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八話


「うーん、どうなってるんだろ?」


 ヘクトールさんも来ないのでエメリーさんとの特訓やスレイプニル達との交流、アロスフィアさんに美味しいものを布教することに時間を費やしているのだけど、ここ数日間奇妙な事が起きている。

 いつも裏庭に吐き出される人間や魔物の骨などが一切無い。

 どんなに少なくても魔物の骨の一匹分や二匹分はあるんだけど、全くのゼロが数日間続くのは初めてだ。

 ちょっと聞いてみるか。


「ゴミが数日出てこない、ですか?」


「そうなんですよ。 朝と夕方に見に行ってるんですけど全然見当たらなくて」


「……ああ、もうそんな時期ですか」


「そんな時期?」


 朝食後、エメリーさんを捕まえて訊ねるとそんな言葉が返ってきた。

 時期なんて関係あるのだろうか?

 人と魔物だと習性は違うだろうから、魔物は来なくても人は来るんじゃないだろうか?


「この屋敷が害意のある人や魔物を呑み込むという話はしましたね?」


「はい、まあ大雑把に」


「この屋敷は少し深い林に囲まれていますが、この林の中の木々が出す特殊な花粉が魔物を引き寄せます。 そうする事で魔物が町に向かう事を阻止しているのですが、その効果を利用して傭兵達が魔物を練習がてら狩っているんですよ。 この屋敷に来る暗殺者や盗人もその傭兵達が邪魔で近寄れないので、この時期はゴミも出ないんですよ」


「へー……今さらですけど傭兵なんているんですね」


「ええ。 この世界には魔物が溢れていますからね。 魔物の核である魔石の採取や、魔物や盗賊からの護衛、町が破壊された時は復興の支援、危険な場所にある素材が欲しい時には護衛したり代わりに取りに行ったりと仕事の内容も様々ですが」


「エメリーさんも強いなら傭兵とかやれるんですか?」


「強さだけなら可能ですし、上位の傭兵に位置付けされるでしょうが私は興味がありません。 私の生き甲斐はスフィア様と共に生きることですから」


 誇らしげに胸を張るエメリーさん。

 ぶるんと動いたそれに視線が奪われるのは仕方無い。男の子だもの。


「時期があるってことは割りと定期的なものなんですか?」


「ええ。 およそ半年に一度のペースで傭兵団の新人の訓練や傭兵達の連携の強化の為ですね。 魔物が自分達から攻めてきてくれるので、傭兵達にとっては恰好の狩場なのです。 まあ死んでも自己責任。 勝てそうになくても後ろに回せば勝手に屋敷が呑み込んでくれるので彼等としても責任等はないですし、我々としても何の痛手もありません」


「皆色々考えるんですね。 間違ってこっちに入ってきたりしないんですか?」


「ごくたまに新人の傭兵が入り込んでしまうときはありますが、それで生きて出られるかは本人次第ですね。 運良く屋敷が許可すれば入れますけど、大体は骨にされます」


 うーん……屋敷のプロテクト強すぎるな。

 実際どんな敵でも問題なく呑み込めるんだろうか?


「例えばアロスフィアさんレベルの強さでも屋敷は呑み込めるんですか?」


「いえ、それは無理です。 どう表現しますか……ああ、さっきの傭兵達のランクが分かりやすいですね」


「ランク?」


「はい。 彼等傭兵達には能力に応じて傭兵組合の者達からランクが与えられます。 大雑把な目安ですが、例えば一般人に毛が生えた程度の強さの者がDランクに相当します。 ハルさんもこの辺でしょう」


 なるほど俺は最低ランクか。いやまあそんなもんだよひ弱な一般人だもの。


「そしてある程度の戦闘に慣れ、Dランク相当の魔物を苦もなく倒せるようになってくればCランクに格上げされます。ここらへんの昇格は審査などを行うらしいですね」


 昇格審査か。まあ命懸けの仕事なんだろうし、依頼客からの信頼とかもあるから下手な相手には任せられないよな。


「Cランクに格上げされれば受けられる依頼も一気に増えます。 まぁ人数などを見て色々と決めるようですが、戦闘系の依頼が増え実力が必要になってきます。 ここである程度の実績を積めばBランクへの昇格試験への資格を手に入れます」


「Cになるのは頑張ればいけそうだけど、話を聞くとそのCランクから上がるのが大変そうですね」


「はい。 実際実力が無ければCランクでの活動は難しいでしょう。 このランク帯で安定して依頼を遂行出来て初めて一人前と呼んで差し支えないでしょう」


 ふむふむ。Cランクが所謂一般的な強さの指標と思っておいたほうがいいのか。自分がそれ以下なのだと固く戒めておかねば。自重自重。


「そしてその上のBランクは上級者、戦いに慣れて傭兵組合からも熟練の傭兵として扱われ、仕事のお値段も跳ね上がります。 Bランクに上がれるか上がれないかが傭兵としてやっていけるかどうかのラインでしょうね。 大半の傭兵が生涯このランクで止まります」


 なるほど。人生をかけて辿り着けるランクということか。日本で言えば熟練の職人あたりがこの辺なのかな?

 十分に敬意に値するな。


「そしてその上にあたるAランク。 強さだけで言えば私やヘクトールさんがこの辺に位置しますね。 私の方がヘクトールさんよりも強いですが」


 わぁーお。熟練の傭兵よりも強いらしいですよエメリーさん。それにまだ出会えていないヘクトールさんも。

 そんなに凄い人達だったのか……やべぇな。絶対に怒らせないようにしとこう。


「私達クラスになるとちょっとした兵器のようなものですね。 大半の魔物に負けもしませんし、Aランクだけで集まれば災害級の魔物でもどうにかなるクラスです」


 全然想像つきません。

 災害級の魔物ってなんだろ?鯨みたいなのが襲ってくるとか?

 それを倒せるって普通にヤバいな。

 …………あれ?

 それなら神様すら倒すアロスフィアさんは一体どうなるんだ?

 

「それじゃあアロスフィアさんなんかは何ランクになるんですか?」


「スフィア様は……分類はありませんが無理矢理つけるならSSランクになるでしょう。 戦ってもまず勝てない存在です。 基本的に表に出ないこともあって真の実力を知られていないので、嘗められて暗殺者や盗人なんかが来ますが、本来なら人間なぞ挑もうと思うこと自体烏滸がましいのです」


 あ、ちょっと思い出したようにイラっとしてる。

 エメリーさんはアロスフィアさん第一みたいなところがあるし、主人を嘗められたらさすがに腹立つのかな。


「おっと話が逸れましたね。 あとはAランクの上にSランクがあるのですが、世界中を見ても二十人程度しかいません。 その実力は単独で竜種を屠れるほどです」


 竜種……この世界には竜までいるのか。

 どんなのか見てみたいな。某ラストなファンタジーのバハムー◯とか最高に格好良くて好きなんだが。

 男の子にとって憧れだよ。召還なんて出来たら最高だ。


「竜なんて俺の世界にいなかったから全然想像つかないや」


「彼等は理性的で人間嫌いですからそうそう人前には出てきませんので遭遇することすら稀ですけどね。 話を戻しますが、こういう強さの分類があるのですが、この屋敷に力で押し入ろうと思ったらSランクの力がないと無理です。 私でも下手をすれば呑み込まれるでしょう」


「……無敵の結界じゃないですか。 そんなものによくもまあ飽きずに暗殺者や盗人が入り込んできますね」


 いつも林を抜けて誰か来るんじゃないかとドキドキしていたけど、そんなレベルのお屋敷さんだったのか。

 ここに来た時に通してもらえて良かったよ本当に。


「アロスフィア様を狙う暗殺者はこの国、マルクートと敵対している国がなんとか力を削ぎたい一心で送ってくるんですよ。 この国の王都タヴェルカンを攻めるには海路以外ではこの町を必ず経由しなければなりませんから」


 海路以外では?

 この国の名前も王都の名前もそういえば初めて聞いたけど、どんな位置にあるんだ?

 海路で攻められるってことはこの国は海に接しているのか。あ、忘れてたけど俺が落ちてきたところ海だったな。

 大陸の形とかどうなってるんだろ。


「魔物だけじゃなくて国の動きすら止めるなんてアロスフィアさん凄いんですね」


「ふふん。 そうです、スフィア様は素晴らしくて凄いのです。 そんな方に仕えられる事にハルさんは感謝しなくてはなりませんよ?」


「それは勿論感謝しています。 ただ、普段の姿を見ているとあんまりそんな感じさせないですよね。 自分としては威厳たっぷりより今の付き合いやすい感じが好きですけど」


 最初はバリバリ女王様気質かと思ったけど、正直威圧感のある人は苦手だからアロスフィアさんもエメリーさんも優しくてちょっと茶目っ気があって好感しかない。

 今は客員待遇みたいな感じかもしれないし、まだ見せていない部分もあるんだろうけど、それでも好感を抱くには十分すぎる。


「スフィア様は力で抑えつけたり、権力を振りかざす事を好まれませんからね。 ……それに人から嫌われないというのはあの方にとってはとても貴重な事ですからハルさんはよき話し相手なのです。 どうかこれからもスフィア様と仲良くしてくださいませ」


「それはこちらこそです。 アロスフィアさんとのお喋りは俺も楽しいですからね」


「ふふ、私もハルさんとの話は色々と知らないことが多くて楽しいですよ」


 まただ。

 こう、心臓が止まるんじゃないかと思うほどの綺麗な微笑み。

 うーむ……童貞にはこの笑顔は破壊力が高すぎる。

 これがいわゆる尊死とかに繋がるんじゃなかろうか。

 この世界にいる人達があの二人レベルの外見の人ばっかりだと居心地悪いかもしれん。

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