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三十話


「はぁー……さびしい」


 時間は深夜。

 冷たい石造りの牢屋の中で一人、ぼんやりとしている。

 幸い毛布とかが無くても過ごしやすい程度の室温で、めちゃくちゃ硬いけどベッドもある。

 トイレが壺であること以外はまあ耐えられる。

 というかこんな小さな壺でトイレ難しくない?

 いやこんな事を言うの何だけど、大抵の男ってうん◯する時ってしっこも出ちゃうのよ。

 目標地点が狭いとチンチンを思いっきり後ろに回さないといけない。しっことうん◯を同時に発する。

 とても危険な任務だ。うまくいけばいいが下手をしたら衝突して拡散。連携プレイが鍵となるのだ。

 これも一種の修行なのだろうか?

 

 いやそもそもなぜこんなことになっているのか。


 ニゲル達に襲われたあと。

 結界から無事に外に出ることが出来、衛兵達を呼んで彼らの後始末をお願いしたのだが。

 本来なら暴行罪でニゲルやその一味がぶちこまれるはずだったのに、アルメテルさんやリフェルは教会関係者だからか普通に解放されてヘクトールさんは調書を取られ、その間に俺はなぜかあれよあれよという間に牢屋に入れられた。

 貴族に暴行を働いた罪だそうだ。

 いや被害者なのになんでだよ。


 ニゲル達がどうなったのかは分からない。

 結構な重傷を負わされた連中がほとんどだし動けないだろうけど、彼等も俺と似たような状況……であってほしい。

 この町がどれだけ大きいかはまだ知らないけど、犯罪者をまとめておく施設がそうたくさんあるとは思えない。

 入れられるなら俺と同じところに暴行を働いた連中も入れられそうだけど、今のところそれらしい様子がない。

 ……もしかして連中は無罪放免で捕まっていない?

 それとも重傷だから捕縛より治療を優先して別の場所に収監されたのかな?


「我が主、戻りました」


 女を……いや男ですらその耳や心を揺さぶられてしまう渋い声を持つ悪魔……うちのアルベド萬太郎くんである。

 悪魔形態だと人に迷惑がかかるので、姿を変えられるか聞いたら萬太郎くんは人間形態、悪魔形態、もふもふ形態になれるらしい。

 マーケットアプリさんはそういう詳細もちゃんと書いておいてほしい。

 もしかして喋らないだけで田中さんと佐藤さんも人間形態になれるのだろうか?

 今はもふもふ形態で動いてもらっていたのだが、見た目は完全にシマエナガである。

 渋い声の真っ白なシマエナガ……いや可愛いっちゃ可愛いんだけどね。

 真っ白な羽毛にまんまるとした身体。

 ふつうのシマエナガのサイズは知らないけど、萬太郎くんは直径五十センチくらいとまあまあ大きい。

 つぶらな瞳もチャーミングだ。

 出来れば抱っこして寝たい。

 

「どうだった萬太郎くん」


「やはり牢の中に主に敵対していた者はいませんでした。 念のため外に出てニゲルなるものを探しましたが、どうも自身の屋敷へと戻っているようですね」


「……アレだけぼっこぼこにされたんだし療養は必要だろうけど、なんで捕まってないんだろうね。 貴族の特権てやつかな」


「いつの世も、どの世界でも権力というものは厄介ですね。 権力を正しく使えるものがこの世界にいったいどれだけいるのか」


 シマエナガの姿でめちゃくちゃいい声で何か深いこと言われると脳がパニックになりそうなんだけど。

 でも権力を正しく使うって大事だよな。

 立場次第っていうのもあるけど、俺はまず無理だ。


「無理に脱走すると立場が悪くなりそうだからしないけど、いざとなったら脱け出せそうかな?」


「それは勿論。 私も、ルベドやニグレドでもこの程度の場所から主を出すなど容易な事です」


 すごい自信満々だな萬太郎くん。

 悪魔形態を知ってるから出来るだろうなぁとは思うけど、もしシマエナガ形態しか知らなかったら正直信じられんよ。

 可愛いもん。


「そっか。 ならいざという時は頼りにしてるよ」


「御意。 もう少し情報収集に動きます。 あまり騒動を起こさず争いを鎮圧したい時にはルベドを人型形態でお呼びください。 彼女は穏便な鎮圧にとても適していますから」


「え、そうなの? ……分かった。 その時は頼りにするよ」


 萬太郎くんはそう言うとまた去っていった。

 しかしルベド佐藤さん……彼女って事は女性なの?

 あんな毒々しいカエルが人型になったらどんな姿になるんだろうか。

 穏便に鎮圧出来るって事は穏やかで優しい性格なのかな?

 田中さんが全然喋らないから皆そんなもんなんだと思ってたけど、ちゃんと呼んでコミュニケーション取っておけば良かった。


「おい、兄ちゃん。 誰と話してんだ? この牢屋には俺と兄ちゃんの二人だけしか入ってない筈だがな」


「え? あ、いや……何でもないです」


 気を抜いていたから突然話しかけられて心臓が飛び出そうなくらいビビってしまった。

 めちゃくちゃドスの効いたヤクザみたいな声だ。


「なんでもないわけないだろ。 少ししか聞こえなかったが、兄ちゃんを脱け出させるなんて容易ってのだけは聞こえたぜ」


 肝心な部分が聞こえちゃってるじゃねぇか。

 誤魔化せないじゃん。 


「あー……仲間がここに忍び込んできたんですよ。 出たいなら直ぐに出せるって言われただけです」


「へー。 もし出るんなら俺もついでに出してくれよ。 もう長いこと捕まっててな。 出してもらえなさそうだし、かといって出る方法もないから困ってたんだよ」


「はあ……何か悪いことしたんですか?」


「おう、俺の娘を探しに来たんだが色々あってな。 この町にいるって聞いたんだがどうも見つからない上に時間も無いし金も無いしでなー。 食い逃げしたら速攻で捕まってぶちこまれたんだよあっはっはっ!」


「普通に悪いことしたんじゃないですか。 反省してください」


「いやでもなぁ。 食い逃げで本来なら一週間の勾留と罰金だけの予定だったのにもう二週間放置されてんだよ」


 ……それは……なんとも言えんな。

 確かに予定より長くぶちこまれるとか困るもんな。

 いやでもここに勾留されていてもご飯とかちゃんと出てくるし、忘れられてるって事はないと思うんだけど。


「忘れられるなんてことあるんですか?」


「どうなんだろうなぁ。 ちなみにもう三日くらい飯も来てねーんだよ」


「忘れられてるじゃないか!?」


 思わず突っ込んでしまった!

 え、そんな事ある?

 どんな管理体制だったらそんな事になるんだ?

 いやそもそもこの国の犯罪者に対する扱いなんて知らんからなんとも言えないけど、忘れられるとかそんなことされたら死んじゃうじゃん。


「やっぱりそう思うよな? 食い逃げで忘れられて獄中死ってのも笑えるよな! はっはっはっは!」


「いや笑えませんから。 次にご飯が届けられた時に聞いてみましょうか」


「おう、それだけでも助かるぜ。 三日も食わないと腹も減って身体がキツくてな。 壺の中身に手を出すかちょっと考え始めてたんだ」


 笑ってるけど壺の中身って事は……いやいや、流石にそれは可哀想すぎる。

 幸いスマホは取られてないから、マーケットアプリでご飯出してあげよう。

 匂いが強いと警備の人にバレるかもしれないからパンとかにしといた方がいいか?


「ちょっと待っててください」


 さてさて、何を出すか。

 俺もご飯少ないから腹減ってたし、そこそこお腹に溜まって美味しいやつがいいな。

 でもパンってお腹膨れないんだよな。満足感が無いというかお米に比べて食べた気がしないというか。

 まあこんな状況だし、パンでいいか。

 んー……よし、たっぷり玉子サンドにするか。

 あとお茶。

 あ、でもこれどうやって相手に届けよう。

 佐藤さんや田中さんだと警戒されるよな。

 いや、人型なら争いを起こさずに鎮圧出来るっていう佐藤さんにお願いしてみるか。


 ストックから佐藤さんを選択し呼び出す。

 田中さんを呼び出した時とはまた種類の違う赤い魔方陣が現れ、その中心から毒々しい程に赤い色をした佐藤さんが現れる。

 ……一応メスなんだよな。

 カエルに詳しくはないけど、トゥイッターで見たツノガエルとかいうのにそっくりなんだよな。

 まるまるムチムチでもっちゃりした感じがなんとも可愛い。

 お肌はトウルットゥルで艶やかだ。


「佐藤さん。 萬太郎くんが言ってたけど人型になれるって本当?」


「…………うん」


 喋った!

 喋ったよこの子!

 しかも声がなんか可愛い子供みたいな声してる!


「じ、じゃあお願いなんだけど、この牢にいるもう一人の人にこの食事持っていってくれないかな?」


「わかった。 あとわたしにもそれちょうだい」


「あ、はい」


 なんか舌足らずな感じで可愛いカエルが喋るの凄くキュンと来るな。

 玉子サンドを追加で五個ほど追加して購入。

 決済を押してダンボールが現れる。


「じゃあこれをお願い」


「まかせて。 よいしょ」


 牢の外にでた佐藤さんが一瞬輝き、目の前に一人の幼女が姿を現した。

 炎のような真っ赤な髪をツインテールにした幼女。

 幼い顔立ちで少し眠たそうな目付きにこれまた炎のような眼の色。

 身長は百四十ないくらいで、赤と黒を基調としたゴシック調のドレスに身を纏っている。

 結論。可愛い。


「……はっ! 見惚れてしまった。 これをお願い」


「うん。 いってくる」


 両手に玉子サンドとお茶を抱えて走る幼女。

 なんだろうこの庇護欲をそそられる生き物は。

 可愛いにも程がある。


「はい、これ。 たべろ」


「うぉっ!? なんだ嬢ちゃん、どっから来た!?」


「あるじのめぐみだ。 さっさとくえじじぃ」


「嬢ちゃん口悪ぃな!? いやでも助かったぜ……ってなんだこりゃ!? うめぇぞ!」


「だまれ。 そしてかんしゃしろ」


 あらー……毒舌幼女だったかぁ。

 いやまあ可愛いからいいけど。

 あ、走って戻ってきた。

 小走りな感じがとてもいい。

 …………とてもいいんだけど萬太郎くんは佐藤さんもここを余裕で脱け出させられるって言ってたよな。

 穏便に鎮圧出来るとも。

 こんな幼女が。

 戦闘力が田中さんと同じぐらいなのか別の能力で凄いのか分からないけど、この子も命令する時は気をつけないと大変なことになりそうだな。

 一度カエルに戻り、また人型化して牢に入ってきたと思うと突然膝の上に座ってきた。


「あるじ、ごはんよこせ」


「え? あぁ、はいはい」


 パッケージを剥がし、口元に持っていくと嬉しそうにパクつき始めた。

 見た目が可愛いからか、どうもこう……擽られるものがあるな。

 なんというか娘といった感じだ。

 こういう場所じゃなければとことん可愛がりたくなるんだが。


「ぶへー。 おう嬢ちゃん! ありがとよ、うまかったぜ! 今の嬢ちゃんは兄ちゃんの仲間か? 助かったぜ!」


「どういたしまして。 俺の仲間です」


「おう! ところで腹減っててそっちに気を取られてたんだが、嬢ちゃん牢ぶっ壊しちまってんだが。 もう俺はこのまま脱獄するが、兄ちゃんはどうすんだ?」


「え? 壊した? 牢を?」


「おう。 音もなく牢の柱が消滅したぞ」


 何してんの佐藤さん。

 という抗議の意味を込めた視線を膝の上に座る佐藤さんに向けたら凄く誇らしそうにしてる。

 これ教育的に怒った方がいいのかな?

 でもおっちゃん(仮称)的にも良かったのか分からん。


「そ、そうですか。 俺はとりあえずまだ様子見です。 逃げるのならどうぞ」


 今はまだ変に動いて状況を混乱させたくないしな。

 アルメテルさんやヘクトールさん辺りがちゃんと動いてくれているだろうし待ちだ。

 ペタペタと素足で石畳を歩く音が聞こえたかと思うと、一人の男性が姿を現した。


「そうか。 飯貰って脱獄まで手伝って貰って助かったぜ。 ありがとな兄ちゃん。 俺はルーリー・エスカフィール。 あんたの名前は?」


「………………ハルです」


 一瞬返事につまってしまった。

 知り合いでは無いし見たこともない。

 けどなんだか既視感を覚えるこのおっちゃん。

 浅黒い肌にやや黒ずんだ栗毛色の髪。

 服の上からでもしっかりと鍛えているのが分かる肉体。

 豪放磊落という言葉がよく似合う。


 



 このおっちゃん……ルーリーさんとの出会いがまさかあんな結末を迎えることになるとはこの時は微塵も思っていなかった。

首と腰の調子が戻るまではしばらく更新ゆっくりかも!

ごめんねー!

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