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二の打ち要らずの神滅聖女 〜五千年後に目覚めた聖女は、最強の続きをすることにした〜  作者: 藤孝剛志


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第19話

 ニルマが三階までやってきたところで、手加減の成功率は七割ほどになっていた。

 それなりに生き残る感じではあるが、絶対に殺してはいけない状況では不安になる割合だ。

 ニルマは、当面の目標を九割ほどに設定した。

 もちろん、活殺自在といきたいところだが、それにはもう少し時間がかかることだろう。

 ニルマは、三階廊下の中程にいた。

 ビルの外観は細い印象だったが、奥行きはあるようで、思ったよりも広い建物だ。

 襲撃を想定しているのか、階段の位置はバラバラになっている。

 次の階への階段は反対側の端にあり、ニルマはそこに向かう途中で立ち止まっていた。

 ニルマは前後を挟まれているのだ。

 前後に五人ずつで、合わせて十人がニルマに魔導器を向けていた。

 この組織の標準武装は指向性魔導器らしく、ここまでに出てきた構成員はこれしか持っていない。

 魔法を使える素質のある者はそういないらしいので、やはり平均以上の人材を集めてはいるのだろう。

 炎弾の魔法は十分な威力と速度を有しており、魔導器の補助で狙いも正確だ。

 これさえ使えれば対人戦には事足りるとの判断なのだろう。


「時間稼ぎ? なら待ってればいいのかな?」


 だが、彼らは攻撃してこなかった。

 どれほど撃ち込もうと無駄に終わり、確実に反撃されると思いしらされたのだ。

 そして、反撃しかしてこないこともこれまでの状況から理解している。

 たいていの宗教がそうであるように、マズルカ教も基本的には暴力や殺人を禁じている。

 基本的にというのは、身命や財産や誇りを守るために戦うのはむしろ推奨しているからなのだが、それでも何もしてこない相手に一方的に襲いかかるのは拡大解釈が過ぎるだろう。

 基本的には専守防衛を旨としているのが、マズルカ教だった。


「あんたらマジかぁ? 相手は女の子一人だよね?」

「先生!」


 前方の人の壁をかき分けて、男があらわれた。

 やる気のなさそうな中年男だ。

 腰には鞘をぶら下げているので、他の奴らとは違い、剣で戦うのだろう。

 先生などと呼ばれているので、用心棒的な立ち位置らしい。


「って、うわ! なにこれ? 人間なの、この子? こんな化け物、おいちゃん見たことないよ?」

「先生! よろしくお願いします!」


 よほどの実力者なのか、チンピラどもの間に安堵の空気が漂っていた。

 彼らは、この男が来るまでの時間を稼いでいたのだ。


「えー? 無理無理、こんなの勝てっこないから!」

「そんな……」

「大丈夫だ。先生はいつもこんな感じだ。なんだかんだいいながら勝つんだよ!」


 中年男が一歩前に出る。


「今までの雑魚とは格が違う……とか思った?」


 男は飄々としていて、ニルマと対峙しても実にやる気のない態度だった。


「全然思ってないけど?」

「だよねー。ま、おいちゃん勝てない勝負はしない主義だから。お暇させてもらうよー」


 そう言って、中年男はニルマの横を通り過ぎようとした。

 ニルマは、右掌で男の左上腕部を打った。


「……マジで? おいちゃん、殺気がないことだけには定評あんだけど?」


 男の左手は、剣の柄にかかっていた。

 通り過ぎざまに抜き打ちを食らわせようとしていたのだ。


「殺気がないのは凄いけど、攻撃は見てりゃわかるでしょ」

「えー? 抜き打ちの速さにも定評あるんだけど? 無影剣って、こっぱずかしい二つ名つけられたりしてんのになぁ……」

「手加減の成功率があがっててよかったね」


 男が倒れた。

 掌の衝撃が浸透し、心臓を止めたのだ。

 手加減がうまくいっているのならそれは一瞬のことであり、死には至らないだろう。


「で? 手加減の練習につきあってくれるってなら、順番に打って回るけどどうする?」


 用心棒が倒れ、戦意を喪失したのだろう。

 チンピラどもは素直に道を開けた。


  *****


 四階。

 抵抗はなくなり、ニルマは幹部の部屋らしき場所に通された。

 最初こそは、殴り込みに来た不審者をただで帰せるかと意気込んでいた彼らだが、これ以上続けるのはまずいと悟ったのだ。

 徹底抗戦派もいたはずだが、そんな奴らはとっくに動かなくなっているのだろう。

 結果、体面よりも生き延びることを優先した話のわかるタイプだけが残ったのだ。


「で? あんたで、話つけられんの?」


 ニルマはソファーに座り、長財布をローテーブルの上に放り出した。

 ローテーブルを挟んだ向かいには、その財布の持ち主が座っている。

 この組の幹部候補で、名はザルム。

 その顔は憔悴しきっていた。


「四百万ジル程度から発生する利息が欲しかったわけじゃないんでしょ? 教会が持ってるそれなりにまとまった広さの土地が目当て。土地だけあっても仕方ないから、その土地を利用したい奴らも絡んでる。そのすべてにけりをつけられんのって聞いてんだけど? あんたが図面引いてるとも思えないし、もっと上の奴を出した方がいいんじゃないの?」

「勘弁してくれ……ボスは出せねえ。今すぐにこの状況を理解させるのはまず不可能だし、舐めたことを言ってあんたに殺されるのがオチだ……この件は俺のところで終わらせる。けりは、俺がつける」

「じゃああんたが全責任を負えるってことで、こっちの要求は二つ」

「交渉じゃねーんだな」

「お互い暴力が主力商品で、あんたんとこの商品は圧倒的に見劣りする。この状況で商売が成り立つとでも?」


 ニルマは最初から交渉のつもりなどない。一方的にこちらの要求を突きつけるつもりだったし、ここまでに行った手加減の訓練は見せしめも兼ねていた。


「わかったよ」

「まずはマズルカ教会の借金について。もともとの契約に利息に関する記載はない。延滞時は応相談ってことよね?」

「そうだが……?」


 ザルムは訝しげな顔になっていた。


「その応相談ってことで話にきたの。延滞利息はなし。元金のみ返す。これでオーケー?」

「それでいいのか……!? てっきりチャラにしろって話かと」

「借金を踏み倒すとか、人としてどうかと思うよ?」

「……人として……」


 何か言いたそうだったが、ニルマは無視して話を進めることにした。


「あんたらの組織の名前は?」

「ガゴゼファミリー。詳細に言うならベクター派ドーズ支部サンビーノ組だ」

「じゃあ二つ目。そのガゴゼファミリーは今後、マズルカ教会と信徒に一切手を出すな」

「無茶を言うな……ガゴゼファミリー全体がどれほどの規模だと思ってんだ。出来てうちの組員に通達――」

「うちのもんに手出ししたら、お前らは根こそぎにする。されたくないなら、死ぬ気でなんとかしろ」

「てめぇ……調子にのってんなよ……こっちにも引けないラインはある。ファミリーを天秤にかけられて唯唯諾諾と従うとでも思ってんのか!?」

「知るか。別にお前ら悪党がどんなシノギをやろうが知ったことじゃない。けど、それはマズルカに関係ないところでやってろよ」

「お前だけがいくら強かろうが、他は雑魚だろうが! どうにでも始末――」

「やればいい。でも、必ずやり返す。お前らがマズルカ信徒を全滅させようと、生き残った私がお前らを一人残らずこの地上から消してやる」


 ゆっくりと、男の顔色が変わっていった。

 最初こそは、勢いやハッタリだとでも思っていたのだろう。

 だが、ニルマは本気だった。

 ザルムもそれをわかりはじめているのだ。


「……なんでこんなことになるんだ……、ぽっと出てきたお前には関係ないことだろ……」


 彼らからすれば青天の霹靂もいいところだろう。

 これまでの流れを全く無視して、いきなり現れた女が全てをひっくり返そうとしているのだ。


「マズルカを再興する。そのためにはチンピラごときに舐められてるわけにはいかないんだよ」


 もちろん、ガゴゼファミリーのことだけではない。

 マズルカ教と信徒に仇なす者は全てニルマの敵であり、誅滅する決めている。


「……わかった。だが、現実問題として出来ないことがあるのは、あんたもわかるだろう? 俺は末端組織の幹部候補程度のしけた野郎だ。命をかけてもできないもんはできないんだ」

「ま、それはわかってるよ?」

「は?」

「でも、できるだけのことはやってよね」


 明るく言い放ち、ニルマは立ち上がった。

 言い分は十全に伝わったと判断したのだ。

 これぐらい言っておけば、少なくともこの組のやつらぐらいはマズルカを怖れて手出しはしなくなるだろう。

 他の支部やら組やらが何かしてくるなら、それはその時の話だ。


「あ、そうそう。借金は一月以内ぐらいに返すのでいい?」

「好きにしてくれ……」


 ザルムはどうでもいいと言わんばかりだった。

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