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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第32話

 ワーカーの巨大な顎がニルマに迫る。

 ニルマはその顎を片手で軽く受け止めた。

 そして、顎をその位置で固定し続ける。


「ザマー! いまだよ!」

「は、はい!」


 ザマーと呼ばれた少年が、ナイフを手にワーカーへと突っ込む。

 ナイフは腰だめにしていて、全身で突っ込むつもりのようだがその突進は頼りないものだった。

 当然、こんな少年の力などたかがしれている。

 ナイフはワーカーの表皮に弾かれ、ザマーは尻餅をついていた。


「えー! こんなこともできないわけ!?」

「仕方がないでしょう! 初めてなんですから! 第一こんなもので巨大蟻に立ち向かえって馬鹿なんじゃないですか!」

「不合格ですわ!」

「えー!?」


 不満を漏らしながら、ニルマはワーカーの顎を砕いた。握力で握りつぶしたのだ。


「キシャアアアアアアアァッ!」


 ワーカーが悲鳴をあげる。

 続けて放ったニルマの拳が、ワーカーの胸部装甲を貫いた。


「よし! 穴を開けといたから、ここを狙うんだ!」

「だから不合格ですわ!」


 ワーカーが崩れ落ちた。胸部への一撃が致命傷になったのだ。


「ニルマさん。あなたが強いのは認めましょう。ですがパーティとしては失格だということはおわかりですわよね?」

「まあ……そりゃそうだけど……え? 試験ってこれで終わり?」

「いえ。時間制限はありませんから、合格するまで何度でも挑んでいただいて結構ですわよ?」


 自然な流れでニルマをダンジョンの奥へ誘導するのは、困難な任務だった。

 試験官の立場では、受験者に指図することはできないからだ。

 なので、とりあえずは不合格にしてお茶を濁している。

 幸いニルマのパーティは明らかに合格基準に達していないので、不自然ではないはずだ。


 ――しかし、ニルマさん。かなりの膂力ですわね……。魔神の影響とかでしょうか?


 ニルマは、その見た目からは想像もできないような力を発揮していた。

 魔法を使っているわけでも、ダンジョンで発見された武具を使っているわけでもなさそうなのにだ。


「こまったなぁ。ザマーが戦えないと……バトルモードとかないの!? ピンチになると発動するとかさ!」

「そんな都合のいいものはないですよ!」

「やっぱザマーミサイル……」

「それで合格になる気がまったくしませんね!?」

「じゃあ、やっぱり突進アタックするしかないじゃん。いい? ナイフの柄は腹にしっかりと当てて支える。姿勢は低くして全身でぶつかる」

「わかりましたよ」


 二人はいまさら練習をしている。

 アンナは、なぜこんな二人がパーティを組んでいて、受験資格を得ているのかがよくわからなかった。


「少しよろしいかしら?」

「なに?」

「試験について口出しするわけには参りませんのでこれはあくまでも独り言なのですが。ワーカーは生まれたては白く、成長するごとに黒くなるらしいですの。そして黒くなるごとにその表皮は硬質化していくのですわ。そして、ワーカーは内側から外側へと活動範囲を広げていくものなのです」

「なるほど。今のやつは黒かったし……じゃあダンジョンの奥の方にいるやつの方が柔らかいってこと?」

「さあ。どのようにお考えになろうと知ったことではありませんわ。私は独り言を言っただけですので」


 これならばそれほど不自然な物言いではない。

 本来なら試験官がアドバイスをするのは禁じられているが、この程度の独り言は許されていると思うことだろう。


「じゃあもうちょっと奥に行ってみようかな。ありがとね」

「なにがですの? 独り言に反応されても困りますわ」


 少し胸が痛む。

 彼女には何の罪もない。ただ魔神が宿ってしまっただけの被害者なのだ。

 だが、ただ可哀想だといって放置するわけにもいかない。

 このままでは、その身を食い破って魔神が復活する。そうなればたくさんの犠牲者が出るだろう。

 それはなんとしても避けなければならなかった。

 不憫なことではあるが、彼女は魔神ごと封印する必要があるのだ。


『グループAが帰還しました』


 どこからかミクルマの声が聞こえてきた。伝心の魔法だ。

 試験は順調に進み、合格者が次々に出ているようだった。

 この調子なら、ニルマだけを森に残す任務は達成できるだろう。

 ニルマたちの後ろを歩いて行くと、森はより奇怪な様子になっていった。

 時折ワーカーを見かけたが、ニルマたちは無視して進んでいく。もっと柔らかそうな相手を探しているのだろう。

 そうしているうちに、かなり深い場所にまでニルマたちは到達し、その頃には他のパーティは全て船に帰還していた。


 ――このあたりでしょうか?


 封印に関しての詳細をアンナは聞いていなかった。

 現地で指示を伝えるとのことだったのだ。


『お疲れさまです。そのあたりで問題ありません。アンナ様はニルマさんをその場に残して引き返してください』


 ここからどうすればと考えているとミクルマが話しかけてきた。

 伝心の魔法ではお互いの位置を知ることができないはずなのだが、枢機卿ともなれば造作もないのかもしれない。

 アンナはミクルマに全幅の信頼をおいていた。


『承知いたしましたわ。ですが、ザマーという少年も一緒なのですが……』

『問題ありません。それは人間ではありませんので』

『そうなのですか!?』

『ええ。それは、ネルズファーの復活を目論むおぞましき信奉者。古代に作られた機械人形なのです』

『なるほど。人間にしか見えないですが、古代の技とは恐ろしいものですわね』


 どこから見ても人間だが、ミクルマが言うならそうなのだろう。

 アンナはネルズファーの狡猾さに戦慄していた。そのあどけない顔にすっかり騙されていたのだ。


「こんなところでなんですが、ちょっとお花を摘みにいってきますわ! ニルマさんたちはそのあたりで休憩なさっていてくださいな!」

「じゃあちょっと休憩ね」


 ニルマとザマーが地面に腰を下ろす。

 いきなりこの場を離れては怪しまれるかと思ったが、アンナを疑っている様子はないようだ。

 アンナは何食わぬ顔でその場を離れた。

 しばらくはゆっくりと歩いて行く。十分に距離をとったところで、ミクルマの声が聞こえてきた。


『では急いで船に戻って……いえ。お待ちください。周辺に冒険者がいるようです。お手数ですが、その方も船へとお連れいただけませんか』


 マルハシの森ダンジョンを攻略中のパーティはいないと聞いていた。

 それでも念のために、わざわざ半島の先端側に飛行艇でやってきたのだが、計画通りとはいかないらしい。


『承知いたしましたわ!』


 あまり時間はかけられない。

 アンナは腰に下げている剣、神器を抜いた。

 それにより一瞬にして転神変が完了し、アンナの全身が神気で覆われる。

 これこそが神器の本領。人間を一時的に神へと作り変える力だ。

 アンナは大地を蹴った。

 その勢いで木々の樹頭を越えて、ダンジョンの上空へと飛び出す。

 空中で停止して周囲を確認。強化された視力で、森の葉陰から見え隠れする何者かを発見した。

 アンナは、その冒険者へ向けて滑空し、瞬く間に着地した。


「そこのあなた! ここは危険ですので、私と一緒に――」

「あ、アンナさんだ。久しぶり」


 話を途中で遮られ、アンナは固まった。

 そこにいたのが見覚えのある者だったからだ。


「あなた……なぜこんなところに?」

「冒険者なんだから、ダンジョンにくるのは当然でしょ?」


 そこにいたのは、特級冒険者のヴェルナーだった。

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