78 神代の法④
「教祖様、良くぞおいでくださいました」
ルシウスの社長岩崎は深々と頭をさげて教祖に挨拶をして、端末をいじる。
「すぐにコーヒーと菓子を持って来させます」
俺たちはソファーに座ると、すぐにコーヒーが運ばれてきた。
「教祖様、本日はどんなご用向きでらっしゃいましたか」
「他でもない、君の会社のスキャンダルのことだよ」
その話を出されると、岩崎は頭をたれた。
「教祖様、私はどうすれば良いのでしょうか?人としてあってはならないことをしていました、後悔の念にたえません」
「君のそれ、その感覚こそが正しい人間への一歩だと私は思っている。
その後は岩崎の懊悩や後悔を教祖が聞き、それを肯定したゆったりとした空間が流れた。
(岩崎の思考は完全に善人のそれになっている、それどころか教祖に相談して苦悩を取り払うことを望んでいる、教祖の洗脳はすさまじいな、ヤツが善人の側で良かったよ)
「では私はどうすれば良いのでしょうか?」
「そのわだかまりと善の心に従い、もう一度記者会見を行い、スキャンダルが本当のことであったと世間に公開するのです」
(俺は完全に蚊帳の外だな・・・)
「それで私の苦しみから解放されるのでしょうか?」
「されます、今あなたの心の中にある感覚に従うのです」
岩崎は教祖の手を握り涙ぐんでいる。
「二日後には再び記者会見を行います、以前よりも多くの報道陣が集まるように努力します」
「うむ、私もテレビを観ながら見守らせてもらうよ」
その後もこまごました相談事に教祖は受け答えしている。
(まるでカウンセラーだな、いや、宗教家とカウンセラーはそう大きな違いが無いのかもしれないな)
俺は二人を見ながらそんなことを考えていた。
ルシウスのビルからの帰りはセキュリティーが同伴して、堂々と自動ドアを出て街並みに流れていった。
SUVを運転しながら俺は教祖に話しかける。
「いや、すごいお手並みだったよ、アイツ泣いてたじゃないか」
「彼の持つ善性を引き出して、その後誘導するように会話しただけだよ、占いのそれと大して変わらないよ」
「本当に二日後には記者会見をするのかい?」
「必ずする、彼の心の中には善悪の軋みが生まれているはずだ、それはとても苦しいものなのだ、それから解放されるには、大衆に真実を話す必要があるのだよ」
「なぁ、教祖、俺と組まないか、教祖の能力と俺は愛称が良い、アンタの能力は大勢に効果を発揮する、俺の能力に幅広さが生まれると思うんだ」
「はっは、私はとうに君と組んでいるつもりだよ」
教祖はにこやかに笑った。
 




