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七話


 ヘクトールさんが来ない。

 人間だし商人だし何かしらの理由があって来れないのかもしれない。

 普通ならこちらに来れない旨を伝えるのが商人としての信頼を保つためにもやるべきことだと思うけど、この屋敷の特殊性のせいでそれも難しい。

 魔物や害意のある人間からの攻撃を防いでくれる反面そういった部分にデメリットがある。

 仕方無いといえば仕方無いけど期待をさせられている……いや勝手に期待しているだけにちょっと残念だ。


「さぁさぁ、ハルさん! 今日も菓子パンのお時間ですよ! 何にしましょう」


 そんな俺の気持ちなど露知らず、今日もおねだりタイムのアロスフィアさんとエメリーさん。

 まだそれほど時間も経っていないのに残高五十万円近く。

 すでに七十万近く吹っ飛んでいるのである。

 エンゲル係数の高さとこのマーケットアプリのぼったくりお値段がおかしすぎる。

 おかげで機能もどんどん解放されている。

 食べ物関係はほぼすべて解放されており、タイムセールやシーズンセールなどもあってその時期に旬の食材も並ぶようになった。

 こちらの世界は秋のようでオータムセールとして栗や秋刀魚などがアップされている。

 他にも衣類や電化製品まで解放された。

 次に何が解放されるのか気にはなる。


「私には松阪牛の霜降り肉をお願いします」


 主人であるアロスフィアさんとエメリーさんのお願いの値段がダンチになってきてますよ。

 エメリーさんが指差してるそれ百グラムあたり三万ですよ?いやたぶんこのぼったくりマーケットアプリにしてはむしろ安い値段にしてくれてるみたいだけど。

 貴方一人で今回およそ五万くらい使って、アロスフィアさんが三千円。

 まあ俺の金じゃないので言われるがままポチポチと押して購入ボタンを押していく。

 決済を押して届くダンボール。


「うーんまだそんなに経っていないのにもう半額以上使ってるのか……怖い」


「あら、でしたらこれをまた追加しておいてください」


 お小遣い感覚で取り出される白金貨五枚。

 一枚百二十万だったので合計六百万……ゆ、指がふるえるぞ!

 スマホの入金ボックスを呼び出しふるえる手で白金貨を入れる。

 この作業だけ変わってもらえないかな。心臓に悪いわ。

 しかし六百万か……この世界の平均年収とか月収とか分からないけど、どでかい値段だよな。

 …………そういやこのお金って使ったらどこに消えてるんだろ。もしかして消滅?

 おっと待て待て待て待て。この貨幣経済で白金貨とやらを流通させずに消滅させるのは色々とまずいよな?

 このまま使い続ければ多額の貨幣が消えて、世に回らなくなるってことじゃん。


「……アロスフィアさん、エメリーさん。 このままだと経済にダメージを与えるかもしれません」


「え? どういうことです?」


「なんて説明すればいいかな……」


 俺も経済に関して詳しい訳じゃないけど、お金は使うことで世の中を循環している。

 総量が決まっているなかで、循環せずにただお金が消失してしまっていけば世の中を回るお金の総量が減り、結果的に不景気になっていく……という話を伝えてみた。

 たかが個人のお金、と言うにはアロスフィアさんの手持ちのお金が多すぎる。

 貯まっていっているとはいえちゃんと商人相手にお金を使用しているのだからここでもちゃんと循環しているのだ。

 ということを何とか頑張って説明してみた。


「ふぅむ……それは困りましたね。 でも私としてはハルさんのそのお買い物が出来る魔道具を使えなくなるのは困りますし、何かいい案はないでしょうか?」


「まあ、すでに白金貨五枚も突っ込んじゃいましたし、この金額の中でしばらくやりくりするしかないんじゃないですかね?」


「……ハルさん。 そのお金というのは必ずしも貨幣でないといけませんか? 例えば現物、それこそ魔石や宝石、魔物の希少部位を変換するとか」


「うーん、どうなんでしょう? やってみないとなんとも」


 貨幣ではなく現物払いみたいなものだよな?

 んなこと出来るんだろうか?

 あの入金口の形的には無理だろうけど、魔法の世界だしなぁ。


「でしたらこの宝石で試してみましょうか。 正直宝石なんて興味も無いですから持っていても持ち腐れですし」


 そう言って机の引き出しからサファイアのような宝石を取り出すアロスフィアさん。

 宝石の中が光の反射によるものなのか分からないけど、綺麗な蒼い光が揺らいでいる。

 めちゃくちゃお高そうだ。


「すごい綺麗ですけど、勿体無くないですか? 他にも何かあるならそっちの方が」


「いいんですよ。 ほら、使ってみてください」


 押しが強いなアロスフィアさん。

 ……あとでやっぱりなんて言っても無理だからね?

 宝石を受け取り、入金口に近づけると金貨の時と同様に吸い込まれていった。入金口の形の意味よ。


「吸い込まれたって事は現物でも大丈夫みたいですね。 貨幣消失はこれで免れるかな? えっと残高は…………ふぁ?」


 おかしい。残高の桁がおかしい。

 いち、じゅう、ひゃく、せん…………三千万?

 アロスフィアさん?あの宝石なんだったの?

 さっき六百万増えた後だから……二千万以上の宝石っていったい……。


「どうしたんですか? もしかしてあまり価値がありませんでした?」


「い、いえ、むしろ高すぎて引いてます。 めちゃくちゃ大雑把に言えば白金貨二十枚分くらいあるんですけど、本当によかったんですよね? 戻せって言われてもたぶん無理ですよ?」


「構いませんよ。 あの程度いくらでもありますし、思い入れも無いですもの」


 にっこり微笑むアロスフィアさん。

 この人絶対金銭管理を任せちゃダメな人だ。

 今までエメリーさんがやってたんだろうけど、エメリーさんも肉に対しての執着のせいかちょっと怪しいんだよな……。

 しかし二千万超えとは。これ全額使いきるころには命でも買えそうだな。


「これでハルさんが危惧する事態はひとまず解決ですね」


 エメリーさんはそう言うとダンボールから肉を回収して去っていった。

 今は朝の八時だし朝食の片付けしながらアレを焼いて食べるんだろうな。


「最近のエメリーはちょっと楽しそうですね。 私としては嬉しい限りですけど」


「アロスフィアさんも人のこと言えないんじゃ。 その両手の菓子パンのせいで威厳無いです」


「そ、そんな事はありませんよ! 威厳いっぱいです!」


 ふんす、という感じで誤魔化そうとしてるけど、最近のアロスフィアさんは俺の中で美女からポンコツ美女にクラスチェンジしそうになってるからなぁ。可愛いけど。

 ちなみに今日はクリームパン、高級つぶあんぱん、高級苺ジャムパン、BLTサンドイッチ、フルーツ盛り盛りクリームサンド詰め合わせ。

 最後のフルーツ盛り盛りが千五百円と高い。

 これを半日で食べるから血糖値やばそう。


「そう言えば菓子パンばっかりですけど甘い飲み物、ジュースっていうんですけど、そっちは興味あります?」


「じ、ジュースですか!? 気になります!」


 真紅の瞳を期待に爛々と輝かせるアロスフィアさん。

 いやもうアロスフィアちゃんって言いたくなるくらい可愛い。

 そこまで期待されたら良いものを選んであげたくなる。


「うーん……そのラインナップだとカフェオレなんかでもよさそうだけど。 いや、ここは俺のイチオシでいこう」


 この世界に来る前。昔から好きだったメロンオレ。

 果肉入りでメロン要素がとても強いお気に入りだ。

 メロンオレの沼に落としてしんぜよう。

 貴重な俺の一枠、アロスフィアさんにプレゼントしようではないか。


「これをどうぞ」


 早速マーケットアプリで購入して届いた一本。

 特濃!夕張メロンオレ!五百ml果肉入りだ!


「これは……果物のジュースですか? 折角ハルさんが譲ってくださったので頂いてみますね」


 部屋に備えつけのワインセラーに常備してあるグラスを持ってきたアロスフィアさん。

 グラスが二本なのは俺の分か。こういう細かいところに優しさが滲み出てるよ。


「わ……すごい。 果物の甘い香りが強いですね」


 紙パックの開け方はさすがに分からないだろうからと思い、グラスに注ぐ役を任せてもらった。

 濃厚さを思わせる滑らかでとろみのある薄オレンジ色の液体が注がれ、芳醇なメロンの香りが広がる。

 流石はお気に入りの逸品。マーケットアプリを通しているせいか値段が上がった分品質も向上しているような気がする。なんせ値段が普段の四倍だからな。


「では、どうぞ。 楽しんでみてください」


「ありがとう。 いただきますね」


 グラスで軽く乾杯をして口に含む。

 香りが鼻を抜け、下の上に果実の甘味と滑らかなとろみが広がり、液体というよりも半固体とも言えるほどの濃厚なメロンオレが喉を流れていく。

 果物として完成されたようなその果肉も舌や歯で楽しませてくれるのが良いところだ。


「……はぁ……最高に美味しいです」


 蕩けたように甘い声と表情を見せるアロスフィアさん。

 普通にエロいです。性欲と食欲は繋がっているって誰かが言っていた気がするけど、この表情を見ればそう思わずにはいられない。

 

「ほんとにこれはヤバいですね。 俺もこれが好きなんですよ」


「……ハルさんは意地悪です」


「え!? 急になんです?」


 頬をちょっと膨らませて口を尖らせてるアロスフィアさん。とても子供っぽいその表情がとても可愛い。

 拗ねてる子供みたいだ。


「だ、だってこんなに素敵なものを直ぐに教えてくださらないなんて……おかげでこの数日は勿体無い事をしました! 他にも色々と御存知なのでしょう? 私にもっと色々と教えてくださいな」


「……ぉぉぅ。 あ、はい! それはもちろん!」


 ねだるようなその仕草のエロさというか妖艶さというか……とにかく呑み込まれそうになったのを必死に堪え、期待に応える。

 危なかった。下手したら押し倒すところじゃったぞい。

 嫌われる呪いなんてものが無ければこの人傾国の美女になりかねん気がする。

 いや、しかし……いつから呪いを受けているのか分からないけど、そう考えるとまともな人間……というか他人か。他人と話すのって俺が久しぶりになるのかな?

 基本的に俺より強いのにこんなに対等に話してくれるのは優しさ故にだろうか。

 うーん……アロスフィアさんが楽しめるように頑張らないとな。


「ん? どうしたんですか?」


「いや、頑張ってるアロスフィアさんを幸せにしてあげたいなーって思っただけ……はっ、なに口走ってんだ俺」


「あらあら、プロポーズですか? ふふふ、ちょっと気恥ずかしいですね」


 ちょっと頬を赤らめて恥ずかしそうにするアロスフィアさん。

 が、今なら分かる。口元がニヤニヤしている。


「……からかってるでしょ?」


「あ、バレました?」


「バレバレです。 次の買い物無しにしちゃいますよ」


「あー! それは後生ですから! 後生ですから何卒ご勘弁をー!」


 時代劇みたいな事を言いながら泣きのはいるアロスフィアさん。

 女性とこんな感じで親しくするのは初めてだからなんだか楽しいな。

 童貞はこういうところで勘違いしちゃうから自重せねば自重……ぐぬぬぬぬぬ、よし!

 よし!したけどこんな超絶美女二人に囲まれて今後も自重出来るかな俺……ちょっと心配ですよ。

 

突然失礼!

するめさんです!

ここまで読んでいただきありがとうございます。

読んでいただいた方々にお訊ねしたいのですが、今の3000から5000字くらいを目処に作ってるんですけど、長いですかね?それとも短い?

読みづらいようであればちょっと字数とか調整しよっかなーと思ってます。

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