目前の絶望、無慈悲
吹き飛ばされる。
僕の悲鳴を、奴の雄叫びが掻き消す。
土煙の中から立ち上がったそれを見上げた。
「嘘だろ・・・。」
牛みたいな頭についた4つの目が、僕を探している。
不意に、右頬を風が撫でた。
「大丈夫!?」
師匠が飛んで来た。物理的に。
「師匠こそ動けるんですか?さっき怪我してたのに。」
師匠は歯噛みする。
「後もうちょっとなのに・・・。」
「もうちょっとってどういウグッ!」
いきなり師匠に投げ飛ばされた。
「師匠!?」
爆音と共に、赤い砂煙が舞う。
慌ててそっちを見る。
煙が上がったそこには、片腕の無くなった師匠が立っていた。
声も出なかった。師匠の身体の左側をゆっくりと広がっていく紅色を止める術を、僕は知らなかった。
「逃げましょう!」
無我夢中で叫んだ。
動かない師匠。
「・・・ちょっと、身体に力が入らないや。」
何かを引きずるような、湿っぽい足音が近づいて来る。
「畜生!なんで僕は魔法が使えないんだ!」
思い出すのは、あの日の事。
仄暗い八畳間に倒れ伏す、物言わぬ骸。
「・・・違う。」
そこで、やっと、思い出した。
現実はクソだ。
だから、きっと僕は妄想に逃げるのが好きだっただけなんだ。
また、いつもみたいに逃げればいい。
でも。
見捨てられなかった。
「師匠、ごめん!」
肌がさっきより白い身体を横抱きにする。
放っていって助かるなんて、考えられなかった。
足を必死に動かす。
きっとこれは最悪の選択だ。
足元に飛んで来た酸みたいなもので靴の端が溶ける。
隣の木に当たった爆弾みたいなやつの余波が身体を揺らして。
それでも走った。だって。
「僕は、スペルだ!そう言ったんだ!あの頃と同じなんて、誰よりも僕自身が許さない!」
人生なんて、エゴの塊だ。それがたまたま人の役に立てば、感謝される。人の邪魔をすれば、嫌われる。
腕の中で軽くなっていく師匠が僕に何を望んだかなんて、分からない。
それでも、こうした。だから、これが僕の正解なんだ。僕だけの、正解なんだ。
「少なくとも、テメェに追いつかれるまでは僕の方が何枚も上手だバーカ!」
今度は足元に爆弾みたいなのが飛んでくる。
吹き飛ぶ。師匠を抱きしめたまま地面を転がる。
「ははは。やっぱり現実ってのはクソだな。」
掠れた声が喉から出た。
絶望が迫る。
そして、そんな僕らにも平等に、朝日は射す。




