普通の本のフリしようとしてんの?」


 ニルマは聖導経典の表紙をぺちぺちと叩いた。


「なにをされてますの? 頭がおかしくおなりに?」


 聖導経典は本の形をしてはいるがその内容にさほどの意味はない。

 この本の真の価値は、表紙に浮かび上がっている女の顔だった。


「おいこら。黙ってりゃただの教典でーす。ってやりすごせるとでも思ってんの?」

「……ごめんなさい……」


 表紙の顔が動き、喋り出した。


「ほ、本が喋った!」


 次々に訪れる異常な状況にアンナは驚きっぱなしだった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 許してください!」


 聖導経典は怯えた顔になり、必死に許しを請いはじめた。


「私を殺そうとしてたんでしょ? そんな簡単に謝っちゃっていいの? あんたの恨みはそんな程度なの?」


 ニルマが抱いていた疑問が一気に氷解した。

 イグルド教に命を狙われる理由などないと思っていたが、その黒幕が聖導経典なら話はわかる。動機は十二分すぎるほどにあるのだ。

 何がどうなって聖導経典が人の皮を被ってイグルド教の枢機卿にまで上り詰めたのかはわからないが、本気になった聖導経典ならそれぐらいはやってみせるだろうという妙な信頼感をニルマは持っていた。


 ――あー……いつも澄ました顔してるし、本だから平気かと思ってたけど、ここまでするぐらいに怒っちゃってたか……。


 何もない暗い海の底に数千年も沈められていたのだ。その怒りは理解できるし、ニルマもやりすぎたという自覚はあった。


「わ、私が愚かでした! ニルマ様に敵うはずなどないというのに! 力を手にし、もしやと思い上がってしまったのです! すみません、すみません、すみません!」


 このまま放っておけばいつまでも謝り続けるのだろう。それはさすがに可哀想にも思えてきた。


「わかった! 許すよ! だから海に沈めたことはそっちも許して! お互い水に流そう!」


 ニルマはどんな理由であろうと売られた喧嘩は買うし、必ず決着を付ける覚悟を持っている。

 だが、今回ばかりはそうも言っていられなかった。

 

「……そ、それで、本当によろしいのですか!?」

「あー、うん! そっちがそれでいいんならね!」


 聖導経典にすれば割に合わない、虫のいい話だろう。だが、他にいい案も思い浮かばない。

 とりあえずはこれで手打ちにして、後で埋め合わせをすればいいかとニルマは思っていた。


「承知いたしました! 過去の遺恨は全て水に流します!」

「あ、あの? 何がなんだかさっぱりなのですが、その、その本がミクルマ様……!?」

「はい。枢機卿ミクルマとは世を忍ぶ仮の姿。私の正体はこの本なのです」

「……ということはミクルマ様は死んではおられない?」

「はい。私は、その昔に亡くなられた聖ミクルマ様のお体をお借りしていただけなのです」

「でしたらよろしいのですわ!」

「あ、それで納得できるんだ」


 アンナは案外図太かった。


  *****


「ニルマ様。僕のこと完全に忘れてませんでした?」


 飛行艇の甲板の上。

 ザマーはニルマを半目で睨んでいた。


「帰る直前で思い出したんだからいいでしょ!」


 ニルマは、あれからアンナとともに飛行艇へと戻った。

 そして、ザマーがいないことに気づいたのだ。

 慌てて引き返して、ザマーを回収。再び飛行艇に乗り込んだのだ。


「海の底に放置されることに比べればささいなことでしょう?」


 ニルマの側に浮かぶ聖導経典が言った。

 まだ水に流し切れていない気もするが、ニルマは何も言わなかった。藪を突いて蛇を出す気はないのだ。


「いや、そんなものすごい仕打ちと比較されてしまうと何も言えないんですが……といいますか、聖導経典さんはニルマ様の元に戻るのでいいんですか?」

「はい。私には他に道がありませんから」

「しかし、まさか人の身体の中にいたとは……」

「わかるわけないよね」


 聖導経典の気配は完全に遮断されていた。その姿を見るまで、そこにあるとは全くわからなかったのだ。


「そういえば、飛行艇飛んじゃってますけど、試験はどうなったんですか?」


 とっくに空の上であり、飛行艇はドーズの街へ向かっているところだった。


「ああ、アンナ様が合格にしてくれたよ」

「適当ですね! 結局僕、なんの実力も示せてないんですけど!」

「それはいいんじゃない? 私とパーティ組んでて邪魔になることはないんだしさ」


 ダンジョンにあらわれる敵程度がザマーを傷つけることはできない。

 ニルマはザマーを無視して戦えばいいだけなのだ。それで十分にダンジョンで活躍できるだろう。


「しかし、枢機卿のミクルマ様でしたか。いなくなったら大変なことになるんじゃ……」

「大丈夫ですよ。遺体は全て回収しました。もう一度ミクルマを作ればいいだけです」


 過去の聖人で作られた異形の乗り物、ルニカ、ヴェルナー、ミクルマと様々な遺体があったが、それらも飛行艇に乗せられていた。

 聖人の遺体はできる限り元の姿に戻してから再び霊廟に奉られるらしい。

 ミクルマについては、中に入っていなくとも遠隔で操作できるし、放っておいても簡単な受け答えができる程度にはできるとのことだった。


「もともと実務には関わってませんでしたので、ミクルマがぼーっと部屋にこもっていてもさほど問題はありませんよ」

「なんか死体がすごく雑に扱われてますね……」

「ま、それはともかく聖導経典が戻ってきたら色々捗ることがあるし、早速やってもらいたことがあるんだけど

「はい。なんなりとお申し付けください」

「なんか聞いてた話よりも、随分と素直な感じですね、聖導教典さん」


 昔の聖導経典は、聖女のあり方をいちいち指摘して説教をしてくるニルマにとっては鬱陶しい相手だった。

 だが、聖導経典も干渉が過剰だったと反省したのかもしれない。


「そういや、聖導経典って呼ぶのもなんかあれだね。長い」

「昔はなんて呼んでたんです?」

「んー? いちいち呼んでなかったかな。勝手にあれこれやってくれてたから。こっちは、うんとか、やだとか言ってただけだったような」


 だが、今はザマーもいるし、お互いの呼び名がないと面倒だろう。


「そうだなぁ。じゃあ、ミクルマだったからミクで」

「承知いたしました。今後はミクと名乗ることにいたします」

「なんだか……なんだかまともすぎて理不尽に思えるの僕だけですかね!?」


 なぜかザマーが不満そうだった。

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