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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第7話

 セシリアがザマーに駆け寄る。

 ザマーは受け止めた男を街道に横たえ、セシリアは回復魔法を使用した。


「手加減ならもうちょっとやりようがあるでしょうに……」


 ザマーがぶつくさと言いながら戻ってくる。

 ニルマはザマーの手を取った。


「え?」

「ザマーブーメラン!」


 ニルマはザマーを森に向かって投げつけた。

 森に隠れている盗賊たちが逃げようとする気配を察したのだ。

 もちろん直撃させるつもりはない。

 ザマーは森へと飛んでいき、盗賊のそばを通り抜け、樹をなぎ倒していった。


「逃げるとこんな目に遭うよー」


 ニルマは、大声で森へと語りかけた。


「誰視点で言ってるんですかね!」


 遠くからザマーの声が聞こえた。森の奥の方まで飛んでいったらしい。

 森に隠れていた盗賊もこれで完全に戦意を喪失した。


「樹かな? バッキバキに折れるぞ? ザマーぶつけんぞ? っていう」

「そんなに物を投げつける機会があるなら、専用の武器を用意しておいてくださいよ!」


 ザマーが戻ってきた。

 相変わらず無傷だ。服は特殊な繊維で出来ているのか汚れもしていない。


「いやー。うちは愛用の得物とか使わないからさ。武器を使うことはあっても、それはそこらへんのものを活用するって形だし」

「せめて愛用の得物扱いしてほしいんですけどね!? 投げていいって訳じゃないですけど!」

「あの……もう襲ってこないなら逃げられてもいいのではないでしょうか……」


 セシリアがおずおずと言ってきた。

 わざわざ森の中に隠れている盗賊まで攻撃する必要はないと思ったのだろう。


「違うんだよ……こいつらは敵対した相手は何がなんでも逃がさねぇんだ。文字通りの意味で地獄の果てまで追ってきやがるんだよ」


 ニルマの足もとにいる小型犬、ネルズファーが苦々しげに言う。


「あれ? ネルズファーって初見でぶちのめしたような気がするけど?」

「聞いた話だよ……マズルカには関わるなって散々に言われてたんだがな……」


 ネルズファーは後悔を滲ませてつぶやいた。


「あの……昔のマズルカ教はいったいなにを……」


 セシリアの顔が少しばかり引きつっていた。


「ほら。こうやって噂になるぐらいだと抑止力になるでしょ?」

「次からはネルズファーを投げてくださいよ。こいつだって十分に頑丈でしょう」

「こんな可愛いわんちゃんを投げろとか発想がひでぇな!」

「可愛いって自覚あるんですね」

「つーかよー。飛び道具なら魔法があんだろうが?」

「あー。あんたに言われて確認したんだけだど、契約は全部切れてたね」


 ニルマの魔法は支配下においた悪魔などと契約して行使するものだった。

 その契約はどれも定期的な更新が必要だったらしく、現状では魔法が使えない状態になっていたのだ。


「お前なら自力で使えそうなもんだけどな……」

「はーい。集合!」


 ニルマが呼びかけると、森に隠れた者たちがやってきた。

 隠れていた者は五名で遠距離から弓矢で援護するつもりだったらしい。前後を挟んでいた者と合わせて総勢十名が今回の襲撃メンバーだった。


「盗賊を呼び集めてどうするんですか」

「あんたら全員同じ村の仲間で、村ぐるみで盗賊やってるってのは本当?」

「……そうだ」


 先ほどニルマに吹き飛ばされた、麻袋を被った男が立ち上がった。

 セシリアの回復魔法で治るぐらいならたいした怪我ではなかったのだろう。


「そっか。じゃあ、その村に連れてって」

「海に行くのはどうするんですか?」

「ちょっと寄り道するだけだよ。そんなに遠くないでしょ?」

「ああ。ここから数十分程度でつく」

「だったら問題ないんじゃない?」


 ニルマ一行は、盗賊の村へ向かうことになった。


  *****


 森の中を少し行くと、すぐに村にたどり着いた。

 森を切り拓いて作られた村なのだろう。

 柵で囲まれた集落があり、周囲には農地が広がっている。

 家屋は十数件といったところで、人口は百人前後だろうとニルマは推測した。

 盗賊たちに連れられて、ニルマたちは柵の中へと入った。


「やっぱり教会はないのか」


 ニルマの常識では、この規模の集落なら中央付近に教会があるはずだった。

 だが、特に目立つ建物はない。普通は村で一番立派な建物が教会なのだ。


「あんたらって全員、盗賊やってるわけ?」

「青年会でやってるだけだ。ま、反対する奴も特にいねぇわけだが」


 盗った物は、村で分配される。なので、実行犯以外は関係ないとも言えないだろう。


「ちょっ! やめ!」


 声が随分とおっさんくさい。正体が気になったニルマは、リーダーらしき男が被っている麻袋をひっぺがした。


「青年って……」


 男は、初老といった年代のように見えた。


「うっせぇな! 青年会なんざどこもこんなもんだよ!」

「まあいいや。とりあえず今後の話をしたいから偉い人のとこ連れてってくれる?」

「こっちだ」


 初老の男は、少しばかり立派な建物に向かっていった。

 ニルマ一行も、その建物に入る。


「村長のお宅?」

「ああ。実は俺の家だ!」


 驚かせるつもりだったのか、男は自慢げだった。


「……まあ、一から話をしなくてもすむからいいか」

「何が言いたいんだよ」


 村長自ら盗賊行為に加担しているなど世も末だ。

 そんなことを言いたくなったニルマだが、それがこの時代の常識なら文句を言っていてはきりがないだろう。

 家に入ってすぐが応接室だったので、それぞれが席についた。


「まずは自己紹介といこうか。私はニルマ。で、セシリアとザマーね。あんたは?」

「ヒノデ村のガイアンだ。村長をやっている」

「いくつか聞きたいことがあるんだけど。あんたら、私たちが下級とか等級外とか知ってたよね?」


 誰もが冒険者をしている時代だ。

 皆、戦闘経験があり、それなりの強さを持っている。当然、そこらを無防備に歩いているように見える相手が弱者である保証などない。

 つまり、盗賊をするにあたって相手の戦力を見極めることが重要になるはずなのだ。


「弱そうな奴の情報を売ってる奴がいるんだ」

「てことは、冒険者センターで登録した魔力波形とかが横流しされてんの?」

「ああ。うちの村にも魔法が得意な奴がいる。少々遠くからでも波形から人物特定は可能だ」


 彼らも常日頃から盗賊行為に勤しんでいるわけではない。

 街道を通る者たちを確認し、手を出しても問題なさそうな相手を吟味しているのだ。


「ですってよ。どうなんですか、そこらへんは」


 ニルマはセシリアに話をふった。それが常識なのかを確認したかったのだ。


「いえ……まさかそんなことになっているとは……」

「まあ、そういうことなら対処は可能かな。波形は変えればいいわけだし」

「私はそんなことできないのですが!?」


 セシリアは寝耳に水といった顔をしていた。

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