第4話 閉じられた道
――どうして、俺はまた……。
気がつけば、エレベーターの前に立っていた。
B0のランプは静かに光を放ち、押すのを待っているかのようだ。
指先は震えているのに、視線はそこから離れない。
気づけば、もうボタンは押されていた。
扉が開く。
あの冷たい空気が、足元から這い上がってくる。
乗り込むと同時に、背後の扉が無音で閉じた。
下降が始まる。階数表示は消えている。
やがて、鈍い衝撃と共にエレベーターは止まった。
扉の向こうには――あの地下零階。
昨日と同じ裸電球の光。
ただ、一つ違うのは……奥にあったはずの廊下の突き当たりが見えない。
闇が、延々と続いている。
足を踏み出すと、背後で扉が閉まった。
反射的に振り返るが、そこにはもうエレベーターの姿はない。
ただのコンクリート壁があるだけ。
「……は?」
軽く叩いても、硬い感触と鈍い音が返ってくるだけだ。
喉が渇く。
胸の奥で、何かがじわじわと膨らむ。
――ここから帰れない。
裸電球の下を進むたび、背後の灯りが一つずつ消えていく。
歩くのをやめると、闇がすぐそこまで迫ってくる。
それはまるで、闇が生き物で、こちらを呑み込もうとしているようだった。
耳元で、昨夜と同じ囁きがした。
今度ははっきり聞こえる。
「……ここは、上には行けない」
振り向く。
誰もいない。
ただ、黒い水溜まりが床一面に広がり、その中心に――あの人影が立っていた。
今度は、はっきりと顔が見える。
それは……自分の顔だった。
(つづく)