第10話
砂浜には色とりどりのビーチパラソルが立ち並んでいた。
飲食物を売る屋台が軒を連ねていて、焼けた肉の匂いがあたりには漂っている。
もちろん、そこを歩くのは水着姿の男女であり、かなりの賑わいでごったがえしていた。
「いまさらだけど、侵略されてんだよね?」
「今もちゃくちゃくとどこかで侵略は進行中とのことですね」
ニルマの問いに、ザマーは真面目な顔で答えた。
「それにしてはのんきなもんだよね」
「我々も同類ですけどね」
水着姿のザマーが言う。
当然ニルマも水着姿だった。
荷物はセシリアに預けてあるため手ぶらだ。
ニルマたちの足下にいる小型犬、ネルズファーまで水着を着せられている。
セシリアはもともと教会の用事できているため、聖導経典の探索には付いてこなかった。
「ま、深刻ぶってるよりはよっぽどいいけどね」
この時代の人間は、どうやら刹那的に生きているようだった。
侵略されているのはもう仕方がないとして、今を楽しもうという考え方が大勢を占めているのだ。
なので侵略に備えて財をため込むといった考えはないらしく、経済はそれなりに活況を呈しているらしい。
「突然どこかに湧いて出てくる敵が相手ではそうなるのも仕方ないかもしれません」
エルフの攻撃を受ける前のドーズの街も活気にあふれていた。
侵略されている側の悲壮感のようなものはなかったのだ。
「ダンジョンを潰しても次々にあらわれるんじゃ追いつかないしね」
「で、この時代の人々が明日のことなど考えずによろしくやっているのはわかりましたけど、なぜ海水浴場にくる必要が? このあたりから聖導経典の気配でも感じたんですか?」
「え?」
「ニルマ様。もしかしてただ遊びに来ただけとかじゃないですよね?」
「あ。うん。まあどっから海に入ってもいいじゃない」
「それはそうですけど、真剣味が感じられないんですよね」
「てかさぁ。ザマーはついてこなくてもよかったんじゃない? 手伝えることないでしょ」
ザマーは海中での活動を考慮した設計になっていない。
呼吸は必要ないので海中でも活動は可能だが、探索の役にはほとんど立たないだろう。
「……現状の僕には目的がありませんでした」
少し考えた後、ザマーは直接関係のないことを言い出した。
「ふむ。当初の目的は私を起こすことだからね。で、目的は達したわけだから後は好きにすればいいと思ってるし」
「ええ。ですので自分の目的は自分で勝手に決めました。それはニルマ様を人類の役に立つように導くことです」
「えぇー? なんでザマーまで聖導経典みたいなこと言いだすの?」
人に作られた道具の性なのか、基本的に機人たちは人の役に立とうとする。
現状での目的を一から考え、人類全体に奉仕するといった思考になったのかもしれない。
「聖女なんですから、自覚を持ってくださいよ」
「で、話を戻すけど、つまり聖導経典の探索をさぼるんじゃないかと思って見張りにきたってこと?」
「その通りです。手を抜かずしっかりと探してください」
「ここまで来ていまさらさぼったりしないけどさ……」
ニルマが言葉を濁したのは、そう簡単には見つからないと思ったからだ。
いくら真面目に探そうが、結果的にはさぼっているかのように見られてしまう可能性が高かった。
「ま! とりあえず海に入ろうか」
ごまかすように言い、ニルマは海へ向かった。
人の間を抜け、焼けた砂の上を歩いていく。波打ち際まではすぐで、そこにも人がごった返していた。
だが、そこにいる人々は水着姿で浮かれている者たちとは様子が違った。
武装し、緊張感を漂わせていたのだ。
「海水浴って感じじゃないね」
「海を警戒してるようですが……」
ぞろぞろと列を成して波打ち際を歩いている。見たところ戦うべき敵はいないようだが、彼らの様子は真剣そのものだった。
「ま。とにかく海に入って――」
「そこの君。僕と一緒に――」
何かがこの海で起きているのかもしれないが、今のところは関係がない。
ニルマが海に向かおうとしたところで背後から声がかけられた。
何者かとニルマが振り向くと、水着姿の青年が爽やかな笑顔を浮かべていた。
「あ……」
青年の笑顔が固まる。知った顔だった。
「あー。誰だっけ!」
「ファイナルフォースのアレンさんですよ……覚えてないんですか」
「え? なんか死んだような話を聞いたような……」
ドーズの街でのエルフの襲撃。
その際にアレンはエルフに立ち向かい、犠牲になったとどこかで聞いたような気がしたのだ。
「為す術もなかったのは事実だけど、これでも特級だからね。奥の手の一つや二つはあるんだよ」
「アレン! またなの!」
「これ以上女を増やそうってどういうつもりなのよ!」
「巡回をさぼってナンパってなんなの!?」
アレンが言い訳めいたことを言っていると、水着姿の女たちがやってきた。
以前に遺跡で見かけた女たちで、ファイナルフォースのメンバーだ。
「待ってくれ! ナンパじゃない! ほら以前にも会っただろ! 彼女だよ!」
最初の声がけはナンパのようにしか聞こえなかったが、ここでそんなことを言うとさらにややこしいことになりそうなのでニルマは黙っておくことにした。




