第34話
それは、宇宙兵器の一種だ。
地上へと向けられた巨大レーザー砲であり、神滅戦争の時代に神に対抗するべく開発されたものだった。
だが、人類は最終的に神々との闘争ではなく宇宙への脱出を選択した。
神滅兵器の開発に必要なリソースは削減され、脱出に全力が注がれたため当時は完成には至らなかったのだ。
それを、ミクルマが発見した。
宇宙空間に残されていた開発中の兵器は、残されたAIと自動機械群が完成させていたのだ。
準備は整えられていた。
ニルマたちがダンジョンを奥へと進む間に、照射手順は最終段階に至っている。
アンナが神速でレーザ照射範囲外に逃れたところで、ミクルマはレーザー照射の最終承認を実行した。
カウントダウンが開始される。
一瞬、ニルマを攻撃してしまって本当にいいのか? ただ怒りを買うだけではないのかと惰弱な考えがよぎった。
だが、もう後戻りはできない。
5から始まったカウントはあっというまに0になり、すさまじいまでの熱と光が天上から放出された。
広範囲に渡るレーザー照射が、地上の森を一瞬で焼き尽くす。
それだけでは飽き足らず、怨念めいた照射は数十秒のもの間持続した。
ミクルマは、いもしない神に祈りながら偵察衛星の記録を確認した。
ミクルマは胸をなでおろした。
ニルマは照射範囲から逃れていない。偵察衛星は、ニルマが逃げ出した可能性はないと結論を下したのだ。
神を相手取ることを想定して開発された神滅兵器だ。直撃して生きていられる生命など存在するはずがない。
ミクルマは、勝利を確信した。
*****
「な、なにが起こったんですか!? またニルマ様がなにかやったんですか!」
「ひどいことが起こったら私のせいって思うのやめとこうか」
何かが来ると悟ったニルマは、ザマーと荷物を抱きかかえた。
自身とザマーと荷物に気を纏わせ、全力で防御体勢を取ったのだ。
地獄のような数十秒を耐えきると、周囲は激変していた。
大地が溶け、あたりはマグマのようになっている。
吹き荒れる熱風は、いまだに周囲を燃やすだけの熱量を抱いていた。
無事だったのは、ザマーとザマーの服と、ニルマとパジャマだけだった。
ニルマの神官服も他の荷物も一瞬で燃え尽きたのだ。
「なんでパジャマだけ!?」
「仕方ないでしょ。私の気が通る服はこれぐらいなんだから」
「それもなんとかの虫の腱で作ったやつですか?」
「うん」
ニルマは抱きかかえていたザマーを下ろした。
地面はどろどろに溶けているが、ザマーの靴ならそれぐらいは耐えるだろう。
「あー、エルフの靴も燃え尽きたか」
裸でいつづけるのもどうかと思い、ニルマはパジャマを身につけた。
「で、何がどうなってるんですかね!?」
「おそらく、衛星軌道上からのレーザー攻撃」
「なんですか、そのSF兵器は!?」
「五千年前にはそーゆーのも開発してたんだよ。開発中止したと思ったんだけど」
「それに平然と耐えないでくださいよ……どうなってんですか」
「五千年前はこれぐらいの攻撃が飛びかってたからね。対応できなかったら神滅大戦の序盤で死んでるよ」
「これってニルマ様を狙ったんですよね?」
「多分ね。ここに至るまでの流れを考えると、イグルド教が怪しいかな」
これまでは特になんとも思っていなかったが、怪しいと思い始めればここまでの流れが全て怪しかった。
この攻撃を成立させるために、ニルマはここに誘い込まれたのだ。
「アンナさん、いい人そうでしたけどね……」
ザマーは残念そうだった。
「いい人だと思うし、私に悪意はなかったと思うよ。上層部の命令だろうね」
「ニルマ様、イグルド教に恨まれる覚えでもあるんですか?」
「あるっちゃあるな……イグルド殺したし」
「それはイグルド教の主神って意味の?」
「だね」
「そりゃ恨まれるでしょうよ! 信徒が全員で襲いかかってきても文句言えないですよ!」
「先にマズルカ様を殺したのは、イグルドだよ?」
「それは……」
ザマーが言いよどむ。
マズルカが魂だけになったのに対して、イグルドは魂まで打ち砕かれて完全に消滅したのだがニルマはそれを言わないでおいた。
「とりあえず上にあがろうか」
「上ですか?」
「地面抜けて、下に落ちてきたんだよ」
見上げれば、随分と先に地上が見えていた。
どうやら森の下には広大な地下空間が広がっていたらしい。一瞬で大地が溶けて落下してきたのだ。
ここから見て、地上は百メートルほど上にあった。
「その。レーザー攻撃ってもう一度くるってことはないですよね?」
「どうだろう? 今のところ気配は感じないけど。なんだったら、ザマーアンチサテライトアタックとかやっとく?」
「僕が宇宙空間を永遠に彷徨うハメになる奴じゃないですかそれ……」
ドロドロと溶けた溶岩の中を歩いて行く。進んでいくと強烈な熱気はおさまり、地面もしっかりとしたものになってきた。ニルマがいたあたりが特に光線が集中していた中心部分なのだろう。
ニルマたちは、天上にあいた穴の端にまでやってきた。
穴は円形で、かなりの大きさだ。地下空間そのものはこの先にまで続いている。
ニルマは、ザマーを抱きかかえて飛び上がった。
百メートルほどを一気に上昇する。そのまま地上に着地しようとしたところで、巨大な拳がニルマたちを打ち据えた。
「え?」
突然の衝撃に、ニルマはわけもわからずに吹き飛ばされた。
空中にいるところを攻撃されては防御はできても、踏ん張ることができない。
そのまま吹っ飛ばされて地上にあいた穴を飛び越え、ダンジョンを構成する樹木を何本もなぎ倒し、ニルマはようやく停止した。
「なんだこれ!?」
ニルマは混乱したまま立ち上がった。
攻撃をしてきた何かを見つめる。
それは、離れていてもはっきりとわかるほどに巨大だった。
「ロボじゃん!」
それは、巨大ロボットだった。




