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幼馴染にフラれたから次からは勘違いせずに女の子と良い距離感で過ごしたいと思います  作者: 紅島涼秋
藤の花が微笑む

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第二十三話 撮った写真を共有に!?

 放課後、俺は鳳蝶(あげは)に声をかける。茶道部に向かうために片付けていた鳳蝶(あげは)はその手を止めて俺を見上げた。


「どうかされましたか?」

「茶道部の部室に行くまでで一緒に行きながら話したいんだけど」

「ええ、構いませんわ」


 彼女が気軽にそう応じると何故か教室がざわついた。鳳蝶(あげは)が視線を感じたのか残っていたクラスメイトたちを不思議そうに見返せば、教室中のクラスメイトたちは視線を外して慌てて教室を飛び出していくのもいた。

 放出(はなてん)唯彩(ゆいさ)さんも早々に教室を出ていったために、クラスメイト達の反応の理由を聞く機会はありそうにない。


「どうかしたのでしょうか?」

「さあ? とりあえず行こうか」

「はい!」


 俺は写真部に行くためにカメラとバッグを、鳳蝶(あげは)は茶道部の活動が終わり次第帰るために、茶道部はみな鞄をもって集まるらしい。

 廊下を鳳蝶(あげは)と並んで歩けば、鳳蝶(あげは)に相談したくても人目を引いてしまう。鳳蝶(あげは)はそんな視線になれていて、俺に穏やかな笑みを浮かべていた。いくつか棘のない雑談をしてから、人が離れたところでようやく俺は本題に移る。


「今日は迷惑をかけてごめん」

「? 特に気にすることはなかったのですわ」

鳳蝶(あげは)がそうでも、俺は反省している。それで相談なんだが、俺も鳳蝶(あげは)を習って手帳に書いていこうかなと」

「それは良いですわね。高校生には早いかもしれませんが、私は昔から父について行く事が多かったので、スケジュール帳を一度もらってから毎年書いていますの」

「それはとても良いことだと思う。俺はスマホのメモアプリに書いてるつもりだったけど」

「そうですわね、でも、私はスマホのカレンダーアプリに書き込むのでも良いと思いますわよ?」

「いや、スマホはちょっとだめかな。結局今日みたいに見落としてしまいそうだ」

「けれど、最初は手帳を開く癖がないので、一日の予定を確認するのを習慣化するために見落としてはいけませんのよ?」

「うん、まずは鳳蝶(あげは)と一緒に開く癖をつけて行けばいいかな」

「わ、私ですの!?」

「平日なら学校に来れば朝は鳳蝶(あげは)と必ず顔を合わせるからね」

「そ、そうですわね! 毎朝、私たちは一緒になりますものね! で、でもお休みの日はどうしますの!? わ、私は起きた時に顔を合わせる機会なんて」


 確かに彼女の指摘の通りだ。休日であれば顔を合わせる機会が無いのだから、鳳蝶(あげは)と顔を合わせた時に手帳を開くのを癖にするとしたら休みの日に機会がなくなってしまう。

 俺は少し悩んで、


「とりあえずスケジュール帳を手に入れてから考えよう」

「それもそうですわね! 文房具を取り扱っている大きなお店に行って自分で見て探すのが」

「土曜日バイト後かバイト前に鳳蝶(あげは)の都合が合えば、鳳蝶(あげは)の意見を聞きながら一緒に探してくれないか?」

「ひょぇ!?」


 鳳蝶(あげは)の奇妙な声が廊下に嫌に大きく響いて、俺たちに気づいてなかった少し前を歩いていた二年生の女子が振り返って鳳蝶(あげは)を見つけてしまう。


「まあ!」


 彼女らは鳳蝶(あげは)を見つけて、隣に居る俺をみてから、さらに声を上げて小走りで茶道部の部室の扉をくぐっていった。鳳蝶(あげは)はそれに気付かなかったようだ。


「わ、わわ、ど、明日ですの?」

「土日どちらか、無理であれば」

「よ、予定を確認、し、しますわ! 今日の夜、い、いつものように電話しますの!」

「うん、分かったありがとう。お互いの土日の予定確認してからだな」

「ひ、ひえ、しょんなことありませんわ。ではまた夜にっ」


 鳳蝶(あげは)は俺にそう答えてから、茶道部へパタパタと足早に向かう。俺も写真部の部室へ向かうために背を向けた。その背中に鳳蝶(あげは)が開けた扉から黄色の騒がしい色んな人の声があがり、鳳蝶(あげは)のどうされたんですの!? という叫びのような声が混ざり合っていた。



 写真部の部室は今日も部屋の主をそのソファに鎮座させて、静謐な空気に満ちていた。カーテンが開かれ、解き放たれた窓からは運動部の掛け声が遠く響き、それに被せるように吹奏楽部のロングトーンが伸び伸びと踊っている。

 いつも部室に居る時はピンで止めて上がっている彼女の前髪が今日は閉幕したように降りきっている。


「こんにちは」

「やあ」

「今日はパソコン使わせてもらっていいですか?」

「問題ないよ、どうぞ」


 声は硬いように感じたが挨拶はいつもどおりで、彼女はソファの上で今日はスマホと向き合っていた。ノートパソコンを受け取り、起動する。

 いつもの席に座れば、テーブルを挟んでいるが顔をあげると自然とまっすぐ彼女の姿が見える位置だ。何か本を読んでいるのか。時折指が動く。


「な、なんだい?」

「すみません、何でも無いです。今日は特に撮影しにいかなくて大丈夫ですか?」

「ああ、一人だと全くやる気がなかったが、毎日足繁く部活に参加する後輩のおかげで、仕方なしに教師や生徒会からの仕事は片付いたよ」

「それなら良かったです」


 俺はノートパソコンに自分のカメラで撮影した写真を保存するために操作する。彼女は俺がノートパソコンと手元にある俺のカメラを操作していることで何をしているかなんとなく理解したのだろう。

 前髪で目は隠れているが慌てたように声を上げた。


「ちょ、ちょちょ」

「どうかしましたか?」

「な、何をしているんだい?」

「この一週間撮ってきた写真を共有に」

「共有に!?」

「え、写真部の活動した写真は共有フォルダに入れておいて部長も気が向いたら見てくれるんですよね」

「あ、ああ! そ、そうだね。そんなに律儀なのは今のところ君だけだが」

「でも、写真部のインスタには色んな写真上がってますよね。桜とか電車とか」

「ああ、共有フォルダに他の部員が入れていくのを気が向いたら上げてるんだ。彼らは気に入ったのしか送ってこないし、文句は言われない。部室に居てくれれば相談できるんだけれど、部室にあまり長居してくれなくて雑談が多くなって相談まで上手くできないんだよね……。頑張って話しかけてて仲良くなっていっているつもりなのだけれどなぁ」


 彼女は先程の慌てた様子から一転、そんなことを少々寂しそうに言いながら落ち着き払ってスマホをいじる。俺に向けて自身のスマホでインスタを見せた。

 彼女が見せてくれたインスタのアカウントは部活紹介時にも存在を紹介していたし、俺も入部当初に実際にフォローしておくように教えてもらっている。

 フォローしていても更新されるのが俺も部活に参加しているタイミングに部長が作業している時なので、あまり気にしたことはなかった。


「でも、部長の写真はあんまり無いですね」

「わ、私の写真かい?」

「はい、生徒会からの依頼だけじゃない部長が撮った写真がインスタにあんまりないなと」

「え、誰の写真か書いて無いのに私のじゃないかどうかわかるのかい?」

「いくつか部長のぐらいわかりますよ」

「そそ、そうかな?」


 彼女が指先で髪をくるくるしながら、髪で隠れていない口元だけがニヤニヤとしていた。彼女の写真は比較的わかりやすい。彼女がインスタに上げる写真は気合を入れていない物であれば、背の低さから草木の写真について少しだけ位置が低くアングルが見上げる位置が多い。真剣でないという意味ではない。彼女の望んだ写真は、本当に気合を入れる写真とは人を写してこそだった。

 たった一週間、けれど、たくさん共に過ごした時間で彼女に共有されて見せてもらった写真は、この高校の二年間で彼女が自由にわがままに、時に生真面目に学生たちの放課後や学校イベントの一瞬を切り抜いたたくさんの写真だったから。それらの人を写した写真は彼女の手でインスタに上げられることはない。


「朝のこと」


 スマホから顔を上げずに彼女が消え入りそうな声で呟いた言葉に、俺はどう答えようか迷った。答えに迷っているとわかったのか部長はらしくなくスマホをいじってメッセージを送ってくる。


『怒った?』

「別に怒ってないです。グサッと来ただけで」

『怒っているじゃないか』

「写真部の同士がライン上で送り合う内容って何が良いんでしょうね? やっぱり朝みたいな写真ですか」

「……そもそも私と折川君はメッセージを送り合うような仲じゃないだろう」

「送らなくても良いけど、送っても良いですよね」

「……返さないかもしれないよ」


 それはそれで構わないかなと思う。実際に莉念(りねん)とのメッセ上のやり取りは、ほぼ俺が一方的に送る形だ。最初は嫌だったかと思って送るのを減らしたら、莉念(りねん)から「見てるから送って」と言われたので、そういう物だと理解している。

 俺のスマホが通知音を鳴らす。彼女はスマホを見ながらまた、怒った? とスタンプを送ってくる。送り合うような仲じゃないという割に同じ部室にいるところで送ってくるのは何なのか。俺は少しだけ笑って、


「怒ってないので、じゃあ、部長からも何か気楽に送ってください」

「ええ!? どうして!?」

「いや、考えすぎだからですよ。慣れますよ、相手が反応しようがしまいが、送ってくれと言われて毎日送れば慣れました」

「……え? そんな変なことしてるの折川君。友達にメッセージって意味もなく送らないだろう? 学校で顔を合わせるんだよ?」

「部長、重く考えすぎですよ」

「そうかなぁ?」

「嫌だったら、どうせ相手は見なくなるんだろうし」

「え、いや、それは普通に傷つくから、やっぱ嫌。渾身の文章を既読スルーなんて耐えられないのに、さらに未読なのに延々送り続けるのかい? 辛いよ……」

「未読なら送らなきゃ良いじゃないですか。じゃあ、今日の夜からお互い送りましょうお願いします」

「やらないよ!?」

「俺は送るので」

「えぇー」


 彼女はパタパタと床を上履きで叩く。小柄な見た目なのでそういう行動をすると高校生から離れて子供っぽさが強まる。彼女はスマホを見ながら、はぁーとため息をついて、結局了解も拒否も表明しなかった。

 俺はデータの保存を終えると、目ざとくそれを見つけた部長は没収~と口にして、ノートパソコンを自身の手元に奪い取っていく。


「共有写真チェックの時間だよー」

「お願いします」

「はいはい、インスタに上げたいのはあるかな?」

「部長におまかせしますよ」

「そう?」


 それから楽しそうに写真を見ていく部長が気になって、俺はいそいそと部長の近くに椅子を移動させて座る。彼女の横から一緒にノートパソコンを覗き込もうとしたら、手で制止された。ほっそりとした指が俺の顔に振れて力をこめていないがわざとらしく押し留める。


「近いね。禁止だよ」

「何を見てるとか気になるんで」

「女の子の秘密を覗き見るのは犯罪だよ」

「そういう言い方だと犯罪的になるんで辞めてください。なんで俺の撮った写真をチェックするのが秘密扱いになるんですか」

「他人の制作物をチェックする時は、誰にも邪魔されず自由が必要なんだ。他の部員は部室に長いしないから私のチェックを邪魔したことはないよ。ほらほら、離れて」


 結局、俺は元の位置に戻って画面を覗き込む部長をテーブル越しに見ることしか叶わなかった。髪が春の風にゆらゆらと揺れる。小さな手にしなやかな指がマウスを動かし、時折右クリックを押してカチッと音を立てる。その速度はバラバラでどの写真をじっくり見たのか、俺は気になってしまう。

 俺の視線に気づいて部長が顔をあげた。


「そんなに熱く見つめられると困るんだけれど」

「……明日の土曜日と日曜日、俺初バイトなんですけど部長はいるんですか?」

「いきなりなんだい? 明日は居るよ。私が教えることになっているからね。日曜日は母上と鯰江(なまずえ)さんと協力して頑張ってくれたまえ。私は用事がある」

「あれ、そうなんですか?」

「私もさすがに毎週土日を手伝いに費やせるほどバイトに時間を捧げられないよ。君は夜はさておき土日とも開店前の準備から夕方までだろう? 本音を言うと助かるよ、準備に忙しい時間帯だからね」

「そうですか? 俺としてはそこまで入れさせてもらえるので助かります。次のゴールデンウィークも出来たら撮影旅行したいですから、少しでも軍資金を貯めたいです」


 また彼女はパソコンの画面に視線を戻してしまった。


「ゴールデンウィークか。どこに行くか決めているのかい?」

「どれぐらい貯められるかですかね」

「もうとっくに泊まる場所を見つけないと、空いてないだろう」

「そんな立派な観光地に行くつもりは無いんです」

「確かに人が居たらあまり気軽に撮影もできなくなってしまうからね。なら、どこへ行くんだい?」

「そうですねぇ」


 俺が予定しているところを告げると、彼女は納得したように頷いてから、こちらも良いよと伝えてきた。なるほどと俺はメモをしておく。俺は山の方面に行こうとしていたが、彼女の提案だと夏場は海が混むんだからこの時期に海に行くのもありだろうと遊泳とは無縁の場所で観光地としても有名所ではないので規模の小さな宿泊施設か、少し離れたところにあるホテルを利用するぐらいだ。

 今ネットで予約を見ても、値段も他のゴールデンウィーク価格で値上がりはしていない。俺はそこをブックマークしておく。


 どこでどのように撮影するか、スナップショットというよりはポートレートとして考えて計画を立てて準備して楽しむ撮影旅行にしたほうが良いだろう。

 俺はマップ機能を使ったり、地名検索をしてみたりと結局部活時間の終わりまでネットで資料集めを行い続けた。部長もノートパソコンを使い終わったのは、俺と同じく部活時間が終わってからだった。

 こういう何気ない時間を写真として切り取りたいと思ったが、言い出せなかった。それは彼女が昨日言ったことを守るためだ。俺は内心で何度も撮影していいですか? と言い出そうとする自分を抑え続けたのだった。

 帰り道、昨日と同じく部長と一緒に分かれ道まで自転車を押しながら歩いて行く。彼女は俺の話題に気楽に受け答えながら時折笑う。薄暗い道を照らす街灯の光を浴びる彼女は分かれ道にたどり着くと今日は一旦止まってから、俺に気恥ずかしそうに手を振った。


「また明日。バイトで。私も開店前からだから」

「はい、また明日お願いします」


 彼女はそのまま自転車で立ち去り、俺は彼女の背中が見えなくなってから帰りを急いだ。夜の春の空気は朝よりも俺に心地よさを感じさせた。



次話は明日18時更新予定です。

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