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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第35話

「ねえ? なんで急いでるの?」

「なんですの!?」


 駆けるアンナの横を、ヴェルナーが併走していた。

 神器で強化されたアンナの脚力は人間を遙かに超えている。それに加えて神気を背後へと噴出させることでさらなる加速を得ているのだ。

 転神を遂げた者に追いつけるものがいるなど、アンナは夢にも思っていなかった。

 アンナに匹敵する速度で動ける者は、同じく神器を持つ者ぐらいだろう。

 だが、ヴェルナーは特級冒険者ではあるが神器を持っていないはずだった。


 ――もしや、新たな神器が発見されましたの!?


 そう思いもしたが、ヴェルナーは神器を使用してはいなかった。

 ヴェルナーは自らの足で走ってはいない。

 多数の足を備えた奇怪な物に乗っていたのだ。

 最初、アンナはそれを巨大な蟲なのだと思った。ダンジョンに生息するワーカーの類い、異世界の生き物だと判断したのだ。

 だが、それには人の顔があった。乳房があり、露出した肋骨があり、腹からこぼれ出た内臓があった。

 それは、仰向けになった女を複数人つなぎ合わせたようなものだった。おかしな姿勢のまま手足を複雑に動かし、高速移動を実現しているのだ。

 それの構造を理解できた途端、アンナは吐き気を催した。


「あなた……あなたはなんということを!」

「ああ、これ? もしかして僕の美意識を疑ってるのかな。確かにこれが美しいとは僕も思ってないよ。使える部分をうまく組み合わせてみたら、結果的にこうなっただけでさ」

「こんなもの! 生命への冒涜ですわ!」

「いや、それはおかしいよ。僕だって生きているのならその意思を尊重もするさ。けど、死んでるんだよ? 冒涜もなにもないでしょ。ってそんなことどうでもよくない? 僕は君のおかしな行動について質問してるんだよ。突然やってきてここは危険だって言ったり、いきなり逃げ出したりさ。意味わかんないよね?」


 確かに彼からすればわけがわからないだろう。

 その点については説明をする必要があるのかとアンナは考えた。

 おぞましい物に乗っているので敵対心を抱いてしまったが、彼はただ隣を走っているだけなのだ。


「魔神ネルズファーの復活を阻止する計画が、この森で行われているのです! 万が一失敗すれば魔神が蘇り、周囲は大惨事になるのですわ!」

「ふむ。危ないから助けにきたと。で、なんで逃げ出したのかな?」

「時間がギリギリだったのです! ただの冒険者ならなんとしてでも助けようかと思いましたが、あなたなら大丈夫そうですし逃げることを優先したのですわ!」

「ははっ。なんだそれ。信頼されているのか、どうでもいいと思われてるのかどっちだろ?」

「とにかく! 一刻も早くここを離れ――」


 言いかけたところで、閃光が走った。

 そして耳が壊れるかと思うような爆音が響き渡り、大地が揺れ、暴風が吹き荒れる。

 こんな状況で走っていられるわけもなく、アンナとヴェルナーは派手に吹き飛ばされた。

 アンナは混乱した。

 封印が失敗したのかもしれない。蘇った魔神は周囲の人々を襲うかもしれない。だが、蘇っただけでここまでのことになるとは思いもしなかったのだ。


「これはどういう結果なの? 成功? 失敗?」


 おぞましい乗り物と一緒に転倒していたヴェルナーが身を起して聞いた。


「私にわかるわけがありませんわ!」


 アンナは立ち上がり、ミクルマへと伝心を飛ばす。


『ミクルマ様! 封印はどうなったのですか!』


 だが、ミクルマからの返事はない。

 アンナは、この計画がおかしいことに今さら気づいた。

 封印が失敗した場合に備えて人里離れた場所に誘導する。それ自体はもっともらしい。

 だが、肝心の部分が、封印に失敗して魔神が蘇った場合の対応方法が何も検討されていないのだ。


「戻りますわ! 魔神が蘇ったのならなんとしても倒さねばなりません」


 これもミクルマの計画のうちなのかもしれない。アンナごときの考えが及ばない次元の話なのかもしれない。

 だが、それでもこのまま逃げることはできなかった。

 今ここで魔神に対抗できるのは、アンナだけかもしれないのだ。


「魔神かぁ。どんなのか興味あるな」


 アンナが来た道を引き返すと、ヴェルナーも一緒についてきた。


  *****


 レーザー砲の直撃を受けて生きていられる生命体など存在するはずがない。

 そんな勝利の確信にはなんの意味もなかった。

 レーザーの極熱が焼いたのは、ニルマの神官服だけだったのだ。


「は……ははっ……」


 ミクルマは、乾いた笑いを漏らしていた。


「なんなんですか、あいつ……なんなんですか! おかしいでしょうが!」


 直撃さえすれば終わりだと思っていた。

 跡形も無く焼き尽くせるのだと思っていたのだ。


 ――ここからどうすれば……今ならまだ、あいつも何がなんだかわかっていないはず。私が計画したことだなんてわかっていない。何食わぬ顔でここを立ち去れば……。


 絶対的確信が脆くも崩れ去り、弱気な心が顔を出す。

 あいつを殺すなど不可能だと、これ以上あいつに関わるなと臆病な自分が囁いていた。

 ここは退いて計画を立て直せと言う自分もいる。だが、ここで退けば二度とニルマに立ち向かうことができないこともわかっていた。

 迷い続け、動けなくなる。

 その膠着状態を打ち破ったのは、機械的な音声だった。


『ターゲットの生存を確認。これより、最終神滅モードに移行します』

「え?」


 ミクルマが座る席がぐらりと揺れた。

 ここは、山のような計器に囲まれた、操縦席の中だった。

 ミクルマは、レーザー砲を制御するために神滅兵器に乗り込んでいたのだ。


「どういうことですか! そんな命令は出していません!」

『状況から、ターゲットは神霊であると判断しました。本機は神滅のためにのみ存在しています。神霊の殲滅は最優先です』


 神滅兵器は、ミクルマの意思とは関わりなくひとりでに動き始めた。

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