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2話 ホンモノの娘

 朝になると、私は変わってしまった生活になれるように、大人にまじって働いていた。そうしないと余計みんなに嫌われてしまうと思ったから。


 大人の人たちの顔色をうかがいながら働く。数ヶ月、そういう生活を続けていると、いくつか気付いたことがある。怒ったり酷いことを言う人はいつも同じ人だということ、そしてもう一つは、みんながみんな酷いことを言ったり意地悪をするわけではないことに気づいた。


 怒らない人たちは私に良くすることもないけど悪くすることもない。だから分からないことも聞けば教えてくれるし、その人たちと一緒の仕事をすれば、怒られにくくなるのだ。


 だけど、その人たちは少なくて、どうしてもひどい大人たちに悪口を言われたり、時には殴られたりもした。


 仕事をするようになって、お父様に会う前の生活が恋しくなる時があった。誰にも悪口を言われることのない生活。


 まわりの人たちは悪いことをしてはいけないとしか言わなかったし、良い子にしていればお父様にきっと会えると言われていた。でも、あの日まで会うことはなかったけれど。


 その日、家族のことを思い返していると、私はとつぜん家族が恋しくなった。もう一度お父様に会えば、何かが変わるかもしれないと期待してしまったのかも。


 私はお仕事を抜け出すと、大人たちに隠れてお父様がいる母屋に向かった。

離れから使用人の人たちの住まいから、さらに進んでいく。


 運がいいことに途中誰にも見つかることはなかった。そのまま早足で誰にも見つからないように進んだ。母屋が近づいてくる。近づくにつれ、以前にも聞いた声が聞こえる。でも誰かと話しているようで、聞いたことのない他の人の声も届いた。


 私はばれないようにこっそりのぞきこむ。そうしてのぞきこんで私は思わず声が出せなくなった。お父様のひざに私と同じぐらい、だけど黒髪の女の子が座っている。そばには大人の女の人が。もしかしたら、あの子のお母様だろうか。


 三人で笑っている。私に見せた顔と同じ人だって思えないほど、楽しそうにお話している。目の前の出来事が、私が邪魔者だったと教えているように思えた。


 幸せそうな光景を見て、私は思わず後ろに二歩、三歩とさがる。


 私は何故だか、ぐったりしたような気分になり、これ以上三人を見ることができなくなって、その場から逃げ帰っていた。


 あの場を離れたのに悲しくて涙があふれてしまう。止めようとしても止められず、膝や手の甲にポタポタと涙が落ち続ける。


「仕事に、戻らないと……」


 何度も何度も目を腕でぬぐっていると気持ちが治まってきた。


「おい、おめえどこをほっつき歩いてたんだっ!?」


 戻った矢先、大人の人から怒鳴られる。

何を言ってもだめなのが分かっている相手なので、黙っていると頬を叩かれた。


 痛い、でも不思議なことに、今度は涙がでてこない。


「ふざけやがって、仕事さぼって何してたか聞いてんだよ!」


 なおも黙っている私に大人の男がますます怒りをみせる。そうして頬を叩かれながら、私は思ったのだ。


 ああ、大人に怒鳴られても、負けないようになりたい、心が折れない強い自分になりたい。


そうは願ってはみても、私と周りの大人たちでは大きな差がある。なぜなら私は子供で、相手は大人。体の大きさも違って、力だって違う。


 目の前の強い大人が拳を握った。そのまま私の襟首をつかんで引き寄せる。


 さすがにこれは死んでしまうかもと目をつむった。だけどいつまで待っても痛みがやってこない。代わりに聞こえたのが大人のうめく声。


 おそるおそる目を開けると、使用人の人の拳が私にぶつかる前に止まっている。もっと正確に言えば、目の前に薄い透明な壁みたいなものができていて、そこで強くぶつけていた。


 大人がぶつけて痛がっている。でも、もっと怒り始めた。

 私は目の前の光景に、訳の分からないまま思った。


 もう、うんざり。私に関わるな。行け!


 日頃、自分が言わないような強い言葉、気持ちが体から出てくる。すると、私の気持ちに反応するように壁が動いた。怒る大人を塀まで吹き飛ばし叩きつける。


 相手は起き上がらない、いや痛くて起き上がれないのかも。けど、私も立っていられず座り込んでしまう。


 物音が聞こえたのか使用人たちが集まって、何か叫んでいる。

 

 私が聞こえたのはそれまで、体がいうことを聞かなくなり、地面の冷たい感触が伝わってくる。次第に目の前が真っ暗になっていった。 

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