34 地上げ
新興産業の2階で俺たちは佐々木の話を聞いていた。
「そう言うわけで今回は地上げをやってもらう、なに簡単な仕事だ、ただ相手が粘るなら日数はかかる、かかっても報酬は一緒だがな」
みまが俺の方に注目する気配を感じた。
「どした、なんか不満があるのか?」
佐々木はいつもの様に即答しないのをいぶかしむ。
「いや、いつもより簡単な仕事だなと思って」
「そうか、じゃあたのむ」
外へ出てSUVに乗り込んでからしばらく天井を見ていた。
「俺の家族は地上げ屋の放火で死んだ、心底憎んでいる」
「しっているよ、だから素直に受けたのを意外に思っているよ」
俺は黙ってエンジンをかけて、網膜に表示される矢印を頼りに対象の家に向かって走り出した、みまはそれ以上話しかけてこなかった。
行先は堀田板金となっている。
北の田園地帯の外れにナビに導かれると、小さな町工場と言う空気の堀田板金が見えてくる。
俺は自動車を板金屋の前に停めると、シャッター脇にある小さなドアから中に入った、外からすでに聞こえていたが、中は工作機械の音であふれていて耳がじりじりとする。
近くでプレス機を回していた工員に話しかけて社長を呼び出してもらう。
しばらくすると小柄な壮年の男性がこまごまとした歩みでやってきたが、俺たちの姿を見たとたん怪訝な顔になった。
「何の用だ」
「分かっているだろうが地上げの話しだ」
「ふん、帰れよ、オヤジの代から引き継いだこの土地を手放すもんか!」
俺は社長の目つきや口調が父親のように見えて来た、見た目も背格好もまるで違うのにだ。
(父は・・・こんな風に地上げを断っていたのだろうか・・・鬼のような形相で、早く出て行けば死ななかったのにな)
「俺の、俺の実家は地上げに合ってな、行方不明になった俺が帰る場所を守るとか考えていたんだろうと今思った、だが、その結果家は放火され両親は死んだ」
社長はぽかんとした顔で俺を見つめている。
「大事なのは場所じゃない、誰かだ、家族や友人だ、さっさと出て行かないと俺の家のようになるぞ、ある日ある晩あんたごと燃えちまうんだ」
懐から拳銃を取りだした俺は社長の足を撃ちぬいた。
工作機械の音で発射音はまるで響かない。
社長は叫び声をあげ、うずくまった。
「いまのはほんのちょっと加減しただけだ」
その後、かがみ込んで社長の耳元でささやく。
「早く新興産業に権利書やら何やらもってくるといい、次は加減できない」
そう言うと拳銃を懐にしまい、工場を出てSUVのエンジンをかけ、ジャリジャリとハンドルを回した。
「暁、あのおじさんのこと助けたんでしょ?頑固そうだったからその内何かで殺される、それをあの程度で済ました」
「問題はあの社長が本当の危機感を知って新興産業に行くかどうかだ、次にこの仕事が回ってきても俺は降りる」
「父さんも母さんも、家なんかに、おれになんかにしがみついていないで土地を明け渡せばよかったんだ」
俺はもうもどらない時間と場所を思い浮かべていた。




