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切なかったお話。

作者: ソウ マチ

 切なかったお話をさせてください。


つい最近まで杖をついて歩いていました。数年前、急に歩けなくなったのです。

外科、整形外科、内科、循環器科、果ては耳鼻科まで受診しました。どのお医者様も「歩く機能に問題はない。メンタルが原因」そうおっしゃいました。あまりに何度も言われるので、とうとう心療内科を受診した。

メンタルのお医者さまから「薬やカウンセリングで不安感を軽減することはできるが、それらを改善しても歩けるようになる保証はない」そう診断されました。


その頃は仕事が激務な上に職場の人間関係も最悪だったので、不安感を軽減するため治療を受けることにしました。何種類ものお薬をのんで、定期的にカウンセリングを受けました。おかげで自分の考え方のクセを知ることができて無用な被害妄想でしんどい思いをすることがなくなったり、浮き沈みの激しい感情をコントロールできるようになったのは良かったのですけれど、杖がないと歩けない生活は数年続きました。


ここまで書いて思い出した。ちょっと話がそれますけれど、いいですか?


急に歩けなくなったので、ドラッグストアで杖を買いました。おばあちゃんが持っているような花柄の杖です。身長に合わせて杖の長さを調節するためにアジャスターがついてるヤツ。歩けない原因がわからないので不安だし、杖を持つようになったことで傷ついていました。そんな私を見た職場の仲良し女子たちが言ったのは……、


女子1:その杖、カッコわるい。

女子2:もっとお洒落な杖にしたら?

女子3:なんかおばあちゃんみたいよ?

ソウ :こっちは原因不明の歩行困難で悩んでいるのに、ツッコミどころはそこかいっっっ!?

女子123:だってカッコわるいよ!


このまま歩けなくなるんじゃないかと悩んでいたのに、女子たちの空気を読まない意見に笑えてきた。wwあなたたちがそんなに言うなら、お洒落な杖を買いましょう! そしてフランス製の金色の杖と、イギリス製のバラ材でできたこげ茶色の杖を買いました。これで文句はなかろう!? お洒落な杖は大好評で、私がお洒落目的で杖を持っているとカン違いする方が続出しました。いいえお洒落のためではありません。杖がないと歩けないんです。


こうして40代の若さで杖をつく生活が始まりました。何が不便って杖をついてるから手が足りないのですよ! お買い物に行くと片手で杖をついて、もう片方の手でカートを押す。それだけで両手がふさがるのでお財布はカートに置かないといけません。その頃はまだ結婚していたので夫と買い物へ行くと……、


夫:そんな所に財布を置いていたら持っていかれるぞ。手に持っておいたらどうだ?

ソウ:両手が塞がってるのがわからんか?(怒) いったいどの手で持つんだ?(怒) 私は三本も手はないが?(怒)


ちょうどその頃、街のウワサで「ものすごくイケてるおばあちゃんがいる!!」と聞きました。すごくお洒落で素敵で若く見えるらしい。ぜひお友達になりたい! そう思って探してみたら、ワタシのことでした(涙)。 杖をついているので高齢者と間違われたらしい(涙)。 まだ40代ですから!! そりゃあおばあちゃんにしては若く見えるでしょうよ! でもまだおばあちゃんじゃありませんから!! 


この頃ありがたくも辛かったのが、周囲の方々の優しいご親切でした。優しいお気持ちで親切にしてくださるのですから辛いと感じるのはいかがなものかと自分でも思うのですけれど、それでも辛かった。


歩いていて杖を落としたり、手に持っていた荷物を落とすと、通りがかった誰かがさっと拾ってくださるのです。

とても嬉しいですし感謝しているのですけれど、だけど自分で拾いたかった。歩けなくてできないことは助けてほしいけれど、自分でできることは自分でやりたい。拾ってくだされば数秒ですむし、自分で拾うのはずっと時間がかかるけれど、それでも自分でやりたかった。できないことはお願いしますけれど、できることは自分でやりたい。この時の経験から、困っている方を見かけたときは「私がお手伝いしてもいいですか?」そう許可を取ることにしました。自分の判断で勝手に手伝うのではなく、相手の方の許可を得てからお手伝いをするよう気をつけていました。


杖をついても歩けない症状は改善せず、一時は車椅子も覚悟しました。けれども時間が薬とは良く言ったもので、時間が解決してくれました。一進一退を繰り返しながら少しずつ歩けるようになり、数歩だけなら走れるようにまで回復しました! まさか走れるようになるなんて思ってもいなかったので、すごく感謝しています! これをお読みのあなた様は歩いたり走ったりできるのは当たり前だとお考えかもしれませんけれど、すごく幸運なことですよ! ご自身の幸せに気づいてくださいね♪


そんな私がスポーツジムでバイトをするようになった!! なんて素晴らしい!! 神様、仏様、想定外の幸運をありがとうございます!!


そしてつい先日、私はウキウキしながら山道を歩いていました。もちろん杖は持っていません♪ 目的地は吊り橋です。雄大な雪山から流れる雪解け水の美しい真っ青な川にかかる小さな吊り橋を見るために、私は緑に囲まれた遊歩道を歩いていました。なんならスキップもできるぜ! ラッタラッタランラン♪♪♪


スキップしながら進んでゆくと、前方でトラックが立ち往生しているのが見えました。なんだ? どうした? 近づいてみると車椅子の男性が砂利の坂道でスタックしている。砂利でタイヤが滑って進めないらしい。その車椅子が道をふさいでいるのでトラックが進めない。男性は坂道をのぼろうと手でタイヤを押すけれど、砂利でタイヤが空転しています。その辺りは砂利道なので今の場所から抜けられたとしても、またスタックするのは容易に想像できる。


それを見た私は、ものすごく悩みました。以前の気持ちを思い出したからです。自分でできることは自分でやりたい。きっとこの男性も同じ気持ちでしょう。だから一人でここまで来たのだろうし、周囲に助けを求めることもなく無言でタイヤを押している。見ないふりをするのが親切かもしれない。でも……。

私は意を決して男性に近づきました。


ソウ:すみません。お手伝いしてもよいですか?


男性は私を見上げました。おそらく私と同年代と思われる50歳くらいの方です。


男性:ありがとうございます。でも大丈夫です。


そう言って真っ赤な顔でタイヤを押す。大丈夫と言っているのだから、このまま引っ込むのが礼儀だと思う。たぶん女性の私に助けてもらうのは、彼の自尊心が許さないだろう。でも……。


ソウ:お手伝いしたいんです。車椅子を押してもいいですか?


言いながら私は泣きそうでした。自分でやりたい気持ちは痛いほどわかるし、いま私がしているのはいやらしい自己欺瞞かもしれない。それに強い口調で断られたらどうしよう……。だけど勝手に押すことだけはやっちゃいけない。あくまでも男性の意志を尊重して許可を得てから押したい。たぶんこの男性は今まで大丈夫と言いながら自分を鼓舞して生きてきたのでしょう。でも今は大丈夫じゃないと思う。


男性:…………お願いします。


やった! お許しが出た! 私はあわてて車椅子を押します。砂利のぬかるみを抜けて坂道をのぼる。平らなアスファルトの道まで押すと男性が言いました。


男性:もう大丈夫です。助かりました。ありがとうございます。


思わず私は言いました。


ソウ:こちらこそ、ありがとうございます!


男性は振り返って不思議そうな顔で私を見上げました。お礼を言われたのが意外だったみたいです。でもお礼を言ったのは本心です。私はお役に立ちたかったし、許可を得られたおかげでお役に立てた! こちらこそ、ありがとうございます!!


トラックの運転手さんがすれ違いざまに、何度も頭を下げてくださいました。男性からも運転手さんからもお礼を言われた! 嬉しい!!


でもすごく切なかったのです。大丈夫じゃないのに無理して大丈夫と言う方がいると知ってしまったから。

ご自身も大丈夫じゃないとわかっているのに、それでも大丈夫と言うしかない人生を送っていると思うとすごく悲しかった。


誰かに手伝ってもらわないといけない全ての方にお伝えしたいです。私たちがお手伝いを申し出るのは、自分がやりたいからお願いしているのです。だからもし良かったら、お手伝いする許しをください。「そんなにしたいなら、手伝わせてあげてもいいよ♪」そういう気持ちで許可をください。そして堂々と「ボク(わたし)のおかげで役に立てて、君は運が良かったね!」そう思ってください。困ったときはお互いさまです。私も誰かに助けてもらいますし、私がお役に立てるなら喜んでさせていただきます。だから困っているときは「誰か手伝って!」そう言ってほしいです。


大丈夫じゃないのに無理して大丈夫と言うのはやめてください。周りにはお役に立ちたくてウズウズしている人がたくさんいます。その方たちを喜ばせるためにも「誰か手伝って!」そう教えてください。


私は今日もウズウズしています♪ お役に立てれば光栄です☆


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[一言] ええはなしや……(´;ω;`)
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