67 データ⑦
男に家の中へ案内されてついてゆくと、大小さまざまな部屋があり大きな農家だと言うことがうかがえた。
1つの部屋に導かれると、本やファイルが詰まった本棚が無数にあり、その隅にデスクトップパソコンが設えてあった。
「これの暗号は解いたままかね?」
「いんや、きれいさっぱり狂いなく元に戻してあるとさ」
「そうか、自己紹介がまだだったな、ワシは象牙の塔の構成員をやっている竹本だ」
「俺は田中、象牙の塔ってのはなんだい?」
「ありていに言えば体制などに反抗する地下組織の名前だよ」
「そんなこと俺に教えて良いのか?」
「アンタは信用できる、暗号を解いてなおそれをどこかへ持ち込まず、ワシの所へ来た、このハードディスクの内容が気になって確かめに来たと言うところだろう」
「あんなものを見て見過ごすなんて出来るわけがない、どんな奴らがこれを使って何をしようとするのか確かめたかった」
そうこうしているうちにパソコンが立ち上がり、パスを入れて待機画面に移行した。
竹本はケーブルでハードディスクをつなぎ、中身のデータを「E」と書かれたアイコンに移動させる。
途端に黒背景に文字の羅列が流れ出して、何か作業をしている様子だった。
「そのEってのが解凍ソフトなのかい?」
俺がそう聞くと竹本は答えた。
「そうだ、エニグマのEだ」
「しゃれてるね二次大戦中のドイツの暗号機械だ」
「ふふ、そうだろ」
「さてここから30分はかかる、茶でも飲むか」
「いいね」
俺たちはダイニングに移動した。
竹本は茶を入れて菓子を出してきた。
「さて何から話すかな、うん、ワシらは最初この辺りの農家で集まって世の中から離れ細々と生きる道を模索しておった、大人しくしていれば、世間から離れておれば争いごとに巻き込まれんだろうと考えたのだな」
「それで象牙の塔か、だが今とは正反対だな」
「おお、意味は分かっておったか、だがな、そううまくはいかなかったんだ」




