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四話


 この屋敷にやってきて一週間が経過した。

 ゴミ拾いの仕事を貰ったわけだけど、正直そんなに忙しくないだろうなんて思っていたけどそんな事は無かった。

 初日は人の骨をポイっと捨てるだけで終わったし、人間もそんなに頻繁に襲ってくる訳もないだろうと思い込んでいた。

 一週間で捨てた人間の数、十人。

 一週間で捨てた魔物の数、八十匹。

 思っていた以上の頻度で忙しい。

 特に魔物は種類によって骨の数も多く、持ち運びがめっちゃ面倒だった。

 ショッピングカートを運搬に使いだしたんだけど、これが無ければ洒落にならない仕事量になっていたと思う。

 海岸で廃棄しなくてよかった。

 持ってきてくれたエメリーさん様々である。


「今日も大量だな。 ……ん? これは?」


 裏庭に落ちている骨を見てまた色々と攻めてきたんだなぁと思いつつ骨を回収していると、骨の中に気になるものがあった。

 本だ。

 それもかなり凝った作りの装丁で、真っ黒な革のようなものに金細工で複雑な紋様が描かれたデザインがなんとも悪趣味な感じがする。これ結構お高いんじゃないか?

 アロスフィアさんかエメリーさんに聞いてみるか。




「あら、随分と珍しい物を持ってきましたね」


「アロスフィアさんはこれが何か分かるんですか?」


 骨やら要らなそうな物を全部まとめて焼却炉に放り込んで、そのままアロスフィアさんがいる執務室みたいな部屋へやってきた。

 俺が手にした本を見て小さく驚いた表情を見せた。

 なんというか超然とした雰囲気があるから何がきても動じないタイプかと思っていただけに、アロスフィアさんの表情に逆に驚かされる。


「かなり古い魔道書です。 名前は……忘れましたけど、確か私が生まれる以前の物ですから」


 ここでアロスフィアさんいくつー?なんて聞くのは野暮な男のする事だ。

 女性に年齢を尋ねるなんて失礼だからな。

 ……気になるけど。

 見た目は超絶美少女だけど貫禄はまるで魔王のごとく。

 俺なんて一捻りで消されるからな。たぶん。


「じゃあ貴重品保管庫に入れておきますね」


「あ、待ってください。 それはハルさんにお渡しします」


「え? 貴重なものじゃないんですか? 俺こういうの貰っても価値が理解できないから持ってても意味ないんじゃ?」


「その本は所有者の心を読み取り武器として具現化させる魔道書だった筈です。 まだこの世界に来て間もないハルさんの身を護る為の物も必要ですし丁度良かったです」


「と言われても……戦うなんて向いてないですし、それならアロスフィアさんかエメリーさんが使った方がいいんじゃないですか?」


「うふふふふ。 私は今更武器なんて持ってもあまり意味は無いですし、エメリーは専用の物を持っていますから」


 とても意味深な笑みと言葉をはくアロスフィアさん。

 言葉の端々から強者のオーラというか雰囲気が漏れてますよ。

 うーん……武器が必要ない強さってどんなもんなのか想像もつかんな。


「分かりました、いただきます。 ちなみにどうやって使うんですか?」


「魔道書がハルさんを認めれば勝手に話しかけてくるので、とりあえず携帯していればよかった……はずです。 なにぶん古い記憶ですから」


「……勝手に話しかけてくるってちょっと怖いですね。 でも分かりました。 引き続き仕事に戻ります」


「はい、頑張ってください。 あ、どんな武器が具現化するのかちょっと楽しみなので使えるようになったら教えてくださいね」


 最後に笑顔でそう付け加えるアロスフィアさん。

 俺もちょっと楽しみであります。

 男の子だからな。ちょっとした中二心をくすぐられてしまうのも仕方無い。

 装丁は悪趣味な感じだし、禍々しい感じの武器とかだろうか?楽しみだ。


「ハルさんはここの生活には慣れてきましたか? 色々と違っている部分もあるでしょうから戸惑うことも多いでしょう?」


「慣れないことは多いですけど、その分新鮮で楽しいですよ。 不満がない訳ではないですけど、それも別に呑み込める範囲ですし」


「あら、何かありましたら言ってくだされば改善いたしますよ?」


「あー…………料理がなんというか、馴染まない? 感じです」


 最初に浜辺に落とされた時の生活と比べたら遥かにマシなのでいいんだけど、現代のジャンクな食事だったり調味料をしっかり使った食事に慣れている身としては今食べているものが今一つ物足りなく感じてしまう。

 出てくるのが果実や野菜、肉を焼いて塩をふっただけの物だったり。

 あ、ワインらしきものは中々美味しかった。


「あらあら。 ハルさんの世界ではどういったものを食べていたのかしら?」


「説明が難しいんですよね。 俺がいた世界ってなんというか……争いが減って欲望を満たすために技術が発展したような世界で。 食事なんかも味を追求したり、利便性を追求したりと様々だったんですよ」


 手軽で美味しいファミレスだったり味を追求した高級店だったり差も激しいしな。

 個人的にはファミレスが好きだったし、自分で料理を作るのも好きだった。

 この世界じゃ元の世界の食物なんかは手に入らないんだよなぁ。

 ネットで頼むベーコンとかチョコとかめっちゃ好きだったんだけど。

 特に北海道産の鮭とばとか干した貝柱とか珍味は最高だった。


『深層願望を読み込みました。 最適化した物を具現化します』


「はっ?」


 魔道書が突然言葉を発した。

 アロスフィアさんも驚いた様子で魔道書を見つめている。

 深層願望ってなに?

 俺が心の奥底で求めてるものが具現化するの?ちょっと恥ずかしいんだけど。


『解析完了。 具現化します』


 魔道書が開き、輝いたかと思うと出てきたのは一台のスマホ。

 ……………………スマホである。


「なんて空気を読まないんだ。 ファンタジーぶち壊しじゃないか」


 スマホを拾い上げ、電源を入れてホーム画面を開くと入っているアプリはマーケットアプリのみ。

 電話機能なんて勿論ない。

 マーケットアプリを開くと項目がいくつかあるがロックがかかっており、使えるのは食材の欄のみだ。

 しかも食材もかなり限定的で選べるのは肉と調味料、ちょっとしたお菓子やパンだけだ。


「残高はゼロって何も買えないじゃないか」


「あのう? ハルさんが持っているそれは何なんですか?」


「あ、すいません。 いきなり見ても分からないですよね。 んー……俺がいた世界ではこれ一台で本当に色んな事が出来るものだったんですよ。 遠く離れた人と話したり、物を買ったり音楽を聴いたりゲームをしたり本を読んだり。 生活の万能機とでも言えばいいのかな?」


「まあ、凄い! 是非とも見てみたいわ!」


「期待させて申し訳ないんですけど、ほとんどの機能が制限されてますね。 使えそうな機能もお金が入ってないので実質使えないです」


「そんなぁ……」


 とても残念そうなアロスフィアさん。

 俺も残念です。どうすればお金をチャージ出来るんだろうか?

 元の世界と繋がってるわけじゃないだろうから、向こうの世界の貨幣って訳じゃないと思うけど、こっちの世界で電子マネーのチャージってどうなの?

 どっかにヘルプとかないかな?

 適当にフリックしていると、入金ボックスというパネルが表示されたので押してみると画面に貯金箱にあるような入金口が現れた。

 もしかしてここにお金を入れろって事だろうか?


「アロスフィアさん。 ねだるようでとても言いにくいんですけど、お金を貰えないですか?」


「構いませんよ。 えっと……あ、ありました。 白金貨しかありませんでしたけど、これでよろしいかしら?」


「ありがとうございます。 えっと、ここに……うわっ、呑み込んだ」


 入金口に貰った白金貨とやらを近づけると音もなく吸い込まれていった。

 不気味な光景だな。

 アロスフィアさんも興味深そうに覗き込んでいる。

 再びさっきのマーケットアプリを開くと残高がチャージされていた。

 百二十万円とはまた………………百二十万円!?


「え!? さっきのコインってそんなに高いんですか!? なんかごめんなさい!」


「そんな大したものではありませんよ? あんなもの地下に大量に溜め込んでいますもの」


 えぇぇ……この世界の貨幣流通阻害してない?

 いやまあアロスフィアさんからは金持ちの匂いがプンプンしてはいたけど……恐るべし。

 最初の買い物はアロスフィアさんの喜ぶものにしよう。


「えっと……アロスフィアさんは甘いものとか食べられますか? お菓子とか」


「お菓子ですか。 うーん……あまり食べたことはないですね」


「この世界だとどんなのがあるんですか?」


「一般的なのは堅焼きとか、蜜パンかしら?」


 アロスフィアさんの言うお菓子が全く想像出来ん。

 いや蜜パンはなんとなく分かる。堅焼きってなんだ?煎餅か?

 しかしそれほど凝ったものは無いというこでいいのかな?

 だとしたら最初にこれを選んでみるか。


「そういや選んだとしてどうやって届くんだこれ? まあやってみるか」


 選んだのはチョココロネ。

 いや別に俺が食べたかったとかそんな意図は無い……いやごめんうそ。普通に食べたかった。

 お値段一個三百円となかなかの高さだけど、映っていた写真がそれはまあ美味しそうだったんだもの。

 説明文に生クリームとチョコクリームのハーモニーとかふわサク食感がたまらないとか書いてあったんだもの。

 エメリーさんの分も合わせて三個購入し、決済部分をタッチ。


「さて、どうなるか……おわっ!?」


 二人で端末画面を覗き込んでいたら五秒もしないうちに目の前の空間が歪み、軽い破裂音と共に無地の小さい段ボール箱が現れた。

 現れた瞬間にアロスフィアさんが俺を抱き抱えて一瞬にして後方に飛び退き不思議な魔方陣を展開したのだけど、一連の流れが全く分からなかった。気付けばこの状態である。


「……敵襲などでは無いようですね」


「たぶんあれはこの端末のせいです。 中身を確認しますね」


 ダンボールを開けると中にはこれまた無地の透明な袋に包まれたチョココロネちゃん。

 実に美味しそうだ。


「アロスフィアさんのお金で俺の世界のお菓子が買えましたよ! 是非食べてみてください!」


 包装してある袋を外し、アロスフィアさんに渡す。

 説明文の通り外側はサクッとした手触りで生地の香りも良く、穴から覗く生クリームとチョコクリームが滑らかで艶やかな光沢を放っている。


「……じ、じゃあ一口頂くわね」


 おそるおそるといった様子で小さな口を開けてチョコのついた側から一口。

 固まったチョコが割れるパリパリとした音と生地を噛みしめるサクッとした音がとても食欲を掻き立てられる。

 きっと今頃はクリームが口の中一杯に広がってるはずだ。


「~~~~~!」


 アロスフィアさんの普段は落ち着いた女性の雰囲気が崩れ、まるで少女のように眼を輝かせる姿がそこにあった。

 ヤバい……これはめちゃくちゃ可愛すぎる。

 心臓がひどくおかしな動きをしている気がする。


「お、美味しいです! 何ですかこれ!? ハルさんの世界ではこんな美味しいものを食べているんですか!?」


「……あっ、はい! そうですね。 金さえ出せば他にも色んな美味しいものが食べられますよ」


「なんて素晴らしい……羨ましいです!」


 まるで少女のようなその姿があまりにも可愛らしすぎて、尊死しそうなんだが。

 尊死ってなんだよって昔は思ってたけど、これはあれだな。不整脈で死ぬやつだな、間違いない。

 一瞬にしてペロリと平らげたアロスフィアさんは残りの二つをジッと見つめている。


「これはアロスフィアさんのお金で買ったものですからね。 どうぞ食べてください」


「いいの!? ありがとう!」


 普段の落ち着いた淑女然とした様子が消え、一人の少女がそこにいた。

 この姿を見せて貰えるならチョココロネの一つや二つや三つ、どんと来いである。俺の金じゃないけど。

 両手にチョココロネを持って喜ぶ超美少女。

 ……最高だな。これだけでご飯五杯はいける。


「……ん? あれ、これって次に使えるまでクールタイムみたいなのがあるのか。 次の使用可能時間は十二時間、半日か。 結構長いな」


 まあ仕様なら仕方無い。

 アロスフィアさんが大金を入れてくれたし次は何にしようか悩むなぁ。


「……私を差し置いて美味しいものを食べるなんて酷いですね」


 背後でなんとも言えない表情をしたエメリーさんが食べ終わって満足そうなアロスフィアさんを見ている。

 いつの間にやってきたんだ。気配もなにも感じなかった。いやもともと気配なんて分からないんだけどね。

 

「え? ちゃんとエメリーさんの分も……あ、エメリーさんの分も食べちゃったんだ。 俺もついついアロスフィアさんが可愛くて気付かなかった」


 両手にチョココロネの姿を見て何の疑問も抱いてなかったわ。

 ただひたすらに可愛いとしか思ってなかった。


「……私の分はもう無いんですか?」


 一気に悲しそうな表情に変わるエメリーさん。

 なんというか不憫可愛い。


「いや、ちゃんとありますよ……半日かかりますけど」


「はん、にち……長い」


 こればっかりはどうしようもないからなぁ。

 ごめんねエメリーさん。

 上機嫌なアロスフィアさんと悲しむエメリーさん。

 対照的な二人の様子に思わず笑ってしまい、エメリーさんから拳骨を一つ貰うことになった。

 反省。

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