閑話2 幼馴染で家族の四條畷莉念①
9/24投稿3つ目です。
私が四條畷莉念として物心ついた頃には、彼が傍にいた。ただ一人の幼馴染。私を守り私を優先、……しているはずの幼馴染、折川尚順。
私をお嬢様と祭り上げる輩や、私の危険から守る私のヒーロー。好きになるのは当たり前だった。
女子の方が早く多感になると言われると思うが、私が恋とかそういう気持ちを自覚したのは尚順よりもずっと早かったと思う。
小学生の頃は物語のヒロインみたいに、尚順にいつだって、好き好き言っていた。
彼が好きだと言ったので髪も伸ばして傷まないように気をつけた。好きな服と色を聞いては、それを身に着けたり、アクセサリーが大量に増えるので、いつだって私に似合う高価な物を見に付けて彼の隣にいた。
「莉念は今日も綺麗だね、可愛いよ」
「ありがとう、大好き!」
そんなのほほんとした私が理解不能な事態に出くわしたのは、それまでずっと同じクラスだった彼と別のクラスになってからだった。
気づいたら休み時間に彼がクラスに来なくなったなという程度で、一緒に帰って折川家で夕ご飯を一緒に食べていた。土日は都合が合えば遊んでいた。
だけど、ふと気づけば、昼休みにも彼は来なくなった。あれ? と思ったが、彼がクラスメイトと仲良くしているのなら、邪魔をして嫌な幼馴染だと思われたくなくって、気にしないふりをした。
放課後、一緒に帰ろうと思って声をかけたら、
「今日は遊ぶ約束があるんだ、先に帰ってもらって良い?」
「そうなの? わかった」
優しい笑顔でそんな事を言われたので、友達と遊ぶんだなと思って、やっぱり嫌な幼馴染だと思われたくないから分かったと理解を示した。
彼はちゃんと門限通り折川の家に返ってきて、ご飯を一緒に食べた。だけど、そういえば何をして遊んだとか特に話題に上がらなかった。
休み時間に顔を出さないのは理解ができたけれど、放課後に関して週の大半一緒に帰らなくなり、それが一ヶ月も続くようになれば私も不満を覚えた。放課後、隣の席の子とニコニコ笑顔で喋っている尚順に帰ろうって言った。
「尚順! いっつもなんで一緒に帰らないの? 今日は帰れる?」
「莉念」
彼が答える前に隣で喋っていた女子が自慢気に私へ割り込んだ。
「ひーくんは私と一緒に遊ぶんだから、りねんちゃんは先に帰ったら?」
「え?」
「りねんちゃんと一緒に帰ってなかった時は、いつも私と遊んでたの。今日は私の約束の方がりねんちゃんより大事なの。ね、ひーくん!」
「うん、莉念、ごめんね。先に約束してるから」
「え?」
その女子は尚順の手を取って、ぐいぐい引っ張っても、嫌な顔せず彼はそいつについていった。それはまるで仲の良い者同士で、私がするよりぐいぐい体を密着させて、良く四條畷のパーティーで見る男女の関係を想起させる行動だった。
私は、尚順がそれを拒まないのを見て、胸が痛くて泣きながら家に帰った。夕ご飯を食べる元気もなくて、いつもご飯を一緒にしていた折川の家に行くことができなかった。
失恋したんだと私は泣いて泣いて、そして、ご飯を食べに来なかった私を心配して、尚順が来た。
泣いた。
理解できなかった。
なんでそんな事できるの。
私が泣いて言葉にできなくて、
彼は私を慰めるようにただ優しく抱きしめて頭を撫でた。
私は泣いて泣いて。
尚順にすがって泣きながら、眠った。私の両親は折川の両親に話したようで、私は自分のベッドの中で彼にすがりつくように捕まりながら一緒に眠った。
朝、彼は学校があるからと言って、小学校へ行った。私はそれでもまた泣いた。
私を慰めて。私を大事にして! そんな気持ちが湧いて泣いて。
気づいたら夕方になって、彼が私を迎えに来た。
理解できない。私になんで会いに来るのか。何を言いに来るのか。
尚順は日頃過ごしているように穏やかな態度で私に言った。
「うちに来てご飯食べよう?」
私はボロボロ泣きながら、なんで、あいつがいるじゃないと言ったら、彼はまた私の頭を優しく撫でながら言った。
「莉念は、幼馴染で、ずっと家族みたいに過ごしてきたんだから、これまでと同じで一緒に夕食を取るのは当然だよ?」
「私、良いの? 幼馴染、ずっと家に上がっていいの?」
「うん、莉念はずっと家族みたいに一緒だから当然だよ」
「だったら!! 私のわがままきいてくれるの!? 私のお願いきいてくれるの!?」
「何?」
「あいつと放課後遊ばないで、私が帰るって言ったら一緒に帰って」
「莉念はわがままだなぁ。放課後、一緒に帰れないかどうか莉念に納得してもらうようにするのでも良い?」
「私に聞くなら良い。私が納得するなら良い。あいつと遊ばないでって言ったら守ってくれるの?」
「そうだなー。家族の幼馴染のお願いだから、守るよ」
私は理解ができなくて、でも彼がお願いを守ると言ったので、その日の夕方折川家で夕食を共にした。
折川のお母様は莉念ちゃんを泣かせるんじゃないと、尚順の頭をペシンと叩いた。
次の日の放課後、私がおそるおそる放課後に彼のクラスに行った。尚順はあの時みたいに隣の席の女子と話していて、ちょうど今日も遊ぼうって昨日約束したよねと誘われている所だった。
この前のことがあったせいで、私の足は怯えで前に進む勇気が足りず、扉の前で声を発してそこへ割り込んだ。
「尚順、帰ろう」
「あ、りねんちゃん、また来たんだ? でも、私が前から約束してるから!」
そんな事を言って尚順の手を握った女子の手を、尚順が紳士的に剥がした。
「莉念がそう言うなら、帰ろうか。ごめんね」
「え?」
呆然とした女子が尚順を見て、私を見た。そうして、すがるように彼の手をもう一度掴むが、尚順はまた丁寧に彼女の手を剥がして、
「じゃあ、また明日」
「なんで! 前から約束してたのに!」
「莉念が帰ろうって言ったら帰るって約束したから」
なんの気もなし彼がそう答えて、女子に何の未練も無く、私の隣に寄ってきた。
「莉念、じゃあ、帰ろうか」
「あ、うん、帰ろう、尚順」
スタスタと歩く尚順に取り残された呆然として信じられないという表情をした女子を見て、私は尚順に聞いた。
「え、っと、良い、の?」
「家族の、幼馴染の莉念のお願いを聞くって約束したから、当然だよ」
ニコニコと尚順がそう言って、私の手をいつも一緒に帰っていた頃のように握った。彼がゆっくりと歩くので私も動き出した。
彼は、先程の女子の事なんてもう気にしないように、今日の授業のことや、友人の事を話した。
「あの子って尚順に好きとか言ってたんじゃないの? だから、それに付き合ってたんじゃないの? だったら、私と一緒に帰っていいの、かな」
「うん、仲良くしたほうが良いんだなって思ってるけど、家族の、莉念が帰ろうって言ったんだから、家に帰るよ」
笑顔で言って、それからその通りに尚順は過ごした。しばらくはあの女子が彼にまとわりついたけれど、放課後私が帰ろう、休み時間は私に顔を見せに来てといえば、尚順は「莉念はわがままだなぁ」と言って、そのとおりに行動した。
その間、私の元へ向かう彼の背を見る女子が見せた表情に、私は震えた。
尚順が私を優先する。
私がいえば、尚順は相手と先に約束があっても、男子であれ女子であれ、私を優先する。
男子は仕方ないなという態度だが、女子が見せる態度は違った。
愕然として、ありえないと尚順を見る。
尚順に優しくされた女子が彼に好き好き言って、彼を連れ回そうとするが、私が言えば尚順は私を優先した。
私はただただ嬉しくてどんどんと尚順にのめり込んでいた。
私は理解した。尚順は恋人を家族よりも優先しないのだ。
好意を見せた相手の願いよりも、家族の願いを優先する。
家族であり続けなければ、折川尚順は四條畷莉念を優先しなくなってしまう。
四條畷莉念という幼馴染。
続きの次話を19時更新予定です。
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