第二十話 鳳蝶の写真
先週鳳蝶とのやり取りで話題になったため、月曜日からしばらくはチラチラと見られる事も多かったが、その噂も俺と鳳蝶の距離が噂以上に近いわけでも無いと理解されてからは徐々に減りだしていた。その理由の一つが、俺と鳳蝶が昼を食べる時に放出と唯彩さんを交えて二人きりになることが無いということが大きかったのだろう。
放出は最初は金曜日の噂を部活で聞いて呆れたものだが、俺がどんなふうに思っているか一から十まで休み時間ごとに説明すれば、もう許してくれと納得を見せてくれた。
そうして放出、鳳蝶、唯彩さん、俺の四人で集まり、それぞれ用意した弁当を広げる。一番でかいのは放出の弁当箱だ。部活動前だと、これだと足りないから追加で菓子パンを食べているらしい。さすがだ。
和やかな木曜日の昼が始まってすぐに唯彩さんが口を開く。
「私、昨日バイト行ったんだ。喫茶店のバイトなんだけど」
「おおー、そういや昨日の昼も今日初バイトだからって行ってたな」
「そそ」
「どうでしたの？」
俺と鳳蝶は喫茶店の雰囲気自体は知っていたが、鳳蝶はバイトがどんな内容なのか気になっているようで、放出はどこでバイトしているのか知らないため興味津々だった。唯彩さんも話したいオーラを溜め込みまくったのか、笑顔全開でピースする。
「すっごい楽しかった。私バイトって注文上手く受けれるかとか、すごい不安だったけど、店長もいい人ですっごく楽しかったし！」
「良かったな」
「ほほう、喫茶店なら俺も行ってみるか」
「来てきて！ お金を落としてくれるお客は歓迎だし！ 学生の財布でも優しいよ！ 長時間居すぎたら追い出すけどっ！」
「おいおい、少しはおまけしてくれよ」
「バイト始めたばかりでおまけなんてできるわけないっしょ！」
「そりゃそうだが、有名なチェーン店とは違うのか？」
「うーん、そうだなぁ。大人って感じだったかも？」
「なんだそりゃ。写真見せてくれよ、写真」
「おけおけ！ これこれ～」
唯彩さんがスマホを取り出して、インスタに上げている喫茶店のバイト服の自撮り写真を見せる。キラキラスタンプやら加工しすぎていて、喫茶店の雰囲気が全く違う。
俺は苦笑いして、スマホを取り出して写真を見せる。
土曜日に撮らせてもらった写真だ。飲食店口コミサイトにも写真はあるが、親へバイトの許可を貰うためにどんな店か説明するように写真を撮らせてもらったのだ。丸宮部長から貰わなかったのは、写真が趣味の意地というものだろうか。
「こんな店だよ」
「唯彩ちゃんさぁ、全然ちげーじゃねーか！」
「インスタに上げるからちょっとキラキラ盛っただけじゃん～～～」
「この二枚を見比べて、同じ店だと言うやつ探してこい！」
「放出さぁ、よーく見て？ カップが同じ。同じ店だし！」
「唯彩ちゃんが言ったら意味ねーよ！」
「ふふ、唯彩さんの写真だとまるでクリスマスイルミネーションが施された喫茶店ですわね」
「唯彩さんバイト先の写真は誤解を産まない写真をインスタにはあげてくれよな」
「ひさ君もひどい！？」
放出がスマホの画面を見ながらデートに良いかもなぁと言って、他の写真見ていいか？ と聞かれたの問題ないよと答えて、彼にスマホを渡す。
唯彩さんも俺のスマホを覗き込みながら、あたしの写真と違いすぎー！ と笑っていたところで、
「え？」
唯彩さんの困惑の声と、放出の操作する手が止まってバツの悪そうな表情をしていた。俺は何かあったかな？ と思うと、唯彩さんが放出の手からスマホを取り悩むように俺と鳳蝶に画面を見せた。
「あっ」「ああ」
鳳蝶はびっくりした声を上げ、俺は納得の声を上げた。鳳蝶はまじまじとスマホの画面に写った自分を見る。日曜日に会った時に俺が撮った写真だ。
パクパクと口を動かすだけで言葉にならない唯彩さんに、俺は見たままの内容を伝えた。それに唯彩さんはひどく困惑と慌てた声をする。鳳蝶は何を説明すればいいのかわからないように、あのあのと言い続けている。
「喫茶店で紅茶を飲んでる鳳蝶の写真だね」
「ど、どど、どういうこと！？」
「あのあの」
「土曜日は唯彩さんと繁華街回っただろ？ 日曜日は喫茶店の話題になって、鳳蝶にどこか説明するのに合わせて行ってみたんだ。丸宮部長は日曜日も手伝いなのか、喫茶店にいたんだよね」
「そ、そそそ、そういうことってこと！？」
唯彩さんがとても慌てたように尋ねるが、そういうことってどういうことかわからなくて、俺は首を傾げる。放出に視線をやれば、にっこりと笑って、でかい弁当のおかずをちびちび、しかし箸は動きを止めずに口の中へ間を置かずにどんどんご飯を詰め込んでいく。
「土曜日に唯彩さんとも出かけたし、鳳蝶とも友達だから出かけただけだよ」
「そ、そうですわ。私、お二人がバイトするという喫茶店が気になって、つい」
「そ、そっかー。あたし、びっくりしちゃったし」
「お友達の事が気になってしまって」
「俺としては鳳蝶もバイト先の喫茶店の売上に貢献してくれると嬉しいけどな」
「わ、私ですか！？ け、けれど、私、一緒に行ってくれる人が、思いつきませんの」
唯彩さんがしょんぼりして悲しいことを言う鳳蝶を、うるうるした瞳で抱きしめる。先程一瞬だけ教室さえ覆っていた重い空気は霧散した。
「あたしが一緒に行くよぉ！！」
「いえ、私、行けるとしたらお休みの日なので、唯彩さんはバイト中なのではないですの？」
「そんなの関係ない！」
「関係ありますの……」
そのまま関係ある、関係ないの押し問答をする二人に苦笑いをして、俺は放出に顔を向けると、放出が悩んだ顔をして肩をすくめる。どうしたのか、俺がどうかしたか聞くと、何でもねーよと返されてしまう。
結局昼休憩が終わる頃には、鳳蝶は唯彩さんと一緒に喫茶店に行くし、遊びに行くという約束をしたらしかった。
全員が各々の席に戻り、俺の前の席に着いた鳳蝶に俺は笑いかける。振り向いた鳳蝶は恥ずかしそうにしながらも、躊躇してしまう質の自分を唯彩さんが引っ張って約束をしてくれたことが嬉しそうだった。
「鳳蝶、良かったな」
「もう……、でもお友達と遊びに行けるの時が楽しみですの」
次話は明日18時更新予定です。
【恐れ入りますが、下記をどうかお願いいたします】
「面白そう！」「続きが気になる！」
と少しでも思って頂けたらポイント評価をよろしくお願いします！
評価は画面下の「☆☆☆☆☆」をワンタップ(orクリック)するだけで可能です。
皆さんの応援が執筆の原動力となりますので、何卒よろしくお願いします！
