36 狙撃の練習
狙撃銃と「狙撃」のスキルを手に入れた俺は、以前にクスリの売人がねぐらにしていた倉庫から的用に適当な鉄板を集めてダム湖のある山に向かった。
山道は荒れ放題で、落石をどかして進み時間をかけてようやくダム湖の上流に広がる広大な河原に到着した。
みまは中古で購入した測距装置でおおよそ800mを割り出し、俺はその地点に複数の鉄板を置き、スプレーで大きな点を吹付ける。
狙撃位置に戻り、バックパックに銃を委託して鉄板をスコープで覗いた。
想像通り最適な調整を自然に行い、コッキングレバーを操作する。
トリガーを引き射撃音が鳴り響くと、すぐに金属音がして鉄板に着弾したのが分かり排莢動作を行う。
「・・・予測地点から下に2ズレている・・・スキルは完全に機能しているはずだ」
みまが木にもたれてガムを噛みながら声をかけてくる。
「おっちゃんが言うように風の影響何じゃないのかな、山から吹き下ろす風、向かい風だよ」
しばらくスコープをのぞき草木の揺れを観察していた俺だったが。
確かに若干強めに風が吹いているのが分かった。
「本当だ、向かい風が来ているな」
「でしょ?」
「メモリを上に2・・・いや、3だな」
またコッキングレバーを押し込んで、呼吸を止めて射撃する。
「・・・高さは合っているが左に少しずれている」
「私はこれでも十分だと思うけどね、おっちゃんが前に行っていたけどマンターゲットに当たればまず合格だって」
「そんなもんなのか・・・だが風読みのスキルがまだ馴染んでいない気がするから、100発くらいは撃ち込んでおきたい」
「おっけ、わたしゲームしている」
みまはそう言うとスマホを取りだしてゲームをし始めた。
「・・・うん、精度が上がってきたが感覚的にこれ以上は詰められない雰囲気がある、スキルの感覚だろうな、これで良しとして上がるか」
「うん、帰ろう」
狙撃銃を釣り竿用バッグにしまい込み、SUVまで歩き、乗り込んでエンジンをかけて山を降る。
「どう?狙撃は成功しそう?」
「多分大丈夫だろう、撃ち込んだせいか肌感覚で狙撃を阻害する要素やスコープの調整がわかる」
コテージに戻ると狙撃銃のクリーニングをはじめた。
はじめての作業なのにすんなりと作業が進んでいく。
みまはキッチンで食事の支度をしている。
夕暮れ時でゴミだらけの海岸もそれなりに美しい景色として広がっている。
「よし」
俺はそうつぶやくと釣り竿用のバッグに狙撃銃をしまい込み、部屋の片隅に置いた。




