第27話
ポータル核を納品してから一週間後の早朝。
ニルマとザマーは再び冒険者センターを訪れていた。
国民昇格試験が実施されるためだ。
仮設の建物が立ち並ぶグラウンドの一角に受験者が集合しており、ニルマたちもそこで試験官がやってくるのを待っている。
二人とも、背にはリュックを背負っていた。
試験は数日に渡る可能性があるため、各自がダンジョンで必要と思う物を持ってくるように指示されているのだ。
「こんな状況だけど、受験者はそこそこいるね」
集まっているのは五十名ほどの冒険者だった。
大多数が若者だ。十五歳から準国民になって、ダンジョンで生き残れる才覚があれば一年程度で1000ポイントを貯めるのが普通らしい。
「そういえば、僕はこれまで何もやってないんですが大丈夫なんでしょうか?」
「あ。どうしよ? 音波攻撃とか見せるわけにはいかないよね?」
戦えばいいだけの試験なら楽勝だ。そう考えていたニルマだが、ザマーのことはすっかり忘れていた。
「さすがにそれは……」
「まあ、頑丈だから適当に突っ込んで殴るとかでいいんじゃないかな?」
「せめて武器の一つも持たせてくださいよ」
「武器かぁ」
ニルマはリュックを下ろし、中を漁った。
入っているのは主に食料と着替え。他にはキャンプに使えそうな物を適当に買ってきた。
「ナイフぐらいかな」
刃渡りが10センチほどで刃厚のある鞘付きのナイフだった。
武器のつもりで買ったものではないが、しっかりとした造りなので十分に使えるだろう。
ニルマはザマーにナイフを手渡した。
「すごく心許ないですね」
「とりあえず身体に引き付けて腰だめにして突っ込もうか」
「それ、捨て駒感がすごいんですけど……」
「最悪、ザマーハリケーンとか見せれば合格するって」
「それ、僕どんなことになるんですかね!?」
そんなことをしていると、周囲からは冷たい目で見られているようだった。
「ろくな武器も持ってねぇってなめてんのかよ」
「どんな試験かもわかんねぇってのに荷物があれだけってふざけてんのか」
小声で嫌みまで言われている。
だがニルマは言い返す気にはなれなかった。舐めている自覚はあったからだ。
しばらくぼんやりと待っていると、巨大な飛行艇から神官達がぞろぞろとやってきた。
オーランド王国の国民昇格試験だというのに、こんなことまでユニティ聖王国の者たちが管轄するらしい。
受験者たちがその様子を見てざわめいていた。
試験官が多数同行することは事前に聞いている。なので彼らはその先頭に立つ人物を見て驚いているのだ。
それは、ドレスの様に繊細で儚げな鎧を身に着け、腰に剣を帯びている女性だった。
そのブロンドの髪とかなりの時間をかけて整えられたであろう巻き毛は異様なまでの存在感を示している。
彼女がその一団を率いているのは明らかで、試験監督のような立場であることも簡単に想像できた。
「聖女様だ……」
「試験監督は上級以上の冒険者がやるとは聞いてたが、まさか特級のアンナ様とは……」
「すげぇ……あの腰につけてるのが神器ってやつだろ? 俺、初めてみたよ……」
皆が口々に言うことからすると、その女性がオーランド王国の第十八王女で、特級冒険者で、神将で、イグルド教の聖女であるアンナらしい。
「ニルマ様も鎧とかあったんですか?」
「一応聖女専用服はあったけど、布だったね」
「五千年前のマズルカも案外せこいですね」
「いやいやいや。布だったけど金はかかってたんだって。なんとかっていう昆虫のちょっとしかない腱を何百万と集めて作ったってやつなんだから」
それはすこぶる丈夫で、ニルマが全力で強化しても耐えうるという素晴らしい性能を誇る代物だった。
「え? それ気持ち悪くないですか?」
「獣の皮を剥いで加工してるのと同じようなもんじゃない?」
「その素晴らしい服は残ってないんですか?」
「神滅大戦の最後の方にはボロボロになってたから捨てた」
「それがあればよかったんですけどね」
今ニルマが着ている神官服はただの綿製だ。破れもすれば燃えもする。油断するとすぐに使い物にならなくなるのだ。
「一番丈夫なのはパジャマだけど、あれ着て戦うのもなぁ。一応持ってきてるけど」
「寝るときだけにしといてくださいよ」
服の心配をしているうちに、聖女アンナは受験者たちの前にまでやってきていた。
「皆様、ごきげんようですわ! 私、今回の国民昇格試験の監督を拝命いたしました、アンナと申します! なぜイグルド教の聖女が、と思われたかもしれませんが、私はオーランド王国の特級冒険者でもありますので、その立場で務めさせていただきます! あ、聖ユニティ王国の神官たちを引連れているのは、私が都合良く動かせる人員だったというだけでさほどの意味はありませんわ!」
堂々と大声でアンナは言った。
「見た感じお嬢様だと思ったけど、お嬢様っぽいね……」
試験官は試験監督が任命する制度らしかった。
「さて。さっそくですが、皆様には飛行艇に乗り込んでいただきます! 今回、枢機卿のミクルマ様に特別の許可をいただけましたので、飛行艇で試験会場まで向かいますわ!」
途端に、冒険者たちがざわめいた。
飛行艇で試験会場に向かうなど前代未聞だったからだ。
「へぇ。乗れるんだ。楽しみ」
これまでにない試験状況のようだが、ニルマは珍しい乗り物に乗れることを素直に喜んでいた。




