第3話 目覚め
――まぶしい。
瞼を開けた瞬間、白い天井が視界いっぱいに広がった。
見慣れない天井だが、ここは……自分の部屋、のはずだった。
ベッドの端には昨夜脱ぎ捨てたはずの服が、きちんと畳まれて置かれている。
「あれ……?」
頭が重い。
昨夜の記憶をたどろうとすると、喉の奥に冷たい何かが引っかかる感覚だけが残る。
エレベーター……地下零階……暗闇の人影……。
そして――耳元で、何かを囁かれた。
その言葉が何だったのか、思い出せない。
思い出そうとすると、耳鳴りが酷くなり、視界が揺れる。
気づけば、部屋の空気が妙に湿っていた。
窓を開けても、外は薄曇り。
風はほとんどないのに、カーテンの裾だけが、ゆっくりと揺れている。
――チン。
乾いた金属音が響く。
玄関の方からだ。
エレベーターの到着音と同じ。
だが、この階にエレベーターは無い。
あるのは、廊下を曲がった先の共有部分だけだ。
耳を澄ますと、廊下の奥からかすかな水音が聞こえる。
ぽちゃん、ぽちゃん、と一定の間隔で。
無意識に、玄関のドアノブに手をかける。
冷たい。まるで氷を握っているようだ。
鍵を回すと、かすかな油の匂いと一緒に、冷気が入り込んできた。
廊下の床には、水滴が点々と並び、奥へ奥へと続いている。
そして、その先に――エレベーターの扉が開いていた。
B0のランプが、静かに光っていた。
(つづく)