5 カジノ鳳凰
数日が過ぎ俺は荷物やこまごました物をバックパックに詰めて、歩いてそう遠くない無人駅に向かった。
駅は依然とは様相を呈しており、ごみだらけになっている。
脇の方には「鉄警」と書かれたロボットが控えている、おそらく破壊活動や無賃乗車をする者を見張る役割なのだろう。
俺はそれを横目にカードを出して読み取り機にかざした。
もうすぐ来るはずの列車を待って立っているが、一向に列車が来る気配が無い。
そのとき背後から呼びかけられた。
「兄ちゃんよ、電車は時刻表通りになんて来やしねぇぜ、まぁ座って待ってな」
うつむいた壮年の男性が椅子に座っていた。
俺は男性から少し離れた位置に着席する、やることもないので空を見上げて駅から見える工場などに施されたタギングをぼぉっと眺めている。
しばらくすると例の男性が立ち上がり、遠くに列車が入ってくるのが目に入った。
俺も立ち上がるとタギングこそないものの、薄汚れた列車がホームに入ってきた、行先は「豊橋」となっている。
車両に入るとすえた匂いが鼻につき、ゴミクズがそこらにあるのが目に入った。
椅子に座ると、これは案外と座り心地が良く、気分が良くなる。
対面にあるガラスを見ると「カード盗難多発、居眠り注意!」と書かれていた
(そうだよなぁ、このカードは身分証明書から金銭の支払いまで兼ねているから盗まれたら終わりだもんな・・・)
俺はそんなことを考えながら景色を見つめていた、途中で国道が見えてきたが以前と変わらず自動車が走っている、中でもトラックが多く目につく。
こんな世界でも物流が途絶えると、途端に安定が崩れるもんな
どうやら商店や物流システムはこの退廃を極めた世界でもきちんと機能しているらしい。
各駅停車で40分ほどすると豊橋駅に到着した。
そのまま30分ほど待ち時間があり「浜松」行きの列車に乗ることになった。
浜松は俺が生まれた町で、実家もある。
だが女神は実家は放火されて両親ごと無くなったと言っていた。
だがそんなことは信じられなくて、実家のあった場所を見ておきたくて浜松に行くのだ。
豊橋から浜松へは程なくして到着し、駅前に降り立つと大きく様変わりしている。
(タギングがそこら中にあるな)
町はゴミであふれており、派手な恰好な女がホテルの前に並んでおり、手を振っている。
その周囲では合法とは思えない妙な形の電子タバコを吸って寝転がったり、何か叫んだりしている。
(治安が悪すぎる・・・面倒ごとに巻き込まれないうちに実家に急ごう)
俺は実家のある場所にたどり着いたがそこに実家は無く「カジノ鳳凰」と書かれた大きな建物があるだけであった。