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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第39話

 アンナに戦って欲しかったわけではない。

 アンナがニルマに勝てないことはわかりきっている。ミクルマはただ、この状況から逃れたいと思っているだけだった。

 謝ってすむのならそうしたことだろう。

 だが、ここまでのことをして許してもらえるとはとても思えなかった。

 では、どうすればいのか。

 ミクルマは、逃げるしかなかった。

 幸い、ニルマはアンナと本気で戦ってはいないようだ。

 遊んでいるのなら、決着までにはそれなりに時間がかかるだろう。その隙に逃げられるかもしれない。

 ミクルマは、神器未使用のアンナぐらいには動ける。その力を逃走だけに用いれば、すぐに飛行艇にたどり着けるはずだった。

 多数の冒険者を乗せているが構いはしない。そのままユニティ王国まで逃げ延びる。

 イグルド教の総本山、天聖宮に戻れれば後はどうにでもなるはずだ。イグルド教の全てがミクルマを守るだろう。

 アンナには申し訳ないが、ミクルマの知るニルマなら遊び半分で人を殺したりはしない。瞬殺していないのだから、命は助けるはずだ。

 落ち着いてから、アンナを救出すればいい。

 ミクルマは、逃走に現実味を感じてきた。

 このままぼんやりとしていれば、せっかくの好機が失われる。

 ミクルマはそっと動き出した。

 足下がふわふわとしているように思えてまともに歩くことができなかった。だがこの異常は精神的なもので、落ち着けば回復するはずだ。

 ニルマと神滅兵器との戦闘で荒れ果てた地帯を抜け、ダンジョンを構成する森へ入ろうとしたミクルマはその先にある異様な物を見て固まった。

 それは、女の死体を寄せ集めたようなものだった。

 仰向けにした女たちをつなぎ合わせて蟲のような形にしてあるのだ。

 その上に少年が座っていた。

 特級冒険者のヴェルナーだ。


「あなたは……あなたは、なんということを……」


 ミクルマは、女たちの顔を見て背筋に氷柱でも突き刺されたような気分になっていた。

 知った顔だった。

 聖アレウス。聖クリスティーナ。聖ネテス。

 それは、イグルド教において偉業を成し遂げた、過去の聖女たちだったのだ。


「イグルド教は丁寧に保存してくれてて助かったよ。本当はマズルカのが欲しかったんだけど、贅沢は言わないよ」

「ふざけないで! 彼女たちを解放しなさい!」

「うーん。確かに無断で霊廟に侵入したし、死体を盗んだしで、かなりの部分で僕に非があるのは確かだけど、言ってみればそれだけのことでしょ。その過程で誰も傷つけていないし、盗まれたからって困らないはずだよ。君たちはこれをただ保存してただけで利用するつもりなんてなかったんだから」


 ミクルマは絶句していた。話が通じる気がまるでしなかったのだ。


「あーあれかな。死者の冒涜ってやつ? そこがよくわからないんだよね。死体って要はゴミでしょ? で、僕にはそれを再利用する力がある。リサイクルは環境保全にも役だつんじゃなかったかな。資源の再利用ってすごくいいことだと思うんだけど」

「あなたとは話をするだけ無駄ですね」


 死者を弄ぶなどあってはならない。

 この場でヴェルナーを八つ裂きにしてしまいたいほどの激情にかられたが、今のミクルマは逃亡の最中だった。

 ここで時間をとられていては、全てが終わる。

 口惜しいが、ヴェルナーについては後ほど対応するしかなかった。

 ミクルマは、ヴェルナーを迂回して先へ進もうとした。

 だが、ヴェルナーはミクルマの前へと回り込んだ。奇怪な乗り物が足を蠢かせて気持ちが悪いほどにするりと動いたのだ。


「ちょっと待ってよ」


 ミクルマは、ヴェルナーがここに来た意味を考えていなかった。

 こんな場所に彼がいるのは実に不自然な話だったが、焦り、混乱していたミクルマは考えるどころではなかったのだ。


「どういうつもりですか? あなたは何がしたいんです?」

「君たちは僕を監視してたつもりのようだけど、僕も君たちイグルド教を監視してたんだよ。天聖宮に実験体を送り込んである」

「まさか。死者の類いが清浄の気で満ちた天聖宮をうろつけるわけが……」

「いやいや。君がうろついてるのにそれはないでしょ」


 あっさりと核心に迫られ、ミクルマは動揺した。


「聖女に興味があってね。本腰を入れてイグルド教について調べてみた。マズルカと違って君のとこはしっかりしてるよね。大昔から資料がきっちりと残ってる。ちょっと外聞を憚るようなことが書いてあるものでも捨てずに、禁書として大事に保管してあった。そういうの大事だよね。今公開すると問題があっても、長い時を経れば歴史上の事件ってことになるし」

「何が言いたいのですか」

「僕が欲しかったのは聖女の死体だ。だいたいは天聖宮にある霊廟に保管してあった。僕の実験に必要なのはそこにそろってたんだけど、一つだけ足りなかったものがある。聖ミクルマの死体だ。記録上はそこにあるはずだったんだけどね。で、枢機卿にもミクルマという名の者がいる。普通は特に気にもしないだろう。聖人の名前にあやかって名付けするなんてのはよくある話だ。けれど、その枢機卿が五千年とか生きてるって聞くと話が違ってくる。もしや、この二人は同一人物なのではないか。枢機卿が五千年生きてるって言われても疑わしいと思ったけど、こうなると事情が変わってくる。普通なら五千年生きられるわけはないけど、死体を動かし続けるのなら結構簡単にできるんじゃないかなって。だから実験体に君をよく観察させた。うん。よくできてる。普通の人間じゃ、わかんないだろうけどね。でも、僕にはわかる。君は僕と同じだ。死んでいて、操作を受けている」

「よくもまあ、べらべらと……」

「けれどまあ、それは余談であって僕の目的はニルマくんなんだ。けど、なんか都合のいいことに最後のパーツ、ミクルマの死体が手に入っちゃった」


 まずい。

 ニルマからだけではなく、この少年からも逃げなくてはならない。

 そう思ったときには、ミクルマの身体は動かなくなっていた。


「死体を操ることにかけては僕の上を行く者なんていないんだよ」


 この少年に出会った時点で、ミクルマは終わっていたのだ。

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