トラウマ
ここは・・・どこだ。
分からない。何も。
手足どころか五感全てが曖昧だ。
しかし、何かが鮮明に見えてくる。
何かが・・・。
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「おじさん!」
「俺はまだ40代だ。」
僕は、声を上げそうになった。いや、多分声が出せないだけだと思う。
「おじさんじゃん!」
「その通りだ。」
ケラケラと屈託のない表情で笑う少年。僕だ。そして、昔の自分が。
叔父と、話している。
何年も前の話だ。
傍観者としての視点から、ただ僕の意識だけがそこにはあった。
この日。このやり取りは、今でも忘れられない。
特段の記念日とかじゃない。正直正確な日付けは忘れてしまった。
でも。
(僕がこの日を忘れる事は決してない。)
「じゃあ、ちょっと出て来る。」
「おじさんいつ帰ってくる?」
「・・・すぐに分かるさ。」
そう言って、叔父が家を出ていくのを、ただ眺めていた。
心が、納得していた。これは、現実ではない。
今僕が走っても叫んでも、彼が帰ってくる事はない。
僕は、まだ10歳になったばかりのその少年の隣に居る事にした。小さい僕は何をしていたっけ?
(真実の離婚)
とんでもないタイトルの小説を書いていた。
(こんな事してたっけ、僕。)
一心不乱に原稿用紙を埋めていく少年。
失ったはずの情熱が、その瞳にはあった。だが、僕は知っている。
その光が、後数時間で消える事を。
それは、あっという間だった。
すっかり外は暗くなった。
固定電話が鳴る。
少年は、受話器を取る。
「もしもし、綾名です。」
「こちら県立総合病院です。綾名創一さんのお宅でしょうか。」
「そうです。おじさんがどうかしたんですか?」
「・・・亡くなりました。」




