37 狙撃
俺は廃墟同然のビル群の間をバックパックに釣り竿バッグを担いで歩いていた。
(次を右でそれから左・・・渡された紙には監視カメラの無い区画を記してあるが、この地区は廃墟同然だからカメラが少なくて運が良かった)
目的の廃墟ビルの非常階段から屋上まで上がり中腰で狙撃位置まで移動した。
バックパックをおろし委託用に配置して、狙撃銃を取りだしてバックパックの上に乗せる。
腹ばいになり、スコープで前方をのぞくと人だかりができているのが見える。
スマホを取りだしてみまに電話する。
「狙撃位置についた」
「了解、こちらもいつでも車を出せるよ」
「ノボリのはためきから見るに、向かい風、海風だ」
「少し面倒だね、スコープの調整を忘れないで」
「分かってる」
おおよそ三十分経過しただろうか、みまとの通話はつなげたままだ。
しばらくするとスーツを着た初老の男がノボリのそばに現れたので、俺はバックパックに貼り付けてある写真と男を見比べる。
「標的を確認、ここからは任意のタイミングで射撃に移る」
「了解」
みまの声がすこし緊張したモノに聞こえる。
「海風、弾道は下にそれるから3あげる、ノボリのはためきがたまに左に流れるから右に1」
初老の男は最初こそ様々な方向に礼をしたり移動したりしていたが、マイクを手にして何やらしゃべりだしたのがスコープで確認できた。
「まだ・・・まだ・・・まだ・・・今」
狙撃銃のトリガーを引くとスコープから見える景色がぶれた後で、標的の頭部右上に着弾し、脳が飛び散ったのが確認できた。
コッキングして排莢し、空薬莢を拾う。
「ヘッドショット、標的の死亡を確認、合流する」
「了解」
その場を片付けて荷物を背負い、早足で監視カメラの隙間を縫って通りに出ると、SUVの運転席にみまが座っているのが見えたので後部ドアを開けて荷物を投げ入れ、素早くシートに座り込んでドアを閉めると同時にみまは自動車を走らせた。
「スピードを出し過ぎずにごく普通の速度で走り抜けるんだ」
「う、うん」
SUVは北上して国道に合流すると、西に進路を変え、半円を描くように東に進み、海岸線まで走り抜けた。
「ナンバーはテンプラだから、万が一車両が割れても、警察は面倒くさいのでその先まで追ってこないと新興産業の佐々木は言っていたから大丈夫だろう」
海岸線を東に向かいコテージまで到着した。




