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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志
2章

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第5話

 翌日のまだ朝靄が立ちこめている頃。

 教会の外には、ニルマ、ザマー、セシリア、ネルズファーの三人と一匹がいた。

 今から海へと出かけるのだ。

 ドーズの街から一番近い海は南にあるとのことだった。まっすぐに南下すると山があるのだが、それを迂回しても十キロほどの道のりらしい。特に急がなくても、徒歩二時間ほどでたどり着けるとのことだった。

 もっとも、それで海には到着するがそこに聖導経典があるかはわかったものではない。

 今回は、とりあえず様子見で行ってみることになったのだ。


「で、なんで俺がいくことになってんだ?」


 ニルマの足下にいる小型犬、ネルズファーが聞いてきた。


「いくつか理由はあるよ」

「ほう」

「あんたを放置して遠出するのはどうかってのが一つ。街の中ぐらいならいいけど、あまり離れすぎるとすぐに戻れないからね」

「逃げたり暴れたりするつもりならとっくにそうしてるがな」


 実力差は十分にわかっているはずだし、現し身のほとんどを失って力もなくしていることだろう。

 なのでそれほど心配しているわけではないのだが、それでも魔神は魔神だ。街にいる冒険者の実力はよくわからないが、ホワイトローズぐらいの中級冒険者では手も足も出ないに違いない。


「まあ、そっちはあんまり重要じゃなくて、あんたを連れてく一番の理由は化身ね」

「どういうことだ?」

「鮫の化身あったでしょ?」

「まさかおまえ……」

「海の中を探してもらおうかなーって」

「そんなことは自分でやれよ!」


 吠えられても小型犬なのでまるで迫力はなかった。


「あのね。こっちは人間なんだから、ちょっと泳ぐぐらいはできても海の中を探索とかできるわけないでしょ。常識的に考えたら」

「常識……」

「常識ですか……ニルマ様なら水中でも活動できるのかと思ってましたよ」


 ザマーまでそんなことを言い出した。


「そりゃ、できないこともないけど、それとちゃんと探せるかは別でしょ?」

「あ、活動できるんですね。聖女ってなんなんですかね?」

「いや、そうはいうけど、水中で活動できないとなると、水中領域を展開する悪魔とかが相手になったら詰むじゃない」

「まあ、やれって言われりゃやるけどよ。見つかるかは知らねぇぞ?」

「見つからなかったら、それはそれで仕方なくない?」

「それを言い訳にするつもりかもしれませんけど、見つかるまで探してもらいますからね」

「えぇー……」


 ニルマはうなだれた。軽く探してみて、見つからなかったら調査を打ち切るつもりだったのだ。


「別に聖導経典が見つからなくてもいいですけど、その場合は自力で聖女っぽいことができるまで勉強してくださいね」

「うーん。勉強か……最低限のことはできるようにしとかないと、とは思うけどさぁ……」

「ま、何にしろここでごちゃごちゃ言っていないでさっさと行きましょう」


 ニルマがとぼとぼと歩き出すと、皆がついてきた。


  *****


 ドーズの街の南門からでてそのまま南へと向かえば、ネルズファーがいた遺跡のあるカナエ山にたどり着く。

 そのまま山を登ってまっすぐ海へと向かうこともできるのだが、今回は山を迂回して平地を行くことになった。


「ニルマ様一人なら、一気に飛んでいったりできるんですよね?」


 石畳で舗装された街道を歩いていると、ザマーが聞いてきた。


「できるけど、特に急いでるわけでもないのに必死でジャンプする人っておかしいでしょ」


 ニルマは、緊急事態でもなければ一般的な速度で歩いて行くつもりだった。


「まあ、通常移動がジャンプな人を、聖女とは呼びたくないですけどね」

「一つ聞きてえんだけどよ。さっきから何度か馬車とすれちがってんだが」


 ネルズファーがいぶかしげに聞いた。


「え? 馬車を使えってこと?」

「そうじゃなくてよ。なんで乗り物が馬車なんだよ。人間どもはもっと便利なもんいくらでも使ってたろうが」

「あー。ネルズファーも私らと似たようなもんだっけ。詳しくはわかんないけど、人間の文明レベルはずいぶんと下がっちゃってるのよ」


 ニルマの想定では、人類は宇宙に避難し環境が改善されて後に戻ってきたはずだった。

 特になにもなければ、設備なり知識なりは維持されているはずなので、文明レベルはそう変わらないはずだ。

 だが、現実はこんな状況なので、五千年の間に何かが起こったのだろう。

 何があったのか、多少の興味はある。世界を調べまわれば何かわかるかもしれない。

 だが、そこまでするほどの熱意をニルマは持っていなかった。人類が存続しているのならとりあえずはそれでいいだろうと思っているのだ。


「でも馬車しかないってのもどうなんだろ? 街では電気とか使ってるぐらいなのに」


 言われてみるとずいぶんとちぐはぐな印象だった。

 電力が使えるぐらいの文明なら、蒸気機関なり、内燃機関なりがあっても不思議ではないように思えたのだ。


「乗り物は馬車が一般的ですね。電動のものも研究中とは聞きますが、生体炉を使用する発電機の小型化はなかなか難しいとからしいです」


 セシリアによれば、ワーカーから得た生体炉を使用する発電機はかなり大がかりなものらしかった。

 蓄電に関する技術もそれほど発展はしていないようで、小型機械への電気の応用は進んでいないらしい。


「そーいや、セシリアはなんでついてきたの? あ、ついてくんなって言ってるわけじゃないんだけど」

「港町にも信者の方がおられるんですが、このあたりのマズルカ教会はうちぐらいなんですよ。ですので定期的に訪れて礼拝のお手伝いをしているんです」

「……聞けば聞くほどに散々な状況だなぁ」


 マズルカ教は衰退していると聞いていたし、理解しているつもりではいた。

 だが、各街に一つぐらいは教会があると思っていたニルマはさすがに悲しくなってきた。


「おい! 命までとりはしねぇ。金目の物を置いていけ!」


 意気消沈したままニルマが歩いているとそんな声が前から聞こえてきた。

 顔を上げてみれば、雑な仮面を被り粗末な武器を持った者たちが道を塞いでいる。

 背後をみれば、そちらにも同じような者たちが立っていた。


「えーと……このあたりは盗賊が出るんです。ニルマさんと一緒ならどうにかなるかな、と思いまして同行を願い出たわけなんですが……」


 セシリアが申し訳なさそうに言う。


「女二人に子供が一人。どうにでもなると思ったのかねぇ」


 ネルズファーがぼやく。


「……ああ……可哀想に……」


 ザマーは心底、盗賊を哀れんでいるようだった。

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