73 抵抗⑥
SNS上ではルシウスの記者会見で話題が沸騰していた。
「社長の言うことは正しい、だまされていた」
「よく考えればわかることだろう、俺は様子見してた」
「企業テロと愉快犯を同時に行った卑劣な犯行、犯人を逮捕して欲しい」
などと、今までとは180度変わってルシウスを持ち上げる流れになり、スキャンダル動画は知らぬ間に削除されて、ルシウスを非難していたアカウントはロックをかけている。
それと同時にルシウスの記者会見動画が、言葉少なく真実を語るエリートとして賞賛されて、どんどん拡散された。
「ルシウスが優位と見るやどの局も会見画像を流しっぱなしだな」
おれがそうつぶやくと、みまが言葉を返してきた。
「ねぇ、頭が良くて悪い奴らがのさばる世の中は変えられないのかな?」
俺は何も言えなかった、自分は家族を殺した本元を潰すという目的を持っていたが、さすがに自信が揺らぎかけていた。
「竹本さんの所に行ってくる」
「この騒動を計画した人のこと?」
「そうだよ、みまも行くかい?」
彼女は黙って首を振った。
SUVで街道を走りどんどん進んで行くと、農村地帯に入って行き、その真ん中あたりに竹本の家はある。
自働車で乗り付けてドアを閉めて玄関まで歩くと、インターホンを鳴らした。
「はーい・・・まってね」
そう言って竹本が玄関ドアを開けた。
「暁君・・・まぁ、その、とにかく入って」
竹本がそう言うので、俺は黙って彼のあとに続いた。
ダイニングテーブルに座らされると、しばらくして竹本が紅茶を持って現れて着席した。
「竹本さん・・・何と言うか、その」
「ああ、わかっているよ、想定外だったばかりかルシウスの評判をあげるような事態になってしまった、本当に悔しいよ力を持った強いものには我々はかなわないんだね、やはり」
みまも同じようなことを言っていたなと思い出しながら、俺の中に強いわだかまりのようなものが湧き出していた。
「そんなことは無い、竹本さん、いつまでもこのままなわけがない!丁寧に丁寧に一生をかけて潰していくんだ!」
「しかし・・・今回の小さな抵抗すら潰えてしまった・・・」
俺は着ていたパーカーを脱ぎ捨てて上半身を露出させた。
「竹本さん!このタトゥーを見てくれ」
「・・・妙なタトゥーだね、不死とはおまじないのような物なのかい?」
「台所、借ります」
俺はそう言って台所から包丁を持ち出してきた。
「見ていてください」
包丁を勢いよく振りかぶり自分の心臓に思い切り突き刺す。
血しぶきが舞い散り竹本はぽかんとして表情でそれを見ていた




