56 教祖の能力⑤
どこにでもあるようなヤクザの事務所を壊滅させて「神代の法」に向かい、教祖の部屋まで登って行き、その部屋に入った。
「壊滅させてきた、3日後までに出て行かなければ命は無いと脅しておいたよ」
教祖の部屋には教祖と4人のヤクザ者がソファーに座っていた。
「お、俺たちを連れ戻すとかそう言う話は出てこなかったのか」
「出てこない、そんなことにかまけている状況ではないほどに痛めつけた」
「そうか・・・アンタいったい何者なんだ?」
「掃除屋、世にはびこる悪逆非道を~力を持って~成敗する~てな」
冗談を言ったつもりだったが誰一人笑わないどころか、顔が引きつっていた。
「今はね、彼らの就職先について話し合っていたんだよ、まぁまだ想定の段階だがね」
「ふーん・・・そっちも動きが早いな」
「俺は町工場に住み込みできないかって話が」
「俺たち二人は人出が無くて廃業を検討している農家に入れないかって、住み込みも部屋がたくさんあるから良いんじゃないかって教祖様が」
「いいなー俺は住み込みじゃないけど経理のあてがありそうなんだよ」
「彼はね、計算にずば抜けた適性があってね、組の計算関係は全部やっていたそうだ」
ヤクザの4人組は高校生が部活でふざけ合っているような光景に見えた、いつまでもこう言った笑顔が続くと良いなと俺は思った。
4人組が部屋を去ると、俺は教祖に話しかけた。
「なぁ、アンタはさ、本当に洗脳の能力が消えてしまったのか?」
「ほぼ間違いないと思う、感覚的にわかるよ」
「・・・だがあんな荒くれ者をなだめて、前向きな様子にまで持ち込んでいる、これこそが本当の能力なんじゃないのか」
「私はやれるべきことをやっただけだが、能力を使えない状態でも人を変化させることが出来るのではないかと思っている」
「あっと、話は変わるが、アンタがいると言うことは他にも能力者がいる可能性があるってことになるのか?」
「私もその点は気になっていた、私は別の世界からやってきていてね、洗脳の能力を与えられてこの世界を正しく導けと、君くらいの年齢の青年に託されたのだよ」
「あっ、そう言う感じなんだ」
俺は自分がここにいる理由を教祖に話して聞かせた。
「ふーむ・・・状況は違うが似たような流れではあるねえ」
「能力者が良いことに力を使っていれば良いが、悪行に用いていた場合面倒なことになるな」
俺たち二人はテーブルを見つめて黙り込んでいた。
恐らく教祖もこう考えていただろう。
「能力を悪行に利用する者は必ずいるはずだ」と。




